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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
決戦―魔王エビルサタン
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エビルサタンの勝利条件

 エビルサタンはグレンと戦うその前から、自らの勝利条件を考えていた。

 


 至上の勝利条件はグレンと出会わないことであったが、出会ってしまった以上はこの条件は満たせない。


 ではグレンを倒すことかというと、グレンは一目見た瞬間に恐ろしいまでの(アルス)の加護を受けていることがわかり、今のグレンを倒すことは今のエビルサタンではイチかバチかに出るしかないほど困難であることがわかった。



 当初、四天王に課していた目標である捕縛もこの様子では困難だろう。



 そうなると、残るは最低限死守すべき条件をクリアすることである。


 

 最低限死守すべき条件



 ―グレンとイリスを会わせないこと― 



 である。



 つまり、エビルサタンのこの場での勝利条件は、イリスを連れての逃走、それ以外にはない。






 そして、エビルサタンは、今、その勝利条件を満たすためのピースが揃いつつあることを感じていた。





 一つは、幸か不幸かバトラーが大戦前にバトラーに持たせた闇の召喚陣を発動させたことである。




 闇の召喚陣・・・このアイテムは特定の魔族を召喚する転移アイテムである。




 転移魔法はそもそも超高難易度の無属性魔法であり、先の大戦時でも転移魔法を使える者はほとんどいなかった。もし誰でも使えるならそもそも天空の塔は不要である。



 転移の原理が解明不能であるため、マナの操作に長け、全属性の魔法を使える才能があったとしてもそれだけではこの魔法にはたどり着けない。今のエビルサタンでも転移魔法は使えなかった。


 エビルサタンは地上にて魔界にいた四天王たち配下を呼んだが、それは転移ではなく、自分の配下を生み出す召喚儀式魔法である。対価として自分の命の一部をも生贄に捧げて、それを触媒に配下の悪魔族を転生召喚させるだけであり、転移魔法よりも原理は遥かに単純で、転移魔法とは全く異なる仕組みのものである。



 転移魔法はそんな幻の魔法であったが、魔界にはかつて転移魔法が使えた魔族がいた。



 いや、転移魔法が使えたというよりは、その人物はどんな高難易度魔法でも使いこなし、かつ、その武力はグレンをも超え、不死にして魔界最強・・・


 言わずもがなの偉大なる大魔王ダークネス・ブリゾネーター・ビューズ


 かの魔界の帝王は、生前、その神のごとき魔法で様々なアイテムを作った。そのアイテムは魔神器と呼ばれている。そしてその魔神器の一つが闇の召喚陣である。



 闇の召喚陣は、理屈は不明であるが、闇の召喚陣が存在している(発動している)場所へと所有者として登録された魔族の召喚(転移)が可能となるものである。



 マナが存在していた頃から貴重とされたアイテム。



 マナが消滅してからも大魔王の無尽蔵の魔力が込められて既に魔法が発動した状態であった魔神器は、その力を発揮し続けることが可能であり、マナバーン後は途方もなく貴重なアイテムとなった。


 

 魔神器のほとんどは大魔王が城ごと消滅させられたのと同時に行方不明となったが、このアイテムは大魔王城には置かれておらず、大魔王の腹心の魔王の手元に置かれていたため、消滅を免れた。



 闇の召喚陣は大魔王の腹心の魔王、つまり悪魔族の先代魔王サタンが持っていたのである。


 

 エビルサタンは、父亡き後、この魔神器を引き継いだ。



 大変貴重なアイテムであったため、これを巡って魔界で争いも起こったが、エビルサタンは知恵を振り絞ってこれを死守した。


 そうしてついた通り名が魔界の智将である。


 闇の召喚陣を死守するのに悪魔族は多大な犠牲を強いられた。しかし、その犠牲は無駄ではなかった。



 なぜなら、これがあったからこそエビルサタンは地上にやってくることができたからである。



 エビルサタンがいくら強靭な肉体を有していたとしても魔法なしで(魔法有りでも)魔界と地上を行き来することは不可能だった。


 魔法なしで魔界と地上を行き来した人物はたった一人である。その人物は大戦後に魔界から地上へと帰った。その人物は不老不死の身体を持つために普通の生物にはあまりにも厳しい環境である宇宙空間を移動することが可能だったのである(なお、その人物が魔界から帰った際の実体験については19話参照)。


