外伝 Ⅺ ある妹亜屍族の即死魔法➀
来月9日発売される「「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる」単行本12巻の発売を記念して、外伝Ⅺをお送りします。
本格的な連載は6月末からとなりますが、
本日は予告編的なお話になります。
いつものヤツらは出てきませんが、
外伝らしい癖のある魔族3人娘の活躍をお楽しみください。
世も末――とは言うけれど、意外と生きてみると驚きに満ちあふれている。
今から数年前……。
人類と魔族はとある採掘場利権をきっかけにして争っていた。
人類からすれば、魔族は魔界からやってきた新参者。
魔族は大きなツラをして領土を寄越せと言ってきた侵犯者。
争い合うのは火を見るより明らかで、どちらかといえば魔族のほうが、分が悪かったように思える。
それがあれよあれよ、と仲直りを果たし、採掘場の利権も共同で管理・出資するという――信じられないほど平和的な結末を迎えてしまった。
ただ――土手の石を捲って団子虫を丸めていじめていたほどには幼かった私からすれば、正直どうでもいいことだった。
しかし、大人になるに連れ、魔族の社会が急激に変わるのを目にしながら、私は新しい社会というものに順応していった。言わば、静かな洗脳を受けた私が、人類社会とはどんなところだろうという興味を持つようになったのは、自然な流れだったかもしれない。
「世も末よね~」
ちっとも末世を感じないイントネーションで言ったのは、サキュバス族のルーディーだった。
パーマのかかった豊かな金髪に、褐色の肌。
魅惑的な赤い瞳の周りには、自称ガングロ(?)メイクを施し、今もコンパクトを開けて、完璧に武装された化粧を直している。
学校でクラス同じだったことで意気投合し、今ではお互いに親友といえるぐらいには仲がいいのだけど、正直自分でもルーディーの何が決め手となって、こうなったかは、よくわからない。
サキュバス族は往々にして陽キャで、そして胸が大きい。
あまりこういうのも種族差別と言われるかもしれないけど、はっきり言って知性の欠片も感じない女だ。
対して私はノーマルから、少し陰キャよりの魔族だ。
当たり前だがルーディーほど社交性もないし、積極的か消極的かと問われれば、やや消極的な性格だろう。
それなりに真面目で大人をほどほどに困らせない性格――といえば、イメージがつくだろうか。おかげで、波風のない人生を送ってこれたと自負している。
もうなんとなくわかっただろう。
ルーディーと私は性格が全く違う。真反対といっていい。
なのに、初等学校で奇跡的に40年間同じクラスだったというだけで、私たちは無二の親友になっていた。
まったく世も末である。
「ねぇ。ルーディー」
「なによ、カプコっち」
私はルーディーのことを名前で呼び捨てにするのだが、ルーディーは私を「カプコっち」と呼ぶ。もう呼び方からして、互いの性格が出ているわけだけど、40年近く言われていると、もうすっかり耳が慣れてしまった。
ちなみに私の名前は「カプリコ」である。
「なんで交換留学の件、受けたの?」
「またその質問? だから面白そうじゃん。だって、向こうには人間の男がわんさかいるんでしょ? サキュバス族にとって、天国以外でもなにものでもないわ。向こうについたら、とりあえずクラスの男子と全員とやって、全員穴きょ――――もごごごご」
「ルーディー、あなたのことは嫌いじゃないけど、そういう発言はもうちょっと人のいないところでやってほしいわ」
私はルーディーの口を塞ぐと、「そうだ」と言わんばかりに馬車が轍の石を踏み、ガタッと一瞬震えた。
今、私たちが乗っているのは、王都へ向かう乗り合い馬車だ。
乗っている人数は少ないが、中には子どもがいて、大人が必死にその耳を塞いでいた。
ルーディーは「参った」とばかりに私の腕をタップする。
私は目でルーディーを諫めてから、ソッと手を離した。
「もう相変わらずの馬鹿力ね、亜屍族は!」
「人前で節操のない発言するルーディーが悪いの。ここはサキュバスの家でも、学校の女子更衣室でもないのよ」
冷たくあしらうと、ルーディーは「ブー」と頬を膨らませる。
「じゃあ、カプコっちは? やっぱりお兄ちゃんに頼まれたから?」
〝兄〟と聞いて、一瞬自分の頭が茹で上がるのを感じた。
私が怒っているの察したのか、ルーディーはそそくさを話を切り上げる。
魔族圏の生徒と、人類圏の生徒を交換留学させようという計画が立ったのは、魔族と人類の和平から5年後のことだった。
お互いの文化や生活を知るための文化的交流の一環として計画されたそうだが、その人材の選定には時間がかかったらしい。
応募者はそれになりにいたようだが、問題はその魔族が人類圏へ行って問題を起こさないかどうか、あるいはそうした背景がないかを確認するのに膨大な時間が必要であったことらしい。
結局、適当な人材が見当たらず、7徹し、思考能力が低下した頭で担当者が決めたのは、身内に参加してもらうということだった。
そうして、その担当者の妹である私が選ばれ、それがルーディーの耳に入ると、「あーしも行く!」と自ら手を上げたのである。
そしてもう1人。
ルーディー以上の腐れ縁で、幼馴染みも交換留学についてくることになった。
「ガーコ、もう少しで王都につくよ」
私は背筋を伸ばし座って、寝ているのか寝ていないのかわからない黒髪おかっぱの少女に声をかけた。
亜屍族以上に青白い身体。
左の額から左耳にかけて手術をしたような縫い痕を、大きな黒縁眼鏡で隠している。その眼鏡の奥には、鋭い三白眼がパチッと開いていた。
フランケン族のガーコとは、近所も一緒だったこともあり、家族ぐるみの付き合いしてきた。
といっても、ガーコは私以上に寡黙で、何を考えているかわからない。
それでも見た目の異質さとは違って、優しく、芯の通った彼女を嫌う理由などなく、気が付けば私の相棒というポジションに座っていた。
交換留学の話があって、私が受けようといったとき、真っ先についていくと言ったのはガーコだ。
それ以上、何も言わなかったけど、少し嬉しかったのを覚えている。
「ふが……」
「ガーコ、ずっと寝てたの? 口がずっと開いてたよ」
ルーディーがケラケラと笑う。
ガーコは少し恥ずかしそうに目をパチパチと動かしていた。
「あ。見て見て。お城が見えるわ。キャハハハ! マジで白亜の城じゃない」
ケタケタと笑いながら、前方を指差す。
私とガーコが覗き込むと、黒い魔王城と正対するような真っ白なお城が見えた。
「あれがカンタベリア王国王都……」
こうして我々――3人の魔族は、人類圏第3位の国カンタベリア王国に到着したのだった。
本日、ニコニコ漫画にて最新話更新されました。
7月9日発売の単行本12巻も合わせて、どうぞよろしくお願いします。
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