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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
93/106

森の中へ冒険

「戻ったぞ」

「タズくんお待たせー!」


「クロエにグレン様!結構ゆっくりされてたんですね」


「まあな。さすがに王女さんに音速超える速さを体験させるわけにはいかないさ。

 結構待ったか?」


「いえ。それにタズはこのとおりですから・・・」」


「あっ、タズくん寝ちゃってる!

 ふふ、かわいい寝顔ね!」


「空で大分無理したみたいよ。

 あら?クロエなんだかつやつやしてない?何かあったの?」


「な、なにもないよ!イ、イリアちゃんこそなんだかさっきより元気に見えるよ?」


「わ、私は何もないわよ!そ、そう魔法でリフレッシュしたの!」


「「・・・まあいっか」」


 イリアとクロエはお互いに若干後ろめたいことがあったため、互いに今まで何があったのかについては深く追及しないことで一致した。



「タズは寝ちまったか。全く、仕方ないやつだな。まあ一応たった一回で空の移動を覚えたようだから今日のところは多めに見てやろう」


「グレン様・・・ありがとうございます!」



「ああ、タズ(・・)はな」



「ッ!?・・・えっと、私も結構ツカレチャッタナー」



「嘘をつくな、イリア。お前が体力満タンなのはバレバレだぞ。お前は魔法なしでタズを背負って昼食会場へ移動だ。どんな状況だろうと少しでも体力強化に使え」


「は、はい!グレン様!(その程度か・・・た、助かったぁー)」


「なんだか余裕そうだな。それならそこに埋まってる荷物も魔法使って運んでおいてくれ」


「えっ?荷物?」


 グレンが指さした辺りをよく見ると何やら少し砂がこんもりしている。イリアはまさかと思いつつ風魔法で砂を吹き飛ばすとそこには・・・


「パ、パパ・・・情けなさすぎる・・・」


 アルフレッドが気絶したまま倒れていた。荷物番の役割失格どころかこれでは完全に自分が荷物である。もっとも、この場で一番の貴重品であるタズの聖剣はしっかりと抱え込んでいたので最低限の役目は果たしていたようであるが、聖剣は生きた剣であり使い手を選ぶ上、所有者が誰であるのか全世界が知っているため取引される余地もなく、盗んでも価値は全くない。


 イリアは寝ているタズをおんぶで背負いつつ、先ほど修得したばかりの飛行魔法をアルフレッドに使って気絶したアルフレッドを宙に浮かせた。


「それでグレン様、食事はどこで取られます?」


「ああ、さっき王女さんと話してたらどうやら王女さんが用意しておいてくれてたらしい。詳しくは王女さんに聞いてくれ」


「そうだったの?クロエ、わざわざありがとね。

 それでどこ行くの?」


「イリアちゃんもまだまだね!クインズ・ゴールドコーストで昼食といったらバービー一択よ!浜辺沿いの会場を抑えてあるわ!私たちは前泊だから食材も全部朝浜辺に来るときにちゃんと用意しておいたから安心して!」


「へえ、バーベキューかぁ!いいわね!タズも絶対喜ぶわ」


「昼食を取ったらいよいよ王都に戻るぞ。イリアとタズはさっきの応用で今度は一人で飛行して帰ってもらうからな。明日のこの時間には向こうで稽古だ。一日で帰って来いよ。あと、海岸沿いの道は使うなよ。ついでに森の中の様子も確認しておいてもらいたいからな」


「は、はい!」




・・・・・・・・・・




 クロエたちは浜辺でバーベキューを思いっきり楽しんだ。タズも肉たちが焼ける良い匂いがし始めると飛び起きてすぐに参戦した。


 アルフレッドは気絶したままだったが、豪華な昼食をわざわざ用意してくれた本人が楽しめないというのはあまりに不憫に感じたイリアが回復魔法をかけて起こしてあげた。


 意識を回復したアルフレッドがイリアに感激しまくり、そんなアルフレッドにクロエが串を刺そうとするなど賑やかな昼食となった。



 ・・・・・・・・・・



「今日は楽しかった!タズくんもイリアちゃんも気を付けて帰ってね!」「イリア様もタズ様もお気をつけて」


「ボクも楽しかったよ!クロエも気を付けてね!王都でまた会おうね」「アルフレッド様もお気を付けください(主に馬車の中で)」


 タズたちはQGCにある宿へと戻っていくクロエとアルフレッドを見送った。

 クロエたちは馬車で王都から行き来しているため、今日はQGCに一泊し、明日早朝に出発するらしい。今日このまま王都へと向かうタズたちとはいったんお別れである。


「そういえばグレン様はどうされるんですか?」


「俺はこのまま海沿いの街道を行かせてもらう。危険そうな魔族は追っ払っておくからアルフレッドや王女さんの帰り道は安全だろう。ついでにその剣は俺が運んでやろう。その剣を持った俺が通った後は魔族の連中はしばらく近寄らないからな」


