外伝 Ⅹ 勇者と聖女~はじまりの物語~⑩
シャロンとパフィミアは、ブブガリヤ王国を後にした。
見送りは少ない。パフィミアが獣人だからだろう。
ブブガリヤの差別意識は、やはり根強いのだ。
そんな中、2人を見送る魔法騎士たちの姿があった。
城門前で整列し、槍を掲げ、アーチを作る。
最上級の別れを示す敬礼だった。
その中にはレオハルト、ガルド、ミレイナの姿があった。
王宮を出て、王都を出て、街道沿いの馬車に乗り込み、南下する。
向かうはカンタベリア王国だ。
「え? 勇者様を王宮で暮らすように取りはからったのは、アニエス様ご自身なのですか?」
荷台に座りながら、パフィミアの話を聞いていたシャロンは、素っ頓狂な声をあげた。
「そうだよ。アニエス様って不思議な人だよね。普段は静かで、どこか冷たい印象がある人なのに、時々温かい……どうしたの、シャロン?」
深く考え込み始めたシャロンを見て、パフィミアは尋ねた。
「アニエス様が何故わたくしに勇者候補をあてがったのかわかりました」
「自分の部下を勇者にしたかったからじゃないの?」
「それもあるかもですが、簡単なことだったのです。初めからアニエス様はパフィミア様の勇者としての素質を見抜いておられたのではないでしょうか?」
「ええ!!」
可能性は高い。
アニエスの能力である【千里眼】は、ただ遠くのものをみるだけではなく、物の本質を覗くこともできると聞く。ならば、ギルドにある水晶の魔導具のように、人の才能を見抜くこともできるかもしれない――とシャロンは考えた。
「アニエス様はひと目見て、パフィミア様に勇者の素質がある気づいた。だから、安全な王宮に住まわせ、どこかの国の聖女がブブガリヤを訪れるのを待っていたのではないでしょうか?」
姿を現さなかったが、アニエスにはすでに立派な勇者がいる。
ならば、優秀な聖女に宛てがうほうがいいと考えたのだろう。
「じゃあ、なんで勇者候補を選ばせるようなことをしたんだろ? いじわる?」
「違います。おそらく勇者様が獣人であるからでしょう」
仮にやってきたシャロンに、アニエスから獣人であるパフィミアを紹介する。
だが、お国柄のせいで差別意識の高いブブガリヤ王国でそんなことをすれば、騎士たちの士気が下げてしまう可能性が高い。
「だからわたくしに選ばせるために、3人の勇者候補を立てたのでしょう」
もちろん、先輩聖女としてシャロンの目が確かなものか査定するためでもあったのだろう。
だが、シャロンはパフィミアを選んだ。
すべてアニエスの思惑通りだったのだ。
「アニエス様ってすごい人なんだ」
「はい。何せ女王にして聖女」
「聖女にして魔女だからね」
というと、2人はプッと笑う。
そして、来た道の方向を振り返った。
「ありがとう、ブブガリヤ」
「ありがとうございました、アニエス様」
2人は頭を下げる。
こうして【預言の聖女】シャロン・ストーングと、後に最後の勇者と呼ばれるパフィミア・プリミルは、カンタベリア王国へと向かう。
そこで【狂死】のヴァザーグに遭遇し、パフィミアは命を失うのだが、それはまた別のお話である。






