戦いの翌日
王宮の客室にて仲良く眠っていたイリアとタズは、イリスを失った悲しみと寂しさからぎゅっと抱き合いながら眠っていた。
翌朝、目を覚ました2人は、今まで眠ったことがないような高級なベッドの上で目を覚まし、その上とてつもなくゴージャスな部屋で、若干パニックを起こしそうになっていた。
部屋の中にお風呂もトイレも洗面所もあるのに、いつもの癖で2人で部屋から外に出て洗面所を探してしまった。
服は王宮に来たときのまま、余所行きの格好であったからまだセーフであったが、髪はぼさぼさだった。
「お姉ちゃん、ここどこだろ?もしかして勝手に出歩いたらまずいんじゃ・・・」
「そ、そうね・・・よく考えたらあれだけ広い部屋だったんだし、部屋に洗面所くらいあるかもしれないわ。
そもそも、わざわざ顔とか洗わなくても魔法でなんとかなるじゃない・・・。
行くわよ!リフレッシュ!」
イリアは回復魔法を自分たちに唱えて、パニック+寝ぼけていた頭を活性化させつつ、顔を綺麗に整えて、髪もツヤツヤのサラサラに戻していった。
タズも負けじと木魔法をかけて、2人が着ていた服をシワのない綺麗な状態に戻していった。
ちょうどタズたちが問題ない格好に戻ったそのとき、後ろの方から人が来る気配がした。タズたちは後ろから何者かに声を掛けられた。
「アンタたち誰?怪しいやつね。今警備の騎士たち呼んでくるからそこを動くんじゃないわよ」
「えっ!?ボ、ボクたち招待された者でして、怪しいやつじゃないです・・・」
「(ちょ、ちょっとタズ、自分で怪しいやつじゃないっていう奴ほど怪しいのよ)
わ、私たち、アルフレッドさんという人の紹介でここに泊めてもらったの。
しょ、詳細はアルフレッドさんに聞いてくださるかしら・・・」
タズたちが言い訳しながら振り返ると、そこにはタズたちくらいか、少し年下くらいの女の子がいた。
その子はライトブラウンのウェーブのかかった髪で、頭の下の両端をしばっており、長めのツインテールが胸の辺りまでかかっていた。
気品がありそうで、どこかで見たようなそんな既視感を覚える子であった。
「ふーん。あなたたち、エルフだったのね。
へえ、あなた結構かわいい顔してるじゃない。気に入ったわ。私の下僕にしてあげてもいいわよ。
そっちのブサイクなアンタはいらないわ。森にでも帰りなさい。アンタみたいなブスには森のむさいオークがお似合いよ」
イリアはその女の子の失礼な発言にこめかみに青筋が立ちそうになっていた。もしイリアがブサイクならこの王都にいる女子全員ブサイクになってしまうだろう。
(何この子、ヤバいくらいに生意気なんだけど・・・。
王宮にいる生意気な女の子って・・・しかもこの顔・・・もしかして・・・)
「も、もしかしてキミが国王陛下が言ってたセリシール様!?
初めまして、ボク、タズっていいます!
えへへ、ありがとう!ボク、まだここに来たばかりでお友達もあんまりいないんだ。
良かったら仲良くしてくれる?」
「フン。私の名前は知っていたようね。まあ当然だけど。
あなた、なかなかの忠犬っぷりね。ますます気に入ったわ。
はい、お手」
セリシールはそういって手を出した。
すると、タズはあろうことか片膝をついてその手を取った。
(ちょ、ちょっと、ちょっとタズ!何やってんのよ!お手なんてそんなのやめてよ!バカ!)