 グレンが手をかざすとタズの背中にかけられていた聖剣が浮き上がり、グレンの背中へと収まった。

 聖剣を装備したグレンのオーラは計り知れず、絶対的な安心感がある。逆に言えば、魔族からするとこれを相手にする絶望感はハンパないだろう。


「魔よけのグレン様・・・」



「さっきも言ったが、お前たちは森の方を行けよ。これも修行の内だ」


「「はい!」」


「イリア、分かってるな?」


「大丈夫です。明日、王都でお会いしましょう」


「ならいい。だが、万が一何かあった場合には大空に合図を上げろ。」


「はい!」







 ―――王都への帰り道―――




「お、お姉ちゃん、待ってよぉー!」


「タズ、急がないと日が暮れちゃうわ!これも修行だから手伝ってあげられないの・・・がんばって!あと、もうちょっと高度を下げて森のギリギリを飛ばないと遠くの竜に見つかっちゃうわよ」


 ブリズバーンとクインズ・ゴールドコースト(QGC)はわずか80km程度しかないが、QGCからシドル王都まではその10倍以上、約850kmの距離がある。


 もし仮にこの世界にバスなる便利な乗り物があったとしても、16時間30分ほどかかる距離である。


 現実にはそんな便利な乗り物はない上、シドル王都への道中はブリズバーン・QGC間と異なり、深い森が続く魔族が住む危険な領域であるから、普通はクロエが王都からQGCまでを行き来しているのと同じように護衛付き馬車で1週間以上かけて比較的安全な海岸沿いの街道をゆっくり移動する。


 そのような常識からするとこの長距離を、しかも危険な森のルートを使ってたった一日で帰ってこいというグレンの指示はかなり常識外れの厳しい指示である。もっとも、グレンは2人の力量をよく把握しており、一日あれば十分帰って来れると見込んでいるからこそこのような指示を出していた。その上、別れ際にイリアに念押ししたとおり、この距離を行くのに時間制限を設けたのにはもう一つ彼なりの優しい理由もあった。



「お、お姉ちゃん、向こうの方で誰かが戦ってるよ・・・いいのかな?」


「行っちゃダメよ、タズ。私たちが極力魔族との遭遇は避けるのもグレン様の指示のうちよ。だからグレン様はタズから聖剣を取り上げたんだし。王都まではまだまだだから道草食ってる時間はないわ」




(上空から森を見渡してみると結構焚火やたいまつの煙が上がってるわね・・・。)


(冒険者の人たちのものなのか、魔族たちのものなのか、はっきりしないけど、いずれにしても戦ってる冒険者は結構いるみたい。)


(街の中にいると平和だなと思っていたけど、やっぱりこの一年で随分変わったわ・・・。間違いなく魔族たちの動きは活発になってる。早く王都に戻って状況を報告しないと)




 グレンが王都への帰還に2人の限界ギリギリのタイムリミットを設けたのには、2人に魔族と戦闘するなという意味も含まれていたのである。


 タズもイリアもエルフの長い耳を持っているため、普通の人間の数十倍の聴力を持っている。数百m先の戦闘音まで良く捉えることができるため、魔族や冒険者との接触を避けながら飛行することが可能であった。



 イリアもタズもこの一年間、基本的にはずっと王都かブリズバーンの街の中におり、王都からブリズバーンに移り住んだときも馬車で安全な街道を使った移動だったため、街の外の魔族領域に長時間、長距離足を踏み入れるのはこれが初めてである。タズの方はエルフの村から王都に出て来るまでの間に今回と同じような魔族領域の冒険を経験しているが、距離が全く違う上、イリアの方は正真正銘これが人生初の冒険である。そういうことも考慮した上でグレンはあえてイリアたちに戦闘不要の下見だけの冒険にしたというわけである。



