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外伝 Ⅺ ある妹亜屍族の即死魔法⑤

【ご予約お願いします】

『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本12巻発売!!


7月9日発売です!


挿絵(By みてみん)

 交換留学が始まって、5日が経った。


 たった5日だが、すでに文化的ギャップに驚かされてばかりだ。


 1つ。何かと集団で飯を食べさせようとする。


 寮での食事、学校での食事――ともに何かと集まって食事をしようとする。


 友達や家族ならわかるけど、なんで他人と一緒に食事するのか私には理解不能だ。


 魔族であれば、たちまち食料を巡って争いになることだろう。


 2つ。時間に正確。


 身体に時計でも持っているのかと思うぐらい、人類は時刻に正確だ。

 どんなに素行の悪い生徒でも、必ず定時の1時間前後には教室の席に座っている。


 3つ。建物の中に入るとき、靴を脱ぐ。


 衛生上の理由というのはわかるが、これがまた驚いた。

 しかも、靴箱に施錠することもできない。

 これなら盗み放題である。


 他にもいろいろ言いたいことがあるが、話し始めたら目眩がしそうだ。


 それでも、私は学校生活をそつなくこなしていた。


「ん?」


 靴箱を開けると、手紙が入っていた。


「うお! カプコっち、やるぅ。ラブレターっしょ、それ!」


 朝からハイテンションのルーディーが目を輝かせる。

 入学5日目にして、独自の制服の着崩し方を見つけたらしい。

 細いタイを緩め、胸の辺りを大胆にはだけさせていた。


 どうやら、すでに部屋に何人か連れ込んだようだ。

 香水で誤魔化しているが、人類の男の汗の臭いがする。

 サキュバス族の義務というか、本能なので私が咎める筋合いはないのだけど、せめて水浴びぐらいしてきてほしいものだ。


「そんないいものじゃないわよ」


 ラブレターどころか、封筒すらない――ペラ1枚の紙を見せる。

 紙だって割と貴重なのに、そこには殴り書きで「魔族野郎、失せろ!」と書かれていた。


「うわあ……。気合い入ってんねえ」


「ええ。やってることは陰湿だけどね」


 上履きを逆さにすると、棘のついた植物の種子らしきものが大量に出てくる。


 まったく何が楽しいのやら。

 私たちが目障りなら直接言えばいい。

 なんなら魔族弁務局に抗議すればいいのだ。


 まあ――向こうも私たちを押し付けられた(ヽヽヽヽヽヽヽ)側の立場なのは、重々承知している。


 大人は子どもの意志なんて関係なく、決めてしまう。

 だから子どもも遠慮して、こうした陰湿な手段を取るしかないのだろう。


 やれやれである。


「あなたたちは大丈夫」


「うちはなんともない。たぶんダーリンたちが守ってくれてるだと思う」


 ルーディーにはすでに立派な下僕――もとい男友達がいる。

 すでに公然の事実となっていて、フランジア貴族院に広まっていた。

 寝取られたほうの女性からすれば、憤懣やるかたないだろうが、男による暴力という仕返し恐れて何もできないらしい。


「ガーコは? あれから何か意地悪なことされてない?」


「ふが……」


 ガーコは小さく首を振る。


 ガーコの場合は、たぶん1日目の出来事があまりに鮮烈だったのだろう。

 それが幸か不幸か抑止力になったのである。


 そして、生徒たちの数々の不満は、私に向けられているわけだ。


 きっと私が1番人畜無害で、攻撃しやすいと考えているのだろう。


「カプコっち、大丈夫? ダーリンにビシッと言ってもらおうか?」


「大丈夫。あまり波風立たせたくないし。ただこのままだと、いずれ大きなことに発展しそうだから、担任か、いっそ弁務局のアリーテに相談するわ」


 人類側との摩擦は、魔族側でも織り込み済みだ。


 弁務局のアリーテからも、些細なことでも何かあれば相談するようにと言われていた。


 しかし、こうしたことは続いた。


 講堂に行くと、私がいつも座る席に落書きがされていた。

 そこには魔族を揶揄するような言葉が並べられている。


 さらにある日において――――。


 ガシャンッ!