イリアはさすがにお姫様に向かって無礼な口をきくわけにもいかず、心の中で弟に向かって叫んだ。
しかし、タズは止まらなかった。
だが、タズは、手に取ったセリシールの手をひっくり返して手の甲の方を上にすると、そこにそっと口づけをした。
「な、な、な、な、な、な、な、
ちょ、ちょっと、あんた、何にしてんのよ!!!」
「えへへ、よろしくね、お姫さま!」
タズがしたのは、お手ではなく、王子のキスだった。
そして、キスしてから顔を上げて満面の笑顔でニコっと微笑みかけ、真っすぐに見つめて「お姫さま!」だ。
イリアはそれを見て、またこの弟は即死コンボやらかしたと確信した。
タズはイリス譲りのとてつもなく整った顔をしている。
まだ幼いが、身体も引き締まっているし、戦いを終えて顔に少し凛々しさが出てきている。
そんなタズに王子のキスをされて、微笑みかけられて、ジッと見つめられてお姫さま呼ばわりなど、世界中の同年代の女子が悶絶する案件だ。
セリシールも真っすぐ見つめてくる瞳を見つめ返せずに目をそらしており、完全に敗北してしまっている。
一方、タズとしては、「お姫さまには手の甲にキスするのが挨拶なのよ」というイリスの英才教育のとおりのことをしただけだった。
「あっ・・・。
ありがと・・・。
べ、別にあなたにお姫さまなんて呼ばれても嬉しくなんかないんだからっ!
勘違いしないでよね!」
セリシールは顔を真っ赤にして逃げるように反対を向いてすたすたと来た方向へと帰っていった。
やらかしたことはともかく、厄介な相手を追い返すことに成功したことには違いなかった。
タズたちはそそくさと部屋に戻って迎えが来るのを待つことにした。
(こんなところ、クロエに見られなくて良かったわ。命拾いしたわね、タズ。
・・・・・・さっきの私にも後でやってもらおっと)
しかし、タズたちがいたその先の廊下の曲がり角には・・・
アルフレッドにドスドスと腹パンしながら3人の様子をこっそり覗いていたクロエがいた。
クロエたちは、タズとイリアの2人を起こして、一言挨拶してから城を出ようとして、ちょうどタズらの部屋に向かっていたところだったのだ。
(ターーズーーーくぅううううううううううん。
私の妹のセリスにあんなたらしテク使うなんて何考えているのかな?
これはお仕置きするしかないかしら?うふふふふふ。
セリスも何まんざらでもない顔して喜んじゃってるわけ?お姉ちゃんにしばかれたいのかな?
なんかお姉ちゃんいなくなってわがままし放題に育ってるみたいだけど、私の顔見たらどうなっちゃうんだろ?早く会いたいなぁ!楽しみだなぁ!
ドス!ドス!ドス!ドス!)
「(ク、クロエ・・・ちょっと抑えなさい)」
「(ん?・・・何か言った?パパ?)」
その後、クロエがタズたちの部屋に踏み込むと、ちょうどイリアがタズにさっきと同じやつをしてもらっているところであった。
「イーーーリーーーーアーーーちゃーーーん?
ナニしてるの?」
「ク、クロエ!!??
こ、これは何でもないのよ!
そう練習っ!練習よ!
クロエにする予行演習・・・的な?」
タズがイリアに王子のキスをする様子を見たクロエは火に油を注ぐように激昂したが、イリアの回避力も大したものだった。
クロエは姉の言質と許可を取ったことを良いことにタズに詰め寄ってクロエにも同じのをお願いした。
そして、クロエにもタズが同じことをしたらクロエの炎は一気に鎮火された。
「ちゅっ。ボクの大事な大事なお姫さま。困ったことがあったらいつでも駆け付けるからね!(ニコ)」
クロエはその技の破壊力に悶絶し続けたという。クロエは終始ニヤニヤしながら城を出て行った。
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昼になると、国王陛下による演説がはじまり、王宮前の広場に集まった国民たちに向けて昨日の戦いの顛末が発表された。
魔族が攻めてきたこと、一部の魔族が魔力を得ていたことを告げ、さらに、グレンとその弟子が魔族を追い払ったこと、グレンの弟子たちは魔法を使って対抗したこと、グレンの弟子たちの活躍もあって、魔王を倒すことに成功したことなどが発表された。
国王ウィリアム4世の隣には、右隣にはグレン、左隣にはタズとイリアが立っていた。
人々は不安な気持ちになるのではなく、新たな勇者の誕生に天が人族に味方をしていることを強く感じた。
一方、その後ろから演説を見ていた他の王族はといえば・・・
(あいつら、勇者だったわけ!?
虫も殺せなさそうな大人しそうな顔しておきながらこの私にあんな恥ずかしいこと・・・。
ゆ、許せない!
べ、別に勇者様の口づけなんて憧れてなんかないんだからーーーっ!)
