戦いが終わって
全ての戦いが終わってから、シドル王都は大変な騒ぎであった。
魔物が現れたこと、勇者が現れたこと、魔王が現れたこと、様々な情報が錯そうし、街は大混乱であった。
また、遠く離れたブリズバーンでも戦いが起こり、ブリズバーンから逃げてきた者が王都に来てパニックを起こしたり、逆にミノタウロスの襲撃を受けて王都からブリズバーンへと逃げた者などもいて、シドル王国民は王国全土で大パニックの状況であった。
100年目の平和記念日は、過去に見ない大混乱となった。
一刻も早く混乱を治めなければと考えたシドル国王ウィリアム4世は夜も更けたという状況で、戦いを終えて疲れ果てた英雄たちを王宮へと招いた。
グレンとアルフレッドにタズとイリアの4人は王宮へと招集された。
4人は国王の謁見の間ではなく、王宮の小会議室へと通された。
4人が椅子へ腰かけると、ウィリアム(4世)が入ってきた。
アルフレッドとグレンが立ち上がり、国王に向かって頭を垂れると、タズとイリアもそれに倣って頭を垂れた。
グレンの地位は、世界の大英雄であり、本来は一国の国王より遥かに上であったが、グレンは自分の地位を誇示したり、地位を利用して人々を支配したり、尊大な態度をとったりするといったことは一度もしたことがなかった。
勇者としてだけではなく、一国民としてこの街に生まれ、この街の皆に祝福されて出発した100年以上前から街の皆への態度、当時の国王陛下に対する態度、今の国王陛下に対する態度、その全てを変えていなかった。
そんなグレンであるからこそ、国王も国中の誰もが信頼を寄せているのである。
「よいよい。グレン様、あなたに頭を下げられるとどうもワシも下げたくなってしまうわい。
ワシも子供のころからあなた様の武勇伝を聞かされて育ってきたからのう・・・。
ここはワシら内輪しかいない。普段通り楽にしていただいて結構だ。
それで、何が起こったのか至急聞かせてくれまいか」
タズははじめて国王陛下を拝見したが、見た目少し厳しそうであるが、中身は優しそうなおじいちゃんといった印象を感じた。
タズが国王ウィリアムを見つめていると、ウィリアムと目が合った。
「そこの2人はアスターのところの子どもだね。良く王宮にきたな。
ワシが国王のウィリアム(4世)じゃ」
王都最大のアテネ教の教会であり、その中の勇者派、勇者の聖地として世界中で有名なセント・メリー教会の神父アスターとはウィリアムも付き合いが長かった。
国民の大多数がアテネ教勇者派の信徒であり、世界中からも多くのアテネ教信徒がやってくるため、国政や外交政策上、アスターにはよく王宮へと来てもらい、相談に乗ってもらっていた。
そしてアスターからはアスターには可愛いエルフの子どもが1人おり、つい最近2人目ができたことを聞かされていた。
密入国したタズの身分証発行にもウィリアムは国王自らその身分を保証する形で一口噛んでいたのである。
「こんばんわ陛下!タズといいます」
「イリアと申します」
「おお!良い子じゃなぁ。遅いのにごめんな。あとでお菓子をあげるからな」
「へ、陛下今はそれどころでは・・・」
アルフレッドがつい突っ込みを入れてしまった。
ウィリアムは見た目可愛く、素直な子供たちを前にして、すっかりと近所のおじいちゃんになってしまっていた。自分の血筋の子どもたちがどうにも可愛げがないところがあるのも影響していたのかもしれなかった。
「そ、そうだったな、それで何が起こったんじゃ・・・」
アルフレッドとグレンはこの日に王都とブリズバーンで起こったことを説明した。
ウィリアムは2人の話を聞き、ひとまず魔王による脅威は去ったことを知って安堵した。
そして、この2人の小さな子供がグレンの弟子、すなわち新たな勇者であることを知って驚くと共に未来への希望を持つに至った。グレン一人だけではすべてを救いきることができないことを痛感したウィリアムにとって、新たな勇者が2人も誕生したことはこの上なく喜ばしいことであった。
しかし、そんな国王にとってまだ問題はあった。シドル王都とブリズバーンの壊れた城壁である。
2大都市の城壁はただの城壁ではない。魔法によって生成されたものであり、ちょっとした魔族では壊せない強度を持つ、国の守りの要であった。
2大都市の城壁は壊れてしまい、マナが失われた今、もう二度と魔力の通った城壁を作れないかとも思ったが・・・
「魔法が使えるボクとお姉ちゃんなら直せると思います。
時間かかっちゃうかもしれませんけど、魔法の修行もしないといけないので、ぜひやらせてください」
タズもイリアも基本的に全属性の魔法を使うことができる。
城壁自体を作るなら土や金や木の魔法を組み合わせる必要があるため、かなり高度かつ、大きな魔力を要するため今のタズらでは厳しかったが、最初から作るのではなく、直すだけであれば、それぞれについて数か月ほどの時間があれば十分修繕可能であった。
ウィリアムは、2人の話を聞いて、城壁の問題も解決したことを把握して、歓喜した。
城壁は街の安全の象徴であり、そのあるなしで住民の不安は大きく変わる。
「なんと良い子たちなんじゃ・・・。
魔法が使えることにも驚きじゃったが、この年で勇者としての覚悟を持ち、人のためにそこまでしようとは・・・。
グレン様、地上はこれからも安泰じゃのう。
城壁については当面は木材などの普通の素材で埋めつつ、王宮騎士たちに徹底警備にあたらせよう。アルフレッドよ、頼んだぞ」
「ハッ!
