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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
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少年の素顔

 一方、タズもイリアに続けてグレンに打ち上げられ、大空へと投げ飛ばされていた。



「うぅ・・・風と一つになれっていうけどこれ凄く難しい・・・

 ずっと前で飛んでるのってお姉ちゃんだよね・・・どんどん離されてく・・・やっぱりイリアお姉ちゃんもイリスお姉ちゃんもすごいよ・・・」


 タズは風が流れる空気のバリアを張ることまでは成功したが、翼を作ることはできないため、うまく流れる風に乗ることができず悪戦苦闘していた。


 イリアは簡単にやってのけているが、イリアが今やっていることは、魔法の多重行使+継続行使である。特に翼を作る魔法は変身魔法と呼ばれる極めて高度な無属性魔法であり、タズは何度挑戦しても無理であった。


 イリアは今5つの魔法を同時に行使している上、バランスを崩しそうになるとさらに複数の魔法を行使しているのであって、魔法の才能でイリアにだいぶ劣るタズが同じことを真似するのは不可能だった。



「このままじゃ墜落してボクだけやり直しだよぉ・・・

 ブリズ、どうしよう・・・」



(タズ、こんなことでオレに頼るな)

(オレはお前が危機的状況じゃないと出て来れない制約がかかってる。無理だ)


「今まさにピンチだよ!それにアドバイスするだけならできるじゃない」


(この程度の状況、自分でなんとかしろ)

(というかお前だってわかってるだろ。空を飛びたいならブリゾネーターを出せ。あれを使えばいくらでも空を飛べるぞ)


「それはわかってるけど、ズルはちょっと・・・。それに自分の力じゃないと。ブリゾネーターに頼り過ぎたらダメになる気がする・・・。しかもブリゾネーター出したらマナも体力もほとんど吸われちゃうし・・・」



(よくわかってるじゃないか。そもそもアレは未熟なお前には過ぎた剣だ)

(自分でなんとかしなきゃというなら自分で考えるんだな。それもお前の修行になる)



「ブリズぅ・・・」



(ふぅ・・・。仕方ないな。一つだけヒントをやろう)

(単純に考えればいいんだ。自在に飛ぼうと思うから悩むんだ。そんなことはお前には無理だ)

(ただ真っすぐ速く進むことだけ考えれば自ずと答えは見えてくるはずだ)



 タズは今一人だが、独りではない。イリスがペンダントを介してタズの中に発現させたもう一人の人格、ブリズがいる。


 ブリズはイリスがタズのために用意したガーディアンであり、当初はタズが危機的状況にならないと表にすら出てこれなかったが、1年前の戦い以降、タズが成長したことでペンダントの中にマナが十分にある状態であればこうしてブリズと頭の中で話合いをすることが可能になっていた。


 タズは困ったことがあるとすぐに頼りになるお兄ちゃん的存在のブリズになんでも聞くので、ブリズは若干うっとうしいといった様子で受け答えしている状況であった。そんなブリズも結局タズを甘やかすのでタズが変わることはなかった。


「ありがとうブリズ!


 単純に・・・か

 そっか!ボクにはお姉ちゃんみたいに器用なことはできないけど、風魔法の威力ならお姉ちゃんにだって負けてないっ!」



 タズはイリアのように掌から炎の爆発魔法を放ってその熱風をコントロールして推進力に変えるような器用なことはできないが、逆にイリアにできないこと、つまり、単純に強い風そのものを出せば良いのだと考え、足の先に風魔法の魔力を集め、足から一気に噴出した。タズは高度を維持する等という考えを捨ててただ真っすぐミサイルのように進むというあまりにも単純明快な手段で速度を維持する手段を得ることにした。



「こりゃいいや!どんどん進んでいくよ!これで課題クリアだよね!」



(一応、及第点といったところだろうな)



「あっ・・・でもこれってさっきと同じことになるんじゃ・・・

 ブリズどうしよう・・・この速さで地面に激突したらさすがに死んじゃうよぉ

 こんなことでお姉ちゃんの力使うわけにはいかないよぉ」


 今のタズは揚力がないため前に進みつつも地面に向かって一直線な状況である。重力による加速も加わってもはや風魔法を止めようが危険な速度で地面に突っ込むことは避けられない。


(全く、ようやく課題をクリアしたというのに仕方ない奴だな)

(こんな下らんことで貴重な残機を使ったらオレの方が許さんぞ)

(課題もクリアしたことだ。ブリゾネーターを出せ。ブリゾネーターを介して減速の方法を教えてやる)



「うん・・・わかった!お願い!