「でも魔族を放っておくなんて・・・」


「そう思うかもしれないけど、森の魔族は冒険者の人たちに任せるのよ。冒険者の人たちは魔族を倒したり追い払うことを仕事にしてる。

 それが生活の糧なの。手助けに行くのは失礼に当たるどころか、冒険者でもない人に助けられたなんてことが噂になれば彼らの仕事がなくなっちゃうわ。


 それに私たちは勇者よ。冒険者じゃない。


 勇者とはどういうものなのか、グレン様に教わったでしょ」



「うん・・・。勇者は平和を守る者・・・そして平和を乱す者と戦う者、だよね」



「そうよ。私たちは戦う理由が冒険者の人たちとは違うの。

 森にいる魔族たちは去年みたいに街に攻め込んできた魔族たちと違って平和を乱そうとしているわけじゃない。

 ただ私たちと同じようにこの星に住んでるだけ。他の動物たちと変わらないわ。


 もちろん人族全体としては人族の領土維持や街外の田畑を守ったり街道の安全を維持したりするために自衛として魔族と常に戦っていかないといけない。


 だからこうして冒険者の人たちが街の外に出て魔族と戦う必要があるけれども私たちは違う。


 私たちが一方的に魔族を倒せば私たちはむしろ平和を乱す者になっちゃう・・・それは勇者じゃないわ。


 グレン様よりも前の時代の勇者はひたすら魔族を倒してきてたけど、それはマナバーンまでの話。マナバーンで魔族と人族に積極的に戦う理由がなくなった以上、私たち勇者は魔族にも人族にも中立でいないといけないわ。私たちが新たな戦いの理由になるのは絶対ダメだからね。」


「うん・・・そうだよね・・・。ごめん、おねえちゃん」


「ううん、いいのよ。私だってグレン様にきつく指導されてなかったら魔族たちのところに飛び出していってもおかしくないもの。

 でも魔法が使えない魔族と私たちが戦うのはあまりにもアンフェアだわ。大陸の西の方に飛んでる竜たちならともかく、森にいるオークたちはきっと去年戦ったバトラーが呼び出したモンスターより弱いもの。魔法を使う魔族がいれば話は別だけど…」



 イリアがそう言い掛けたところで遠くの方からドゴーンという轟音が聞こえた。



「お、お姉ちゃん・・・今のって・・・」


「わからないけどなんだか不自然な音だったわね」


「お姉ちゃん、ボクなんだか胸騒ぎがするんだ。あそこだけでも様子見に行っちゃだめかな?」


「うん・・・タズの胸騒ぎって昔からよく当たるし、私も嫌な予感がするわ。まさかとは思うけど今のが魔法の可能性もないわけじゃない・・・。


 でもちょっと待って。そのまま行ったら私たちってばれちゃうわ。魔法は厳禁だし、姿を変えないと・・・」


「えっ?でも・・・」


「大丈夫!ちょっと待っててね」


 イリアが魔法を唱えるとタズの髪の色が金色から茶色に変化し、長かった耳は普通の人間と同じようなサイズへと変化した。さらに顔の輪郭が若干変化し、タズは王都のどこにでもいそうな普通の少年へと変身した。


 原理としては髪の色素を変えたり、身体の水分等を移動させて顔の形を変えて、光を屈折させるフィルムのようなものをかぶせることでそれらの変化を全く違和感ないように仕上げているわけであるが、高度な魔法操作を必要とするため、イリアもここまで見事な変身魔法は今までできなかった。そのためタズは困惑していたというわけである。


 だが、イリアは先ほど概念形状である翼を作る変身魔法を覚えてから、なかったところに新たなパーツを作ることすら可能となり、さらに高度な変身もできるようになっていた。



 イリアは同じ魔法を自分にもかけてどこにでもいるような普通の少女に変身した。



「お姉ちゃんいつの間に変身魔法まで・・・。

 うわぁお姉ちゃんだよね?別人にしか見えないよ」


「そういうタズも今の私とそっくりになってるからね。

 この姿でこっそりといくわよ」



「うん。

 嫌な予感がする。もし誰か魔法を使える魔族と戦っていたら・・・お願い無事でいて!」


この章はじまって10話以上経ってしまいましたが、ようやく冒険がはじめられました。


本文でも紹介しましたが、現実世界でゴールドコーストとシドニーの間はバスで16時間30分、電車でも15時間かかってしまう長距離です。とはいえ、現実世界には飛行機がありますので1時間30分くらいで移動可能です。空の移動手段の重要性がよくわかりますね。


850kmという距離のイメージとしては東京―函館間もだいたいそれくらいです。日本だとほぼ列島半分の距離の大冒険なわけですが、巨大なオーストラリア大陸だとほんの少しの距離にしか見えないのが不思議ですよね。


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