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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
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マヤ①

 ゴールドコーストから西に20km、南に300kmほど進んだ深い森の中では冒険者と魔族がそれぞれの領地を維持するべくしのぎを削り合っていた。


「ララ、スイッチだ。次のアタック後にトドメを頼む。

 おい新入り。そっちの処理終わったらこっちも処理しろ。早くしねえと夜になっちまう。急げよ」


「了解!」


「おのれ・・・我らゴブリン族が人間ごときに・・・。クソーーーー!

 ぐあああああああああ」


 リーダーのブレッドが体当たりしてきたゴブリンを弾き飛ばしてひるませると同時に退く。仲間からララという偽名で呼ばれ、夏だというのフード付きの外套を羽織って身を隠したマヤはブレッドとゴブリンが衝突して互いにノックバックを受けたタイミングで的確に前に出て、ゴブリンにフィニッシュを決めた。

 マヤがゴブリンに致命傷の一撃を与えると回収担当のサムが倒したゴブリンが消滅してしまう前にナイフで左胸を突き刺し、核の欠片を回収していく。


「よし、ゴブリンの部隊リーダーをようやくやれた。かなり危なかったがなんとか切り抜けられたな。」


「ブレッド、どうする?もう一戦するには少し時間が足りない気がするけど。私は休憩とかいらないからすぐに次に行くというなら構わないけど」


「そうだな。いや、今日はもう十分成果も集まったし、周囲をクリアリングしたら野営の準備に入ろう。ララ、周囲の索敵を頼む。」


「わかったわ。」


 マヤが荷物持ちのサムを見るとゴブリン3個隊分の大量の魔族の核が入った袋が目に映った。



(これだけあれば大分貯まる・・・)



 冒険者は倒した魔族の数で報酬を得るが、ギルドに倒した証拠を提出する必要がある。


 だが、この地上で魔族を倒した場合、不思議なことにその身体は時間が経つと消滅してしまう。

 その詳しい原理は謎であるが、魔界に転生するためだか地上の女神による浄化だと言われている。

 しかし、身体が消滅する前に核だけ身体から取り出せば、その核は消滅せずに残る。その原理も謎である。


 魔族の核にはその魔族の魂が宿っているとも言われている。


 かつて魔族がマナを持っていた頃は、死んだ魔族の核は光り輝く玉、魂光球(スピリット・ライト)に変化した。スピリット・ライトは一定時間経つと魔王の下へと転送されてしまうが、転送される前に回収して握り込んでしまえば転送されることはなくなる。この頃はスピリット・ライトというわかりやすい報酬が手に入った。


 しかし、マナを持たない今の魔族は、倒してもスピリット・ライトを生成しない。核も含めて全て消滅してしまう運命にある。


 けれども、身体が消滅していく中、核自体はスピリット・ライトを生成しようとする習性が残っていてこの世に残ろうとするため、身体が消滅してしまう前にそれを取り出してしまえば、身体と一緒に消滅してしまうことは避けられる。


 魔族のスピリット・ライトは魔法が使えた頃には様々な魔法薬や魔法武器・製品の材料となったため、大変重宝された。


 それに対して魔力を持たない魔族の核は魔法武器・製品の材料にはならない。


 そうなると魔族の核は一見、無意味な物質のようにしか見えないが、薬草に混ぜて飲むと傷の治りが良くなったりと薬の効能を良くする成分が含まれており、マナバーン後も重宝されている状況は続いている。


 どこかの国の貴族が不老長寿の秘訣だなどといって買い集めているという噂すらある。人間にとっての心臓と同様、魔族の動力源でもあるのだから、そんな効能があったとしても何ら不思議ではない。



 今の冒険者たちはギルドから出された依頼を達成したり、こうして魔族を倒して核を入手し、それをギルドに買い取ってもらったりすることで報酬を得て生活しているというわけである。



 冒険者の仕事は言うまでもなく命がけである。しかもその危険性は全職業の中でも飛び抜けている。



 魔族はそう簡単に倒せるものではない。魔族はただの魔物と違って人族並みの知性がある。同種の魔族同士で連携したり、森に罠を張ったりと知恵を振り絞って迎撃してくるので厄介極まりないにもかかわらず、身体能力は人族よりも基本的には遥かに上である(中にはゴブリン族のように人族よりも身体能力が低い者もいるが)。


 人間並みの知恵を持った大熊たちが徒党を組んで生活する山の中に、銃も持たずに剣だけを所持してそこに踏み込んで熊を倒す仕事を想像してもらえばその危険性はわかりやすいだろうか。


 彼らのテリトリーである森で魔族と戦う場合、相当手練れのベテラン冒険者であっても死ぬ可能性は3割程度あり、新米冒険者ともなると死ぬ確率は8割以上あるとさえ言われている。