 来い、ブリゾネーター!」



 タズの呼び声に合わせてタズのペンダントの中のマナが魔力の風に変化してタズを包み込み、やがて周囲にうごめく膨大な魔力たちがタズの右手へと収束していき、純白に光り輝く魔剣が生成された。



(ついでにブリゾネーターを使った飛行にも慣れておけ。アクセル・ブーストと唱えるんだ)


「アクセル・ブースト!」



 タズがアクセル・ブーストを唱えると、まるで剣がジャンボジェット機の羽にでもなったかのように周囲の風を捉え始めた。


 ブリゾネーターは魔力を用いることで剣に触れるあらゆるエネルギーを操ることを可能にする魔剣である。

 収束放出モードであるブーストモードでは剣に触れる自然エネルギー(魔法等によるものではなく自然界が発生させたエネルギー)を集めて、増幅させ、それを放出することを可能にする。


 ブリゾネーターは正面からぶつかってくる風による膨大なエネルギーを集めて、それを束ね、増幅させ、後方へと噴出した。


 あまりに強く噴き出しているので端から見るだけで剣を持つ腕が持っていかれそうな様子であるが、ブリゾネーターは身体の一部でもあるため、意図的にそうしない限り手から離れることはない上、剣の存在を全く意識させないほどに持ち主と一体化する。噴き出した暴風は身体全体から噴出したのと同じであり、そのまま無駄なく推進力へと変換されることになる。



「ちょっ・・・速すぎるよぉー!!!」



 ブリゾネーターはどんどんとエネルギーを吸収し、増幅して噴出していくことでタズは天井知らずに速度と高度を上げていき、一気にクインズ・ゴールドコーストへとたどり着いた。



(タズ、いいか、ただ加速の魔法を止めるだけじゃ周囲に本物の風が流れ続けている以上、止まれない)

(さっきと同じように吹っ飛ぶだけだ)

(風をコントロールするんだ。たとえば、流れてくる風の方向を上へ変えるのであれば前方の風のバリアの形状を上へ真っすぐ伸ばすように変える)



「うぁああああああ!墜落するぅううううううう!」



(こうして風の向きを変えれば進行方向が変わるわけだ。わかったか)



「わ、わかったけど、死ぬところだったよ・・・」



(周囲の風を無風にしてしまえば急停止も可能だ。アクセル・ディフュージョンと唱えろ)



「アクセル・ディフュージョン!


 ほわぁああああ!凄いーー!

 やわらかいーーー!」




(今度は拡散ディフュージョンモードで風を一気に拡散して周囲を無風にした。一気に空気が柔らかくなったように感じただろ)

(こうして風を操ることで自分の身体を支えることができるわけだ。今はブリゾネーターを使ってパパッとやってしまったが、風魔法でも同じことはできるからな)

(ここまで来ればあとはお前でもコントロールできるだろう。さあ着地だ)


「うん!それ!エアーシート!

 よっと! 無事安全に着地できたよ!

 ありがとうブリズ!」



(今感じた風をコントロールする感覚を忘れるなよ)



「うん!」



 タズの返事を聞くとブリゾネーターはすぅっと消えていった。



「ただ飛ぶだけでもマナを消費するけど、ブリゾネーターも出しちゃったからマナも体力もほとんど空になっちゃった。

 これでグレン様がまだ追加の修行があるとか言い出したらちょっとヤバいかも・・・」


 ブリゾネーターは規格外の能力を有する最強の魔剣であるが、その分、燃費も高くつく。召喚時にゴッソリとマナを持っていかれる上、顕現後はそれまでの身体への負荷が一気に襲い掛かり、体力も大幅に持っていかれる。タズが初めてブリゾネーターを顕現させた際も体力を一気に奪われて一晩気絶したほどであった。



 グレンが戻ってくるまでの間に少しでも休んで回復しなければと考えたタズは足早にアルフレッドが確保してくれていた自分たちのスペースへと向かった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・



 タズがアルフレッドが確保してくれていたスペースまで戻ってくると、そこには既にイリアが帰ってきており、イリア一人だった。



 イリアはアルフレッドが確保してくれていたスペースに光魔法の壁を作っており、中が見えないようにしていたが、中に入ってみると魔法で作ったウォータービーチチェアで気持ちよさそうに座って休んでいる。

 タズが帰ってきたのがわかるとイリアは起き上ってタズを迎えた。



「あ、タズも帰ってちゃんと来れたのね。おかえり!

 凄いじゃない!

 一体どうやったの?」



「お姉ちゃん、ただいま!

 あはは・・・ボクにはお姉ちゃんみたいなのは無理だったから、足からぶわーーっと風を出してとにかく突き進むみたいな感じだったよ。着地はちょっと無理だったからブリズに手伝ってもらっちゃった」



「まったく・・・ずいぶん危険なことしたわね。それ飛んでるというより自分を飛ばしてるってだけじゃない。まぁいいわ。私も今回色々とつかめたし、今なら他人でも飛ばせそう。今度からはタズのことは私が飛ばしてあげるから大丈夫よ」



「さすがお姉ちゃん!凄すぎるよぉ!お姉ちゃん遠くから見てたらイリスお姉ちゃんみたいだったよ!それにできないボクの代わりにやってくれるだなんて口調もなんだかイリスお姉ちゃんにそっくりだよ」



「な、なに言ってんの!そんなわけないでしょ!イリスと似てきたなんてやめてよ、タズ!(まったく、あんなブラコンと一緒にしないでよね!)」



「あっ、やっぱりイリアお姉ちゃんだった!」



「ちょっとタズ?私の何を見てそう思ったの?