ですが、陛下、御無礼を承知でその件で相談させていただきたいことがございます。
・・・・・・。
誠に申し訳ないのですが、私、今日をもちまして騎士団を退団させていただきたく存じます・・・」
「な、な、なんじゃと!!??
正気かアルフレッドッ!!お主はこのわしの剣であり、盾、
この国の守りの象徴じゃぞ!!
この魔族との大戦が再び始まろうとするこの大事なときにそのような戯言、このわしが許すとでも思うのか?
・・・・・・。
・・・何があった?」
ウィリアムはアルフレッドの突然の退団願いに声を上げて激怒したが、ウィリアムにとってアルフレッドは、右腕とでもいうべき誰よりも信頼する部下であり、実の息子以上に息子のように可愛がっていた相手である。
アルフレッドが未だに独身であるのもアルフレッドの相手にするならとウィリアムがあれこれ厳選したせいでもあった。
ようやく見つけた相手であるセラとも上手くいきそうだったところで実の息子のウィリアム(5世)がどうしても欲しいというので、仕方なく血筋を立てた結果、アルフレッドは今日まで独身を貫く結果となった。
そんなウィリアムが誰より信頼し、愛してやまないアルフレッドがこのようなことを言い出すなど、深い理由があるに違いなかった。すぐに冷静になったウィリアムは、アルフレッドに説明を求めた。
「陛下、クロエール王女のことは覚えておられますか?」
「当たり前じゃ!!あの子はわしの可愛い孫娘じゃぞ!!
わしがなぜこんな年になってまでいまだに国王をやってるのかお主もよく知っておろう!!
あの子を事故死させたあのバカ息子に王位を継がせるわけにいかんからじゃ。
元々あのバカ息子は臆病すぎて国王は務まらんと思っておった。
次の国王にはあの子になってもらうはずじゃった。
あの子はおてんばじゃったが、賢く、勇気もあったし、何よりこの国のことを、民のことを大切にする国王として一番大事な資質を持っている子じゃった。お主もよく面倒見て知っておろう。
だからこそあの子は王女なのじゃ。
あの子の妹、セリシールはただのおてんば娘でてんでダメじゃ。王女の器ではない。
わしの最大の懸念は後継者がいないことじゃ・・・。
・・・・・・。
・・・あの子を失って誰より悲しんだのはこのわしじゃ。
あの子の死、はじめは王位をとられそうであったバカ息子の仕業かと疑ったが、あの臆病者にその勇気はないな。
今も落ち込むセラとわがままなセリシールのご機嫌取りで精一杯じゃ。
実に嘆かわしいっ!!」
ウィリアムはクロエールの話題が飛び出すと、溜め込んでいた不満を一気にアルフレッドにぶち当てた。
あまりの剣幕にタズらも引いてしまっていた。
しかし、アルフレッドはウィリアムから不満をぶつけられたというのに涙を流して歓喜していた。
アルフレッドにとって、国王陛下がこれほどまでにもクロエール王女のことを想ってくれていたことはたまらなく嬉しいことであった。
アルフレッドがこれから告白しようとしていることは、王子の妃を寝取ったという自身の許されざる重罪の告白でもある。しかし、この国王陛下であれば、それを聞いたとしても決してクロエのことを不利益に扱わないと確信できた。確信したアルフレッドはウィリアムに切り出した。
「陛下、クロエール王女は生きております・・・」
「な、なん・・・じゃと?
・・・・・・アルフレッドよ、
その発言がどういう意味か理解して言っておるのか?