 一方、エビルサタンにできたのは、せいぜいこの小さな魔神器を地上へと飛ばすことだけであった。


 それもかなり地味な方法で、マナの巫女が地上に生まれたのを感じてから何年もかけて飛ばした。



 地味な方法・・・全力で地上に向けて発動状態の闇の召喚陣を投げ飛ばしては自分を召喚し、地上の方向へと軌道修正しつつ再び全力で投げ飛ばすという途方もなく地味な作業の繰り返しで何年もかけてやっとの想いで地上へとたどり着いたのである。



 エビルサタンは地上に着いてから闇の召喚陣を、大量に消費してしまった魔力回復のために一旦起動を停止させ、その状態のままバトラーに手渡した。魔法をあまり使わないバトラーに魔力を魔神器へ供給させるという目的もあった。また、闇の召喚陣は転移だけでなく、それを持つ者と所有者との間でコンタクトも可能にするアイテムでもあった。



 

 グレンと会話して時間を稼いでいた間、闇の召喚陣で逃げられないかと考えていたエビルサタンは、闇の召喚陣を通してこれを持たせたバトラーに語り掛けていた。

 が、バトラーから反応が返ってこなくなったことなどからするとどうやらバトラーは少年に負けたらしいことがわかった。

 それ自体は非常に悔やまれることであった。しかし、そうであったとしても、バトラーは最後に魔神器を発動させてから消滅したらしく、エビルサタンにとってはこの場から逃走するためのアイテム(魔法)が発動してくれていることはありがたいことであった。




 後はイリスを回収して一緒に転移するだけである。闇の召喚陣はエビルサタンが掴んだ者、オーラで包んだ魔族も一緒に転移させることが可能であった。




 ここはだいぶオストルン大陸から離れている。さすがのグレンでもここからシドル王都まではどんなに速く飛んで行っても数時間はかかるはずである。


 それほどの時間があれば、その間にさらに逃走し続けることは十分可能。



 そして、その後にじっくりと魔界に戻る方法を検討すれば良かった。



 今転移すればおそらくはバトラーを倒したイリスの弟の前に出ることになる。


 

 エビルサタンとしては、当初はいざというときに自分の手でイリスの弟を倒すために召喚陣をバトラーに持たせたのであるが、今はそれは叶いそうにない。



 イリスの目の前でエビルサタンがイリスの弟を殺すのは論外だった。



 エビルサタンがイリスをコントロールするためにその弟を殺しておくことは非常に重要と考えていたが、それはイリスが見ていないところでという条件付きである。今はイリスと共に逃げることが最優先である以上、現時点ではそれは諦めるしかない。



 それに闇の召喚陣を王都に隠して置いておけばいつでも狩りに行くことは可能になるので機会がなくなるわけではなかった。



 とりあえずは今はイリスと逃走することだけ考えれば良い。




 イリスについてはアスタロトに呼びに行ってもらっている。




 エビルサタンの邪眼は、今は常にイリスを捉えるようにセットしているため、間もなくイリスが面倒だ、今弟に手紙を書いていたのに、などとぶつくさ文句を言いながらアスタロトに連れられてデッキへと上がってくることがわかっている。





 これから訪れる一瞬が最大の勝負である。





 エビルサタンがここでなすべきこと、それは


 

 デッキに出てきたイリスがグレンと会う前に転移する、



 である。




 エビルサタンは戦闘開始前、直ちにこの勝利条件を思いついたが、実際、かなりの賭けであった。





 もしイリスとグレンがわずかでも接触し、グレンにマナが少しでも戻ればゲームオーバーである。


 地上の女神の化身、伝説の勇者であったグレンは、神の力-神はその場に存在し続ける-すなわち一度行ったことがある場所に好きに転移できるというとんでもない転移魔法を使えるため、魔界だろうと地獄の果てまでグレンは追ってくることになる。



 考えただけでも恐ろしいことである。




 エビルサタンが残りのマナも考えずに超絶魔法を連射してグレンに回復する暇を与えていないことにはそのような理由があった。グレンを身動きできない状態にして、イリスがデッキに上がってきたその瞬間を勝ち取る・・・エビルサタンにとってこの戦いはそういう戦いであった。


 



・・・・・・・・・・・・・・・・・






 そして、このことの裏返しのように、グレンの狙いもまたそこであった。



 グレンもエビルサタンと全く同じように、イリスさえ押さえてしまえば、どうとにでもなると考えていた。



 実際に戦ってみると、エビルサタンはその魔法の威力も技術も尋常ではなかった。



 究極魔法すら並行詠唱で唱えていくようであるから、今のグレンでもエビルサタンを倒すことは容易ではない。


 

