外伝 Ⅺ ある妹亜屍族の即死魔法②
◆◇◆◇◆ ➀ カプリコの場合 ◆◇◆◇◆
カンタベリア王国の王都に到着した私たちは、検問の兵士たちによって足止めされていた。
持ち物検査なるものが行われたあと、何故か我々は門の横にある兵士の詰め所へと連行された。
ルーディーは――――。
『きっとあそこには多くの兵士が裸になって、あーしたちにあーんなことやこーんなことをするために待ち構えているに違いない。ああ! 濡れる!!』
と何故か興奮していたけど、そんなこともなく、詰め所は私たち3人と大人2人が入るだけで精一杯の広さしかなかった。
その部屋を占領していたのは、木の机だ。
そこに私たちから没収した鞄の中身がぶちまけられた。
「これは人種差別です。私たち魔族が王都にやってきたのは……」
「交換留学だろ。それはわかっている。確認した」
「なら、この足止めはいかなる理由でしょうか?」
「別に足止めなんてしていない。君がこの書類にサインして、この持ち物を我々に手によって破棄することを認めてくれればなんの問題もない」
「イヤです。それはこれからの学院生活で必要なものですから」
「必要ね」
兵士は私の持ち物からメリケンサックを持ち上げた。
「これは?」
「タングステンカーバイドとコバルトの合金で作ったメリケンサックです」
「たんぐ……ごほん。これ、武器だよね?」
「はい。護身用です」
「いや、護身用でもさすがに武器を持ち込まれちゃ困るんだよ、お嬢ちゃん。あと、タングステンとかよくわからないし」
「仕方ありませんね。今日だけですよ」
「今日だけじゃなくて、明日も、ずっと! ――あと、なんで君のほうが立場がちょっと上なんだよ」
「じゃあ、他のものはいいんですね?」
私はメリケンサックを除く、荷物を鞄に詰め込もうとする。
しかし、兵士は慌てて手を止めた。
思ったより冷たかったのか、「ひやっ」と声を上げる。
「まだ何かあるんですか?」
私はやれやれと首を振った。
「『やれやれ』って言いたいのは、こっちなんだけどなあ。……えっと。これもダメだから」
「包丁ですか? これがないと料理できないんですが……。それとも魔族は魔族らしく犬食いしろととでも?」
「そんなことは言ってない! あのね。この包丁、呪われてるだろ?」
「ええ。だから、そうじゃないと料理できないんです」
「へっ?」
突然、包丁が兵士の手からポンと飛び出した。
私も兵士も指すら触れていないのに、1人で動き出す。
まるでタップダンスでも踊るかのように机を叩き、リズムを取った。
最後の決めポーズまで完璧。場所が場所なら、万雷の拍手が送られていたはずだ。
「おお!」
「すごい! ――じゃなくて! こんな危なっかしい包丁は、王都の中に入れるわけにはいかん!」
「はあ……。ケチですね」
私は腹の底からため息を吐く。
「ため息を吐きたいのは、こっちなんだが……。あと、この本は如何にも禍々しい感じだが、これって――――」
「あ。それはダメです。絶対にダメ!」
「む? なんだか今までと違う反応だな。……まさか禁書か?」
禁書とは、所謂魔導書の一種だ。
魔族と人類には文化的な背景や考え方が違う。
魔族で使うことは許されていても、人類側では禁止されている魔法は決して少なくない。例として死属性魔法などが上げられる。
「ある意味、禁書といえるでしょうね」
「タイトルは――――〝黒歴史〟? なんだ? この如何にもなタイトルは? ますます怪しいな。中身を確認させてもらう」
「構いませんが……。どうなっても知りませんよ」
兵士は私を睨み付けながら、『黒歴史』を紐解く。
読み始めると、「ああ」とか「うう」とかうめき声を上げた。
やがて、パタリと『黒歴史』を閉じた。
「いかがでしたか?」
「す、すごい――世界でした」
そして、兵士は『黒歴史』だけ、そっと私のほうに寄せて返してくれた。
◆◇◆◇◆ ② ルーディーの場合 ◆◇◆◇◆
カプコっちに言わせると、あーしってなんか不純というか、不真面目な印象があるらしい。
まあ、実際のところ不純といわれればそうだし、真面目といえるほど真面目な性格でもない。
でも、魔族、サキュバス族のあーしがいうのもなんだけど、曲がったことを1度もやったことがない。
だから、兵士に詰め所に連れて行かれたときは、「ああ。きっとこの人は溜まってるんだな」としか思えなかったし、まさか自分が犯罪を犯しているなんて思いもしなかった。
「ねぇねぇ。お兄さん、いつやるの? ここでやるの? 何人でやるの?」
「やらないって言ってるだろ」
「じゃあ、なんであーしをこんな狭くて男臭いところに連れてきたの? あーしといいことしたくて、連れてきたんじゃないの?」
「違うって言ってるだろ! 荷物だ。君の荷物から王都に持ち込んじゃいけないものは見つかったの!」
「あー。もうこの匂い! ムラムラする。誰かとにかく男を襲いてぇ」
「なんという肉食女子。むしろ、この子のほうが危険人物なのでは」
「とにかくやるか、早くあーしをこの部屋から追い出してくんない?」
「ああ……。じ、じゃあ、これはなんだ?」
若干赤面しながら兵士のおっさんが持ち上げたのは、蛇の頭みたいに反り立ったオブジェがついた魔導具だった。
「マッサージ器っス」
「はあああああ? これが……。つーか、これどう見ても」
「マッサージ器ッスよ。おっさん、何を想像してるんです? やっぱり溜まってるんじゃないスか?」
「違うわ!! いかがわしい呪具ではないのか?」
「ホントッスよ。じゃあ、使ってみせるから判断してほしいッス」
「良かろう」
あーしはおっさんからマッサージ器を受け取る。
軽く魔力を込めると、ミスリル製のオブジェの先がうねうねと動き出す。
あーしはそれを背中の翼の根本付近に当てた。
「はあ~。気持ちいいっス。うちらサキュバス族って、翼の根本部分はよく凝るんスよね。このマッサージ器は最適なんですよ」
グルグルと一定の角度で回るオブジェは、あーしの翼のツボにドンピシャで当たる。いろいろ試してみたけど、これが1番良かったのよねえ。
「ふむ。本当のようだな」
「認めてくれたっスか?」
「ちなみに凝りをほぐすのは、その部分だけなのか?」
「違うッス。他にもモードを切り替えられて。行くっすよ」
あーしはさらに魔力を込める。
蛇に似たオブジェはピタリと止まると――。
バイン!!
バイン!!
バイン!!
バイン!!
バイン!!
激しく上下に動き始めた。
「これを肩に当てて……」
「アウト!! 没収!!」
兵士のおっさんは、もの凄い勢いであーしからマッサージ器を奪っていった。
◆◇◆◇◆ ③ ガーコの場合 ◆◇◆◇◆
…………。
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「あの……」
「…………」
「君さ。すごく無口だね」
「…………」
「……起きてる?」
「…………」
「まあ、どうでもいいんだけど」
「…………」
「君、行っていいよ」
「…………」
「話を聞きたかったの、君のお友達だけだから」
「…………」
「あとさ。あんまりこういうのもなんだけど」
「…………」
「友達は選んだほうがいいよ」
…………。
…………。
こうしてガーコの取り調べは終わった。
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