もし虚偽ならお前であろうと首を飛ばさざるを得んし、もし本当であればこの国は大変なことになるぞ。
わかっておるのか?」
「はい、承知しております。
決して嘘ではございません。無礼も承知ですが、証拠もございます。
クロエ、入って来なさい!」
アルフレッドはひそかにクロエをこの場に連れてきていた。
騎士団長であるアルフレッドがいれば王宮の入口など誰を連れていようが当然パスである。それどころか、王宮の者たちはアルフレッドの隣を歩くグレンを見たとたんに跪いて頭を垂れて祈り始めるため、誰もクロエを視認していなかった。アルフレッドはひっそりとどころか堂々とクロエをこの場に連れてきた上で会議室の前に待機させていた。
そして、会議室のドアが開き、クロエがしずしずと中へ入ってきた。
「おじいさま・・・。
ずっとお会いしたかったです・・・
おじいさまーーーーー!」
クロエは何年も会っていなかった大好きな祖父と再会し、泣きながらウィリアムの下へと駆け寄った。
「ク、クロエール!!!お前なのか!?」
証拠どころか実物が出てきてしまってはウィリアムも信じざるを得なかった。
一目見ればそれが本物の愛する可愛い孫娘であることがウィリアムにはよくわかった。これ以上の説明も証明も不要であった。
しかも、ウィリアムが把握したのはそれだけではなかった。
王宮からいなくなったときのクロエールはまだ9歳になるくらいの年で幼かったが、それから数年経って成長した今のクロエールは少しずつその顔に親の特徴が出始めていた。
クロエールの顔立ちは、今、彼女の隣に立つアルフレッドの若い頃によく似た顔立ちであることが、アルフレッドを小さい頃から知るウィリアムにはよくわかった。
アルフレッドが実物であるクロエを連れてきた理由は、その生存という事実のほかに、これから話す信じられない事実をウィリアムにすぐに納得してもらうためでもあった。
「この子は、陛下のお孫様ではございません。
私の娘だったのです・・・。
私がたった一度だけセラ様と過ちを犯してしまったがためにこの子は王宮から捨てられ、この王都で死んだ者として扱わざるを得なくなったのです。
それで・・・・・・・・・・」
ウィリアムはアルフレッドの信じられない発言とこれまでのいきさつの説明について、実物のクロエを見てすぐに納得した。
王宮にて9年近く育てられた王女は王女ではなかった。こんな事実を突きつけられた息子夫婦はさぞかしパニックであっただろう。
ウィリアムにはこれまでの経緯が全て把握できた。
短く切られた髪の毛にやせ細った身体・・・どんなに苦労をしたらこうなるのか・・・。
王宮の前で一言事実を告白するだけで王宮の誰かが気づいて保護してくれる可能性もあっただろう、何の罪のないクロエ―ルが母たち王族を弾劾することは容易であっただろうが、それがもしされていたとしたら国へ与える打撃は尋常ではなかった。
それが全てわかっていた優しくも賢い王女の資質を有する彼女であったからこそ、彼女はこれまで見つからなかったのだろう、ウィリアムはそう察した。
「クロエールや、気づいてあげられなくてすまんかった。さぞかし辛かったじゃろう。
お前さんが本当は誰の娘じゃったとしてもお前さんはわしの可愛い孫娘じゃ。
いつでもわしを頼りなさい。王宮に戻りたければわしが無理をしてでも何とかしてみせよう・・・」
「ありがとうおじいさま・・・。
私すごく幸せです。
でも良いんです。私、王宮には戻りません。これからは王女じゃなく、ただのクロエとしてパパと一緒に暮らしたいんです。
おじいさま、どうかパパのことを許してあげてください」
「私からもお願いいたします。
この子に家族と過ごす時間をあげたいのです。
私があのとき、ウィリアム(5世)様の反対を押し退けてでもセラ様と結婚していればこの子に幸せな家族の時間をあげられたのに私にその勇気がなかったばかりに・・・。
どうかお願いいたします!