 まったく、それはそれでちょっと嫌だわ・・・」



 イリアがイリスに口調まで似てきたのはそもそもイリアのお姉ちゃん業はイリスの見よう見まねである上、ずっと憧れて目標にしていた相手がイリスなのであるから当然でもある。ただし、イリスとイリアの決定的な差はイリアは感情が顔にすぐに出てしまうことだろう。感情表現が豊かというべきか、喜怒哀楽が激しいというべきか・・・。一方、補足説明するまでもないが、イリスとイリアには極めてそっくりな点もある。2人とも異常なまでにブラコンであり、そのことに全く自覚がない点はそっくりであった。



「でも、魔法の実力は確実にイリスに近づいてきてる気がするわ!」



「えへへ!さすがお姉ちゃん!」



 タズは満面の笑顔になって喜んだ。


「お姉ちゃんっ」

 そして、てくてくとイリアの方にぐっと近寄るとイリアに抱き着いて甘えだした。


 上目遣いで抱き着きながら「お姉ちゃんっ」などといって甘えてくるのだ。年上の女性を一網打尽にできる恐るべき可愛さである。


 だがイリアはこれに耐えた。

 少し前までのイリアだったら弟がこんなに可愛く甘えてきたらすぐに猫かわいがりをするところだったが、ずっと一緒にいるおかげで耐性がついてきていた上、弟の考えていることがわかるようになっていたのである。 


「もう、タズったら、何かいいたいことあるんでしょ?

 言ってごらん」



「うぅ・・・さすがお姉ちゃん・・・お見通しなんだね・・・。

 お願いがあるんだけど・・・」



「どうしたのー?あっもしかして」



「うん・・・マナ切れちゃった・・・。

 お姉ちゃんのちょっとだけ分けてほしいなぁ」



「もうしょうがないわね。その代わり明日のお風呂当番はタズがするのよ」



「うん!わかった!ありがとうお姉ちゃん!大好きっ!」



「はい、じゃあタズ、こっちにおいで」



 イリアはウォーターベットチェアの形状をタズが寝転がれるように変化させて座り直し、太ももの辺りをパンパンと叩きながらタズをそこに寝るように誘導した。


 タズとイリアはイリスからもらった魔石を触媒としてマナを発生させているため(正確にはタズは自分ではマナを発生させられないが)、2人の間ではマナを交換したり、補充し合うことが可能である。

 マナを相互にやり取りするには、手をつないだり抱き着いたりして肌と肌で触れ合う必要があるため、今回、イリアは膝枕を選択した。


「わぁい!」



 タズはイリアの太ももの上にこてんと転がった。マナを補充してもらえることだけでなく、膝枕してもらえることでさらに喜んでいるようだ。

 タズは周囲に他の誰かがいるときは素顔を絶対に出さないが、イリアと2人っきりの時はこうして本当の顔、勇者ではなくまだ10歳の子どもの顔、甘えん坊の弟の顔を出す。

 イリアにはそれがたまらなく愛しいのだ。

 そして、こんな無邪気な弟にクロエの恋の駆け引きが通じる訳がないと確信したのであった。



 タズはよほど疲れていたのか、イリアの太ももの上ですぐに気持ちよさそうに眠り始めた。



「もう!可愛いわね!

 今日も無事課題クリアできたし、よく頑張ったわね、よしよし」



 そうしてタズが眠るとなんだかんだで結局猫かわいがりするイリアであった。





(クロエはこの子の勇者としてのカッコイイ部分しか見えてない・・・)


(ううん・・・クロエだけじゃなくみんなそう。)


(この子に本当は4つ(・・)の顔があることを知ってるのは私だけ・・・)


(甘えん坊のタズ、勇者のタズ・・・、ブリズになったときのタズ・・・、そして・・・・・・。)

 

(私がイリスに代わってこの子(・・・)をずっと守っていかないとね!)


 ちゅっ



 マナの交換は肌の接触が必要だが、体内から体内へと直接移動させられる口づけの方法が一番早い。イリアは誰からも見えていないことを良いことにそれを言い訳にしながら寝てるタズにそっと口づけをしたのであった。



 ちなみにサーフボード対決の前までここの場を番していたはずのアルフレッドはイリアが帰ってくるといつの間にかどこかにいなくなっていた・・・。


 グレンにやられてしまったのか、それとも娘の折檻が恐ろしくて逃げたのか定かではないが、もうじきクロエたちが帰ってくるのにいないままだとするとまたクロエが暴れそうだなとイリアはため息をついた。

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