表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
決戦―魔王エビルサタン
64/106

魔界の智将

 船が揺れるほどの大きな物音を立てながらダークデビル・イブリーズが船のデッキにいたエビルサタンの前へと降り立った。



「エ、エビルサタン様!

 申し訳ございません!

 我ら四天王3人はグレンの前に敗れました!

 我々3人とも真の姿を解放しましたが、奴も謎の力を解放しまして、まるで歯が立ちませんでした!

 ラビエルとハ・デスは消滅しました。


 私だけでも報告をばと・・・」




「・・・そうですか。

 ・・・それでグレンがどうしてこちらへ?」




 エビルサタンは元々、四天王3体でグレンを抑えることができると考えていなかったため、ラビエルとハ・デスについてはやむを得ない犠牲と考えていたが、問題はそこではなかった。



 四天王たちにあえてブリズバーンを襲わせたのは、グレンの意識をそこに集中させて、こちらに来ないようにさせるためだったからである。



 エビルサタンには今報告されていることが理解不能だった。




 ダークデビルが逃げてくるのも別に文句はない。


 元々、ダークデビルには何かあれば逃げてくるように言っていた。



 ダークデビルは闇魔気(ダーク・オーラ)の使い手、これを利用して影に潜むという隠蔽魔法は最も得意である。

 だからこそ100年前もグレンから逃げることができた。



 今回もそのはずである。故にエビルサタンにはグレンが来るというのが意味不明だった。





「そ、それは私の後をヤツが付けてきているからです」



 エビルサタンは頭を抱えたくなった。

 エビルサタンは突然のグレンが来るという意味不明な報告に思考停止していたが、ダークデビルが真の姿になっていることから、ようやく事態を理解した。



「・・・ほう。デビル、今のあなた、なぜ私がこんな船旅をしているのか忘れているようですね。


 まさかここまで愚かだったとは・・・。


 ふぅ・・・これだから真の姿を解放したあなたは・・・。

 デビル、あなたはしばらく真の姿の解放は禁止です。

 とっとと元に戻りなさい」



「ハッ!」



 ダークデビル・イブリーズはすぐに元のダークデビルの姿へと戻った。


 すると、知性が元に戻ってようやく自分のやってしまった愚かな行動に気付いたのか、慌てふためき始めた。



「エ、エビルサタン様!

 も、申し訳ございません!

 隠蔽魔法を使うのを忘れておりました・・・」



「・・・まったくあなたは何をやっているのです。

 

 まあ、こうなっては仕方ありませんね。

 私が奴の相手をしましょう。」



「お、お言葉ですが、エビルサタン様、

 奴は危険です!

 魔法は使えないはずなのですが、奴にはラビエルの超絶魔法六重行使(セクスタプル)すら効きませんでした。

 ここは逃げるのが最善かと・・・。

 それにここでこれ以上配下を失うのはあまりにも痛手です・・・。


 私が狂魔(デビル)化して考えなしの行動をしたばかりに、こんな事態に・・・

 申し訳ございません!」


「・・・・・・。

 確かにそれもやむを得ませんね。

 巫女様を連れて飛んで逃げることにしましょう。


 デビル、なぜあなたは普段はそれほどまでに冷静な判断ができるというのに狂魔(デビル)化してしまうのですか・・・あなたの力は今の状態でこそ発揮できるというのに・・・。