 突然、私の頭の上に植木鉢が落ちてきた。

 幸い私に怪我はない。

 不幸なのは、植木鉢に植えられていた山茶花である。


「あら。ごめんあそばせ。つい――――」


 上を見ると、手すりから身を乗り出し、女子生徒がクスクスと笑っていた


 腰近くまで伸びた栗色の髪に、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳。

 白い肌、整った鼻梁、形の良い唇――それら如何にも貴族のお嬢様らしく、気品があり、魔族の私にはない華やかさを感じる。


 白を貴重としたフランジア貴族院の制服も似合っていて、まるで彼女に着てもらうために、制服をあつらえたかのようだった。


 私は闇なら、まさに向こうは光。


 しかし、私を見下ろす瞳の輝きは卑しく輝き、蛇蝎の如く目を細め、口の端を歪めている。


 名前は確かオルティア・フォン・リュゼル。

 リュゼル侯爵家の令嬢だ。


 どうやら、私は――いや、私たちはこのオルティア嬢にとって目障りな存在らしい。


 それは初日からわかっていた。

 例のガーコに足を出した男子。

 その男子がときどき目線を向けていたのが、オルティアだったのだ。


 こうした連携は、私たちがやってくる前に作られたものだろう。


 言わば、オルティアこそ教室の中心――つまり、王様なのだ。


「大丈夫でして?」


「ええ。あなたこそ大丈夫? せっかくの山茶花なのに」


「ご心配なく。ああ。でも、謝ってもらおうかしら」


「謝る?」


「だって、あなたは無傷で、植木鉢は割れて、山茶花が台無しになってしまった。これはあなたが石頭だからじゃなくて?」


「傷はないけど、結構痛かったんですが……」


「そう。でも、山茶花はもっと大変よ。さあ、謝って」


 オルティアは少し声に力を入れる。


 幸か不幸か、周りにルーディーやガーコはいない。

 というより、いない今を狙われたのだろう。

 いたらきっと理不尽な要求をするオルティア嬢は、首を捻られて即死していたかもしれない。


 彼女はまだ魔族の怖さを知らないのだ。


 そう思うと、少し哀れに思えた。


 まさに井戸の中の蛙――である。


「モウシワケアリマセンデシタ」


「ふん。……まあ、いいわ。許してあげる」


 オルティアは勝ち誇るように笑うと、取り巻きの女性陣を引き連れて奥の廊下へと消えていった。


 ひとまず一難去って、私はホッと息を吐く。

 とりま、廊下にぶちまけられた山茶花と割れた植木鉢の破片を拾い上げる。

 道行く生徒たちはただ横目で見るだけだったが、不意に植木鉢の破片を持ち上げる指が、横から伸びてきた。


 顔を上げると、アリーテだった。


「何も言ってこないところをみると、特に問題なく学生生活を送れているかと思えば、そうでもないようですね」


「見ていたのですか?」


「相談しろ、と言いましたよね、わたくし」


「報告するところだったんです」


 私たちは淡々と植木鉢を片付ける。


「……そうですか。それにしても随分と大人しいですね」


「向こうでは日常茶飯事ですので」


「なら、なんでやり返さないんですか?」


「相手は人類です。それぐらいの分別はわきまえてるつもりです」


「お兄様に似て、理性的で助かります。兄妹だからですか?」


 兄が理性的なんて、初めて聞いた。


 むしろ家での兄は、直上的な性格に見えた。


「それに、リュゼル侯爵家は相手に回すと少々厄介な相手ですからね」


「そうなんですか?」


「おや。知りませんか?」


「なにぶん人類圏に来て、日が浅いので」


 私は肩を竦めた。


「オルティア・フォン・リュゼルの姉――アナスタシア・フォン・リュゼルは我々魔族の天敵」



 聖女なんですよ。



「ふーん。そうですか」


「もうちょっとリアクションがあってもいいんじゃないですか?」


「申し訳ありません」


「こんなところで魔法の言葉はいらないですよ」


 アリーテはため息を吐く。


 私としては合点がいったので、少しすっきりした気分だ。

 侯爵令嬢で、姉が聖女となれば、周りが気を遣うのも当然だろう。

 魔族と戦争することは、当分なくなったにしろ、聖女が神に選ばれた存在だ。

 王族に近しい身分であることに、以前かわりはない。


 そんな身内がいるのだ。

 多少傲慢になるのも、仕方ないだろう。


「くれぐれも気を付けてください。せめて聖女の怒りに触れるようなことは……。あなたのお兄様も、聖女には随分と手を焼いたそうですし」


 そう言って、アリーテは意味深げに笑った。

次回は来週末を予定してます。


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