セリシールは一人いきり立っていた。なお、先ほど口づけされた右手はまだ洗っていなかった。
セリシールはクロエの妹として育ったせいでクロエと一つ共通する趣味嗜好があった。趣味嗜好というよりは姉による洗脳教育の効果と言った方が良いかもしれない・・・。
勇者様大好き!
それが小さい頃の両姉妹の口癖だった。
タズはなぜか背後からの威圧に悪寒を感じた。
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その後、盛大なセレモニーとパレードが開かれ、新たな勇者であるタズたちは大いに讃えられ、助けてもらった人たち、生き返らせてもらった人たちは奇跡の子どもたちを一目見ようと中央広場に大行列を作った。
遠くから勇者のパレードを見た串焼き屋のジョージやその常連客達などのタズの知り合いは、あの可愛い子供たちがまさか勇者などとは思ってもみなかったため、ひっくり返りそうになるほど驚き、あの子たちならと、新たな勇者の誕生を心から祝福した。
さらには・・・
「天使様ーーー!こっち向いて―――!
エンジェルイリア様ーー!
がわいいいいいいいいいいいいい!」
パレードでのイリアは、お姫さまのように着飾らせられていた上、恥ずかしさから顔を真っ赤にしている様子が天使のようにとても可愛らしく、あっという間に大勢のファンを作っていた。
もっと近くでイリアを見たいというむさ苦しいファンたちが詰め寄ってきていたが、
「おいそこ!イリア様に近づき過ぎだぞ!」
イリア親衛隊(自称)のトマスとウィルがイリアファンの交通整理を行っていた。
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「勇者様!素敵ー!かわいいー!かっこいいーー!」
また、タズの方も王子様のように着飾っていて、老若男女、イリア以上にファンを作っており(特に女性陣)、タズが満面の笑みで手を振り返すと鼻血を噴出して倒れる女子までいた。
「ちょっとちょっと!タズくんは私の勇者様なんだから、にわかは引っ込んでてよね!」
タズに黄色い声援を送るファンに噛み付く女子も約1名いた。
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通常であれば平和記念日から1週間続く大祭も、今回の大戦により中止となると思われたが、王国民の多くは、平和の大切さを訴えるためにも、祝うべきだという意見が多数占め、大祭はそのまま続行されることとなった。
特にブリズバーンの方は、街に壊滅的なダメージを受けたのであるが、グレン自ら街へと足を運び、復旧を手伝っていた。
百人力という言葉があるが、グレン1人の力はブリズバーン街民全員をも超えており、超スピードで復興が進められている様子であった。
そんなブリズバーンでも夜になって復興作業が一時中断されると、街を救ったグレンを讃え、亡くなった人々の冥福を祈るお祭りが連日開催されていた。
グレンは、大戦においてアイリスからわずかなマナの譲渡を受けたが、復興作業中、マナを使うことは一切なかった。元々、もらったマナは転移魔法等、上級魔法が使えるほどの量ではなかった上、このマナはアイリスが憑依した召喚獣の命そのものでもあり、イリスに言われるまでもなく、使いきってしまうと何かマズいことが起こるような気がしていた。
いや、むしろ既に異変が起こっていたといった方が良いかもしれない。グレンはサタナキアと戦った際にわずかながらマナを使ったときから自身の身体に何か異変が起こっている気がしていた。
グレンは不老不死になるとほぼ同時的にマナも失い、そのまま100年経ったため、長くマナがあるときの感覚を忘れていたが、マナが自分の身体を蝕もうとしている感覚を覚えるとともに、アイリスから受け取ったマナは自らの意思でそうしないようにしている、そんな感覚を覚えた。
グレンの当面の目標はマナをこれ以上使用しないようにしつつ、イリスの言っていたマナの瞳とやらを探すこととなった。
今のところあてもない上、弟子たちを鍛えなければならないため、しばらく先となりそうだったが、あいにく不老不死のグレンには時間はいくらでもあった。弟子たちを鍛えて天空の塔を起動させ、魔界へ飛ぶ、グレンの当面の行動はとりあえずはこれに決まった。
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セレモニーにパレードにと普段の稽古よりも疲れる一日を終えたタズとイリアは、それでも日課の魔法の練習だけは欠かさず行った。