 とはいえ仕方ありません。

 デビル、過ぎたことを悔やむより今できることを致しましょう。


 悪魔族は私とあなたでここまでやってきたのですから。


 アスタロト!巫女様を連れて逃げます!呼んで来なさい!」


「ハハッ!」



 エビルサタンは四天王の次に高位の八大悪魔が一人、四天王不在の間の側近であるアスタロトを呼び付け、イリスを呼ぶように指示した。



 グレンが来るとなると一刻も早くこの船から移動しなければならない。エビルサタンはグレンに見つからずに移動する方法を検討しはじめた。



「グレンから巫女様を連れて逃れるならやはり隠蔽魔法しかないでしょうね。

 デビル、やはりあなたの力が必要になりそうです。支度をなさい」



 ・・・ところが、その検討は既に無駄であった。





「・・・ずいぶん楽しそうな会話をしているが、逃がすと思うか?」





「なに!?!」



 エビルサタンらが後ろを振り返ると、いつの間にか音もなくグレンが船のデッキへと降り立っていた。



 エビルサタンにとって最も恐れていた事態が今起ころうとしていた。




「チッ! グレン!!もう来ていましたか」




「ほう、お前が魔王エビルサタンか・・・」



 グレンはようやく会えた悪魔族の新しい魔王に興味津々であった。


 悪魔族は魔界に着いたグレンが肩慣らし代わりに徹底的に叩き潰した連中である。


 壊滅としかいいようがない状態に追い込まれ、どうやって再起したのか不思議で仕方がなかった。


 そして、それを実現したという魔王とやらはどんな奴なのか、



 今この地上の平和を乱そうとする輩がどんな顔をしているのかずっと見てみたかったのである。



 とうとうエビルサタンと対面したグレンは・・・



「ん? お前もしかして・・・


 プチサタンじゃないか?


 プッハハハッハハハ!


 鼻たれ小僧だったお前が今や一端の魔王か!?


 アッハハハハ!

 じいや(ダークデビル)に泣きついてばかりだったお前がか?正気か?

 

 ププッ!

 そうか、そうか、お前も一応サタン(先代魔王)の血筋だったな・・・」



 グレンは思わず吹き出してしまった。


 エビルサタンの顔は、100年前は70cmくらいしかなかった可愛いチビ悪魔、

 さすがのグレンでも倒す気になれなかった悪魔が、もし成長したらこうなるだろうな、と思っていたその姿をしていたのだ。


 100年前のエビルサタン(プチサタン)はダークデビルの足元に隠れながら、「くらえ超絶魔法!」とかいいながら、マナが全く足りておらず、何もできない無害な鼻たれ小僧だった。



「グレン、キサマ!

 我が主様を愚弄するのもいい加減にしろ!」



 100年前、プチサタンの保護者であったダークデビルは、今や立派に成長した主人をバカにされてブチ切れていた。



「しっかし、お前の大事なじいや(ダークデビル)はホントにありがたいな。

 オレに魔法なしで戦う技を教えてくれるばかりか、お前の場所まで親切に教えてくれたぜ。


 この老害、そろそろクビにした方がいいじゃないのか?」



「キ、キサマーーー!!!」



 グレンの挑発にダークデビルは先ほど禁止令が出たばかりだというのに、再び狂魔化してダークデビル・イブリーズへと変身していた。

 


 ダークデビルは元々狂魔化しているために煽り耐性が皆無である。そこがダークデビルの最大の弱点であった。




「デビル・・・いいのです。

 言わせておきなさい。


 100年ぶりですね、グレン。

 私もあの頃はまだ子供でしたが、悪魔族を100年かけて再興してきたのです。


 父上をあなたに殺されたことについては互に奪い合う戦いである以上、仕方がないこと思っていますが、今の私を侮りすぎると痛い目を見ますよ」


「ほう?

 お前に俺が倒せるとでも?


 今のお前よりもサタン(父親)の方が強そうだがな。

 エビル(邪悪)だなんて名前負けじゃないのか?」



「どうぞ好きなだけ罵ってください。


 それにあなたの戦略はわかっています。

 どうせそうやって相手を挑発して、選択肢を狭めようとしているのでしょう」


「なに?」

 

「大方、私の四天王たちが真の姿を解放させたのもあなたに挑発されてのことなのでしょう。

 理由は・・・四天王の連携阻止とこの場所へと案内させるためにね。


 あなたは剣王などと言われていますが、あのとき一人で悪魔族を滅ぼしたあなたが本当は武闘家、戦士、賢者の全てを兼ねた勇者であることを目の前で見た私がわからないとでも?

 悪魔族の王に奸智で対抗しようとは甘く見られたものです」



「ほう・・・。

 あの頃のただの鼻たれ小僧じゃなかったか」


 グレンは素直に驚いた。

 

 グレンは最強であるが、それでも今はマナがない以上、本来であれば四天王3体が一度に襲い掛かってきたのであれば、あれほど一方的にはならず、もう少し互角の戦いになるはずであった。


 敵が連携しないように、余計な魔法を使わないように、選択肢を絞りに絞って、最終的にはわざと真の姿アホにさせたのである。


 1000の強さがある者たち3人が完璧な連携をすれば10倍の強さ、10000の強さも実現可能だったが、真の姿で3000くらいの個々が3体という形にしてしまえば逆に楽に倒せるのである。