街の警備は騎士団を退団した後ももちろんやらせていただきますので、どうかお願いいたします!」
アルフレッドは無礼を承知でウィリアムに頭を下げた。
この国の後継者を残す大切な王子の妃を寝取るなど、重罪中の重罪であり、騎士団除隊はもちろんのこと、牢屋行きまっしぐらであった。
しかし、それをすれば街も国も誰も救われない。これまで声を上げずに苦労したクロエールも救われない。ウィリアムの中ではクロエールを見たその時から結論は出ていた。
そして、この様子を見ていたグレンは、勇気がなくて好きな女を誰かに取られたとか、どこかで聞いた話だな、などと思いながら、アルフレッドを応援することにした。
ついでにタズとクロエを見比べて、(きちんと成果を残せたお前の方がよっぽど勇者だな・・・)とつぶやいた。
「陛下、色々体裁ってものもあるでしょうから、私からもフォローしましょう。
アルフレッドは王宮騎士団から退団させ、私が新たに作る部隊の中に入れることにしましょう。
タズとイリアもそこに入れます。隊の当面の活動は街の復興への協力といったことにします。
これならアルフレッドが急に退団したとしても違和感はないでしょう」
「ふぅ・・・グレン様にまでそこまでされては仕方あるまいな。
アルフレッドよ、お前には罰を与える。その子を精一杯幸せにするのじゃ。家族の幸せを教えてあげなさい。
ただし、街の復興と警備はお主の協力が不可欠じゃ。
お前たちの家は民に避難してもらうことになるキャッスルヒル地区に建ててもらうことにするぞ。
クロエールの身分証はわしが後見人となって、お前の娘として登録した上で発付しておいてやろう。
名前はクロエがいいわけじゃな。わかった」
「陛下!何から何まで!お心遣い感謝いたします!」
「おじいさま!ありがとうございます!」
「可愛い孫娘のためじゃ。このくらいなんてことはないわ。
しかし、グレン様にもアルフレッドにも立派な後継者ができたというのに、わしの方はどうしたもんかのう・・・。
わしにもタズのような良い孫が欲しかったのう・・・。
そうじゃ。タズをセリシールに紹介するというのもいいかもしれんな。あのおてんば娘もタズなら文句なしじゃろう。
勇者と姫・・・後継者問題も一気に解決じゃ」
ウィリアムが名案とばかりにそうつぶやいた瞬間、会議室が凍り付いた。
「おじいさま・・・絶交ですわよ」
「陛下、アスターおじいちゃんに言いつけますよ。
タズ、とっととこの国を出て別の国行くのはどう?」
クロエとイリアが同時にウィリアムを威圧した。
「じょ、冗談じゃ・・・。
セリシールに良い相手が早く見つかると良いのう・・・」
クロエの威圧もすごかったが、イリアの発言内容はこの国の今後を大きく揺るがす爆弾発言であり、ウィリアムはセリシールを紹介する案を白紙に戻さざるを得なくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「話を戻しますが、俺からも陛下に相談させていただきたいことがあります。
今後のこの国の在り方、今後の世界の在り方にも関わる問題です。
1つ目はこの子どもたちを勇者として陛下が認められるか、否か
2つ目は魔法の復活の公表をどうするか
です」
グレンが切り出した問題は大きな問題であった。
1つ目の問題、勇者の誕生は喜ばしいことであるが、逆に言うと魔族にとってそれは最悪の出来事、それを宣言することはこの小さな子どもたちを魔族の標的にするということだ。
しかもこの子どもたちだけの問題ではない。この国が再び戦地となる危険性がある。
未熟な勇者の存在は人々に安心をもたらすだけではなく、不安を煽る結果にもつながりかねない。おいそれと公表できる事実ではない。
2つ目の問題は、世界にとって恐ろしい事態である。マナがない世界が続いて100年。
最初は混乱し、その不便さを嘆いていたが、代わりに人の知恵が発達した。天学と呼ばれるこの星の仕組みを理解する学問が発展し、世界中で様々な文明改革が始まろうとしていた。人々は魔法なしでも暮らしていける力をつけ、魔法がないおかげで得ることができた平和というものをはじめて噛みしめることができたのだ。
平和はこの地上で最も尊いものであり、人々の心に根付き、心の安定の支えとなっていた。
魔法の復活、それも魔族側だけの一方的な復活というのは恐ろしいことである。
もちろん、人々がマナを持たない以上、魔族たちが人々を襲う理由は依然としてないままである。
しかし、魔族は何千年と前から争ってきた相手であって、敵であることに変わりはない。魔族に魔法という武器がもたらされたという事実は、生殺与奪権が敵にのみあるという恐ろしい事実であることに変わりなかった。これまたおいそれと公表できる事実ではない。
それがわかっているからこそグレンはこの問題を切り出したのだ。グレンはさらに続けた。