 むしろ、エビルサタンを倒し切れるほどの力を出そうとするとこの地上がどうなるかわからない。



 本気でやり合うなら頑丈な魔界でやるべきだろう。


 

 グレンも魔法の嵐をジッと耐え凌ぎながら、イリスが出てくるその一瞬だけを狙っていた。





・・・・・・・・・・・・・・





 そして、ついにそのときがやってきた。

 


 イリスがアスタロトに連れられてデッキへ出てきたのである。




「なんだか騒々しいわね。

 一体どうしたの?」




「み、巫女様!

 一緒に来てください!

 弟様のところに一緒に行く準備ができましたので、弟様のところまで行きましょう!」



 エビルサタンは自分より上位の魔法使いであるイリスに転移魔法を解除されてもゲームオーバーであったことから、イリスが付いてきやすいように誘う言葉をかけつつ、イリスの方へと手を伸ばした。



「させるかーーーーーー!!」



 エビルサタンが少しイリスに注意を向けて攻撃の手を緩めた瞬間、グレンがこの瞬間を狙っていたとばかりに起き上ってきた。




 ここから先が賭けであった。



 グレンとエビルサタンのどちらが早くイリスにたどり着くか。




 エビルサタンはイリスに手が届きそうな場所にいるが、グレンは遥か後方の海(氷)の上。



 この瞬間のことも考えてエビルサタンはグレンを風魔法で後方へ吹き飛ばしていたのである。



 

 エビルサタンはグレンの姿を背中に隠しながらイリスの手をつかんで召喚陣を使って転移していこうとする。



 しかしグレンもこの瞬間を狙っていたため、今まで超絶魔法の嵐を無抵抗で受けながら溜めていた力を解放し、目にも見えない速さで一気にその距離を縮めた。



 本気を出したグレンの速さは尋常ではなかった。


 

 

 この速さだけはエビルサタンも計算外であった。



 距離的にみればアドバンテージは圧倒的にエビルサタンにあったが、グレンの速さの前にはイリスを説得しなければならないエビルサタンの方が実は遥かに不利だったのである。



 魔法使い系であるエビルサタンは、力でも素早さでも地上最強であるグレンには勝てない。




 

 このままではエビルサタンの敗北は決定的であった。



 


 だが、この状況すらもまだ魔界の智将エビルサタンが読んでいた状況の内の1つ・・・


 



 今この場で唯一、グレンの力と速さについていける、頼りになる部下(師匠)がいた。





 グレンとエビルサタン(イリス)の間には闇魔気を纏ったダークデビル・イブリーズが割って入ってきた。




「主様の邪魔はさせんぞ!」




「どけえええええええええええええ!!」



 グレンは間に入ってきつつ攻撃してきたダークデビルに応戦せざるを得なくなった。



 即座にグレンとダークデビルの戦いがはじまった。



 この一瞬に全てを賭けて力を貯めていた本気のグレンはダークデビルをあっさりと倒した。

 グレンの渾身の一撃がダークデビルに突き刺さってダークデビルは吹き飛ばされながら消滅していった。



「エビルサタン様・・・ご武運を・・・グフッ」



 しかし、グレンはダークデビルを決して瞬殺できたわけではなかった。


 ダークデビルを退けたグレンがエビルサタンたちがいた方へ向かって手を伸ばすも、もうその手の先には誰もいなかった。



 魔界の智将対地上最強、その第一ラウンドはグレンの勝利ではあったが、敗北でもあった。




 見事にグレンからの逃走に成功したエビルサタンは試合に負けて勝負に勝った。



 ダークデビルは変身すれば知性は減退してしまうが、他の四天王と異なり完全な暴走状態になるわけではない。


 ダークデビルは変身してもなお同じ轍は踏むまいとこの場で果たすべき役割を理解していた。



 ダークデビルの真の姿・・・その上、闇魔気を纏った状態のダークデビルは、純粋な力だけをみれば悪魔族最強。


 もしダークデビルがハ・デスやラビエル、四天王以下の悪魔族たち程度の力しか持っていなかったとすればグレンに簡単に退けられて、エビルサタンは逃げられずに終わったであっただろう。



 エビルサタンは、最高の師に守られて、この戦い最大の賭けに勝ったのであった。


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