 もし、四天王が真の姿にならず、時間稼ぎだけを目標に設定して、グレンに勝つことを諦め、隠蔽魔法などを駆使して姿を消しつつ、徹底して連携して防御を固めつつ攻めてきたのであれば、かなりの苦戦を強いられたはずであった。


 元々はそれができると考えてエビルサタンはこの三体をグレンの足止役に選んだのだから。


 四天王らを挑発し、そうはさせなかったのがグレンである。勇者を辞めて最強となったグレンは戦い方をこだわらない。勝利のためなら何でも使う。


 そして、ブリズバーンでのあの状況でグレンがエビルサタンに辿り着くためには、四天王を冷静なままにしていてはダメであった。たとえば、あのままの状態で戦っていたならばどんな状況になろうと彼らは主人のことを口を割らなかったであろう。


 そのため、グレンは四天王たちを知性がなくなる真の姿にさせようとしていたのである。


 そして、その計略に、四天王の誰も気づいていなかったのに、目の前の魔王は気付いている。


 グレンはエビルサタンに対する見方がガラリと変わった。



「やはりお前は確かに悪魔族を再興した王らしい。

 

 お前だけは別格に危険なようだな。

 俺がやるしかなさそうだ」



「おや、先ほどまでとはずいぶん評価が変わりましたね。

 一応これでもあなたの力に比べたら些細なものである自覚はあるのですが。

 見逃していただけると一番ありがたいのですがどうやら難しそうですね」



 すっとぼけたことも言い始めたが、これもグレンを油断させるためのものであろう。



 そう、エビルサタンは単に先代魔王の血を引き、強靭な身体を有しているだけではなく、悪魔族一の天才、魔界の智将とも呼ばれる才知に長けた魔王であり、それゆえに悪魔族の再興に成功させたのである。



 そして、これほどまでに知性の高い者がマナの巫女によってマナを覚醒させているということはどうなるのか、グレンは嫌な予感が当たってしまったことを確信した。





 タズから話を聞いて、グレンははじめはタズを一撃死させたエビルサタンの武力に警戒していたが、単なる武力だけしかないのであればグレンはもちろん、タズでも魔法剣を覚えさせて聖剣をもたせておけばどうにでもなるはずだった。グレンは今朝の四天王との戦いで覚醒―女神の加護を解放―したため、その影響で聖剣も覚醒し、タズに強大な力を与えるはずである。仮にタズが大魔王の息子だったとしても、同時にグレンが女神(アテネ)の加護を分け与えたアイリスの息子でもあるため、そのタズが聖剣を持てば間違いなく聖剣は力を発揮するだろう。ちょっとやそっと、それこそ四天王レベルの武力でも揺るがないはずであった(なお、実際には、確かにタズは聖剣の力でバトラーを退けたものの、力を解放したバトラーがそのちょっとやそっとを超えてしまったのであるが・・・それはグレンでも知る由もなかった)。



 しかし、この日、このタイミングで狙ってくる点といい、グレンの性質を見抜いている点といい、エビルサタンに対して真に警戒すべきはその知力であることを認識した。




 魔法は便利で強力なツールであるが、それを強力たらしめるのはこれを応用できる使い手の頭脳である。



 天才アイリスが様々な奇跡を実現させたように、魔法使いにはただマナがたくさんあれば良いわけではなく、真に求められるのは、使い方を想像し、必要なものを創造する頭脳。



 たとえば、気配を消す魔法、これはただ気配を消してくれと願えば発動するわけではない。風魔法で振動を消して音を消し、金魔法で自身を鏡化しつつ光魔法で光を屈折させて認識を阻害させる必要がある。しかも一時的ではなく持続性を持たせなければならない。これらの原理を理解し、必要な魔法を考え、マナを魔力に変換することではじめて可能になるのである。

  


 単に強力な攻撃魔法を撃ってくるだけなら不老不死のグレンであれば死にはしない上、オーラを使えば耐えきれる。しかし、そこにこちらの想像もしてない厄介な補助魔法まで混ぜてくるならグレンでもかなり危険な戦いになる。



 エビルサタンはおそらくは単に攻撃魔法が強いだけのタイプ(魔法バカ)ではないだろう・・・。



 グレンはエビルサタンとの戦いは一筋縄ではいかないことを予感した。




 エビルサタンとグレン




 智の魔王対地上最強の戦いがいよいよ始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