「はじめに私の考えを述べさせていただきますと、1つ目の点については、王宮騎士たちや今日試験を受けに来てこの大戦を支えた戦士であり新たに騎士となった者たちは皆、タズたちが勇者であり、タズが四天王を倒したことを知っています。
10歳の子どもにその重責を負わせるのは私としても心苦しいですが、今更隠し通せるものではありません。
その上、この2人には既にその覚悟があります。
それに耐えられる実力についても今はまだ未熟なひよっこですが、これから地獄の特訓を施して身に付けさせていきます。今までは甘々でしたが、魔族どもがこの王国を攻める気などなくさせるほどに仕上げてみせますので、ご安心ください」
タズたちはグレンの話にうんうんうなずいていたが、「地獄の特訓」という言葉を聞いてからブルブルと震え出した。これまでの特訓は「甘々」であり、「地獄の特訓」ではなかったという現実と、これからはもっと恐ろしい「地獄の特訓」が始まるという衝撃的事実に震え出した。タズはお姉ちゃんを頼るべく机の下でイリアの手を握ったところ、イリアの手も汗びっしょりでプルプルと震えていた。
「次に2つ目についてですが、これも同じく今更隠し通せるものではありません。この王都では多数の者が死んだはずであるのに、タズの魔法によって蘇っていますから。
魔族の一部が魔法を手に入れたことは悲観するべきでありますが、復活したその数は多くない上、その中の強豪である四天王以上は今回の戦いで全て消滅しました。マナを復活させたこのタズの姉がこの戦いで命を落としてしまったことは悲しいことですが、あとは残った魔族を殲滅するだけで良いと考えると人族に希望はあります。
また、この2人も魔法を使えるため、人族にとっては希望となりえるでしょう。
実は俺のほうもほんの少しだけマナを得たのですが、元々俺はマナ変換効率が高くないのもあって、このマナをこのまま使おうとすると初級魔法が限界です。皆に過剰な期待を持たせないため、万が一魔族が聞き耳を立てていた場合の対策のためにも俺がマナを持っていることは伏せておいた方がよさそうです。俺も基本的にはマナを使う気はありません。
そうなると、結局は、この2人を勇者として国を挙げて認めて讃え、魔法を修得しており、人族の切り札であることを宣言するのがもっとも民にとっても安心できるということになろうかと思います」
・・・・・・・・・・・・・・
「フム・・・
その通りにするしかないじゃろうな。問題は他国じゃ・・・。この戦争を他国に隠しておければよかったが、これほどのことがあれば隠してはおけんし、マナを復活させた魔族が地上にうろついているとなると、世界を上げて対策が必要じゃ。
やることは盛りだくさんじゃな・・・」
そうこうしながらグレンたちとウィリアムのこの国の今後に関する打合せ会議は朝になるまで続いた。
タズとイリアは戦いの疲れと緊張が解けた反動でいつの間にか寝てしまったため、グレンが王宮の客室のベッドに運び、いつも通り仲良く2人で寝かされた。
他方、年長者のクロエは眠らず、さらに朝方まで会議についていった。
クロエは王宮にいた当時、いずれは国王となるべくして英才教育を受けていたため、国の今後のための会議にも十分ついていくことができた。
その上、今のクロエは、スラム街からみた国の内部の情勢や外国人としてどんな人間がこの王都を訪れていたのかにも詳しく、グレンやアルフレッドでもわからない貴重な視点を提供していた。
王女は王女を辞めた後でも誰よりも王女であった。
ウィリアムとしては何としてでもこの子に国を継がせたいと強く思うようになっていた。
(いざとなればアルフレッドを養子に迎えて、そちらに王家の血筋を移すとするかのぅ)
会議を終えて朝になり、仮眠のためにウィリアムやアルフレッドは自室に戻ろうとしたとき、クロエは久しぶりに誰も使わなくなった自室に行くと思いきやアルフレッドについていき、アルフレッドの部屋に泊まることとなった。
クロエにとっては、今日はアルフレッドと正式な親子となって初めての夜でもあり、クロエとしてはパパに甘えたくなっていたのだった。クロエはアルフレッドにひっついてアルフレッドの部屋へと入っていった。
そして、それを目撃してしまった夜間警備の騎士は・・・
(団長が幼女を部屋に連れ込んでる・・・。パパとか呼ばせて怪しげな雰囲気だ・・・。
ヤバいものを見た、いや、俺は何も見ていない!幻だ!)
そうしてクロエが王宮にいることを気付かれることはなかったという。
一方、グレンはそもそも睡眠自体不要である上、全く疲れてもいなかったため、このまま王都の様子を見に行くことにし、警備にあたった。
昼には弟子たちのパレードが始まるため、今日くらいはゆっくり安心して寝られるよう念入りに見回りをしていた。