 そういうわけで報酬は極めて高いが、なり手はほとんどいない。


 例えば、腕に多少自信がある者がいたとしてもそれは人族の中での話であり、オークのように木をへし折れるほどの腕力を持つ者は勇者の血筋の者を除けば普通の人族の中にはいない。人族レベルで多少強かったとしても魔族相手には通用しないのだ。そのため、腕に自信がある者でもまずは比較的安全な街の衛兵になるのが普通だ。


 衛兵であればそもそも街に魔族が攻めてくること自体が基本的にない上、その場合も迎撃態勢をとれるので体格差をひっくり返して優位に立てる。街の周囲をクリアリングするために森に出る際も大規模な編隊を組み、罠などにも十分対応可能であるから比較的安全に魔族と戦える。そうして衛兵として魔族との戦いを経験してから冒険者になったり、もっと腕に覚えがある者は国直属の王宮騎士団に志願したりと分かれていくのが普通だ。


 だが、マヤはそのどれでもなく、いきなり冒険者となったという稀なケースだ。しかもまだ10歳の小さな女の子だというのに冒険者になるというのはかなり無理がある選択だ。しかし、この選択自体は決して異例ではない。


 実は、まともな生活を送っている普通の大人であれば滅多に冒険者というリスクある職業を選ばないが、この年代の子供が冒険者になろうとする例はそれほど稀ではない。

 

 普通に考えれば命のリスクに全く釣り合わない職業であるが、それでもマヤのように身寄りもなく他国に流れついてしまった者からすると腕に多少の自信があるのであれば、身分保障もいらず、誰でもなれるという売り手市場で、なおかつ破格の報酬が得られる冒険者という仕事はこれしかないという職でもあるからだ。


 マヤには他にも安全な仕事をするという選択肢もないわけではなかったが、それではいつまで経っても母国に帰る船代は貯まらない。



 1年前の戦い以降、海での長期間の船旅は非常に危険だということで船の便の本数は激減し、その分需要は急増、価格は10倍ほど上がり、今ではQGCからマヤの母国までは最低でも5,000,000G以上かかる。


 普通の安全な仕事ではマヤの年齢では高くても時給800G程度で生活費にほとんど消えてしまう。とてもじゃないが、短期間でまともな手段によってこの額を稼ぐのは不可能だった。


 他のまともじゃない手段として娼婦になるという選択肢もないわけではなかったが、マヤはそこまでの決意はできなかった。


 そうしてマヤは破格の報酬が得られる冒険者を選択することにした。だが、マヤが冒険者になったのにはこのほかに2つの理由があった。

 

 2つ目の理由として、マヤには冒険者になるのに相応しい才能があったことだ。血筋の影響による人間離れ(・・・・)した身体能力に加えて、冒険者にうってつけの「回復促進」というユニークスキルがあった。


 マヤには魔法は使えなかったはずなのであるが、マヤはグレンに助けられて以来、なぜか手に触れた人の回復を早めるという異能が宿っていた。


 しかも自分自身は常に回復促進がかかっており、体力回復も早ければ、怪我の治りも非常に早い。


 疲れ知らずで走り続けられ、厳しい鍛錬をしてもすぐに回復し、致命傷以外であれば回復可能というこのスキルは、体力勝負の冒険者にとって垂涎もののスキルである。


 実のところ、これは魔法とは別の力であり、グレンがオーラを使ってマヤを包んだ際に、元々その才能があったマヤ自身にオーラの力が開花したからであった。


 そんなことを知る由もないマヤはこの異能を魔法として冒険者に宣伝し、少しずつ実績を積み重ねていくことでわずか一年足らずで強豪パーティへと入れてもらえるようになっていったのである。





(今回の遠征の報酬は私個人だけでも100万Gは下らないはず。

 ここまで来るのに長かったわ・・・)







(でも・・・まだ足りない・・・)








(もっと・・・もっと・・・)











(もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・)











(もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・)












(もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・もっと・・・)



















(あの魔族(ゴミ)どもを片付けなきゃ。)
















 マヤが冒険者を目指した最後の理由にして一番の理由・・・それは魔族に対する復讐。


 最愛の育ての親(ベアトリス)を殺し、目の前でボリボリと食べるという許しがたい光景を見せた魔族たちをこの手で(みなごろし)にする、そのための選択であった。そしてその鏖の対象には…



(1年前の魔族の突然の襲撃…絶対に何か原因があったはず。)



(あの戦いの原因となった魔族を私は決して許さない。)



(絶対にこの手で殺してあげる。)



(待っててね、ベアト。必ず敵をとるからね。)




 マヤが復讐を誓った戦いの原因となった魔族であるところのエビルサタンとイリスは消滅してしまったが、その原因の一端となっている少年は今まさにマヤのすぐそばまで来ている。




 タズたちにとって非常に危険な邂逅が差し迫ろうとしていた。

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