2人には街を復興させた後、やるべきことが2つあった。
一つ目は言わずもがな、地上に降り立ち、マナを復活させた悪魔族を倒すことである。
グレンの話では将軍クラスの魔族、それなりに強い魔族もまだ残っているようであるが、グレンがエビルサタンを襲った際にどこかへ散り散りになったようであるため、今すぐ探そうにも探せなかった。
二つ目は賢者の石を集めることである。
タズがイリスから受け取った手紙には、こんなことが書かれていた。
「タズへ
今日あなたの下へ行けることがわかったのでこの手紙を書くことにしました。
お姉ちゃんの言う通りに王都に行って元気に暮らしているみたいね。
私は遠くからだったけど、ちゃんとあなたの様子を見ていたわ。
だから今、あなたがとても厳しい戦いに巻き込まれていることもわかっています。
本当ならすぐにでも助けにいきたいのだけれど、エビルサタンの監視も厳しくて自由に動けません。
この手紙もエビルサタンが戦い始めて監視の目が切れたからようやく書くことができたわ。
時間がないから短く要所だけになるけれど、今教えておかないといけないことを書くわ。
私がこの手紙をあたなに渡したのだとしたら、この戦いが終わった後、私はいなくなっていると思います。
でもそれは永遠のお別れじゃありません。
タズ、賢者の石を集めてください。
あなたが今持っている魔石は、私が賢者の石と呼んでいるものです。この石は、あなたや村の皆、私も持っているけど、他にも持っている人が世界中のどこかにいます。
この石を持っている人とあなたはきっと引かれ合うと思います。どこかで必ず会えると思います。
この石はあなたを守るために作ったもの。基本的にはあなた以外には使えないようになっています。
でも、あなたを守りたいと心から思った人には力を貸すようにも作っています。
もしかしたらこれを悪用しようとする魔族も現れるかもしれません。賢者の石の一部が魔族に渡ってしまうこともあるかもしれません。特に私の石にはもしかしたら誓約の効果が残ってしまっているかもしれません。
この石を持つ人たちと一緒にこの石を守り抜いて、集めてください。
この石を全て集めたとき、きっと私ともまた会えると思います。
そのときまでお別れです。
元気でイリアちゃんと仲良く暮らしてね。愛してるわ。
あなたのお姉ちゃんより
P.S.
イリアちゃんへ
いつもタズを守ってくれてありがとう。
これからもタズのことをお願いね。
イリアちゃんはとっても強い魔法使いになれると思います。夢に向かってがんばってください。
私も心から応援しています。
応援ついでにイリアちゃんに賢者の石、結構大きいの埋め込んじゃったけど許してね!
―----ーーーー」
イリアはこの手紙を読んで何故自分が急に魔法が使えるようになったのかを悟った。
イリスはひそかに以前イリアのところまで遊びに来ていたときにこっそりとイリアの身体に賢者の石を埋め込んでいたのだ・・・。
そして、イリアが心からタズを守りたいと思ったあの日、イリアのマナが覚醒し、魔法が発現した・・・。
全てイリスに仕組まれていたのだ。
イリスは許してねなどと言っていたが、その逆であった。
感謝しても感謝しきれないのはイリアの方だった。イリアの魔法使いになりたいという夢を叶えてくれたのは、大好きで尊敬するイリスお姉ちゃんだった。
そして、大好きなタズを支え続けさせてくれる力までくれた。
感謝の気持ちしかなかった。イリアは今まで以上にイリスのことが大好きになった。
この世界にはイリアと同じようにいつの間にかイリスに賢者の石を埋め込まれた仲間がいるのだろう・・・。
イリアとタズが出会った瞬間から引かれ合って惹かれ合ったように、きっとそんな仲間たちともこれからどこかで出会うのだろう。
2人は今は仲間を探す当ても仲間を守れる実力もないため、修行の続きと情報収集に専念しようと考えた。
イリスは消えてしまったけれど、2人はイリスとのお別れの日以降は、大きく悲しむことはなかった。
イリスの作った絆が確かに3人をつないでくれていた。
イリスが作ったまだ出会っていない仲間との絆を結んでいけば、その先にイリスがいる。
2人がイリスを探す旅は、まだまだこれからだったのだ。
イリスの手紙の最後にはこう書いてあった。
「2人とも大好きよ。いつか3人で一緒に暮らしましょうね!」
この一文を読んで3人の夢に向かって前に進む覚悟を決めたイリアとタズであった。
次話でこの章はラストになります。




