ブリズ/マナの巫女
その頃、タズは夢を見ていた。
タズの目の前にもタズがいた。
「キミは誰?もう一人のボクなの?」
「オレはブリズだ。
・・・今は自分のことは名前くらいしか思い出せない。
お前を守るよう、お前の願いを叶えるように言われている。
残念だが、それくらいしかわからない。
とりあえず今まで通りもう一人のお前のようなものだと思ってくれていれば良い」
「そのすごく綺麗な剣は何?聖剣?さっき、バトラーを倒したとき使ってたやつだよね?」
「これはブリゾネーター。オレの半身だ。聖剣じゃない。
オレの身体の一部のようなものだ。
だからおそらくお前も使えるぞ。持ってみろ」
「ええっ!?
おっとと。うわ!凄い!全然重さがない!
それに魔法剣がかかってるみたい」
「そりゃ、オレが魔法で身体の一部を剣に変えたものだからな」
「すごいや!
そうだ!みんなを助けてくれた魔法、あれもブリズの魔法なの?」
「ああそうだ。だが、オレだけじゃない。元々お前の頭の中にこの魔法の魔法陣が描いてあったから使えた」
「ええ!?じゃあもしかしてボクもあの魔法を使えるの?」
「まあ使えなくはないだろうが、今は無理だ。他人の時間も巻き戻すならかなりのマナが必要だ。
オレたちは今そんな量のマナを持っていない。
しかも、この魔法陣も何度も使えるものじゃない。使えてあと数回だろう。
それに自動発動の術式も組んであるせいで、オレくらいの魔法技術力がないと、自動発動を解除して任意発動はできないだろうな」
「ど、どういうこと?」
「要するに、この魔法は本来は万が一お前が死んだとしても、数回はそれをなかったことにして蘇らせるためのお前専用の蘇生魔法だということだ。
他人に使うためのものじゃない。
今回みたいに他人にも使えるようにするにはそれに見合った大量のマナと魔法技術の上達が必要ってことだ。
お前が死んだらオレも死ぬことになる。回数制限がある以上、この魔法を他人のために使うのは今回が最後にしたほうが良い」
「そっか・・・そうだったんだ。きっとその魔法組み込んだのボクのお姉ちゃんだよ。
夢でなんとなく覚えてる。ボクが前に死にかけたときお姉ちゃんがものすごい魔法をボクにかけてたから。よく思い出したら今日見た魔法と同じだったかも」
「そうかもな」
「ブリズはきっとお姉ちゃんがボクのところに送ってくれたんだね。
ボク、ブリズのこと、すごく怖いと思ってた。ボクの知らない怖いボクがブリズなんだと思ってた・・・。
でもブリズはお姉ちゃんが送ってくれたボクの味方だったんだね!」
「ああ。オレはタズ、お前だけの味方だ。オレがお前を守ってやる。
タズが強く願ってオレを呼べばオレは出てくることができる。
ただし、オレを呼ぶとお前の体力が大幅に減ることになる。今はまだ一日に何度も呼べるわけじゃないから気をつけろ。剣だけなら何度か呼べるだろうから、まずはその程度にしておけ。
それと、周囲にマナがある環境じゃないとオレでも何もできない。そのペンダントのマナがすっからかんになる前に呼ぶか、今日みたいにマナが充満している場所で呼んでくれ。
おっと、そろそろ時間のようだ。お前は体力回復のためにゆっくり休めよ」
「わかった!バイバイ!ブリズ!おやすみ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、グレンがダークデビルを追って天空の塔へ向かっている頃、
ダークデビルが飛ぶその先の海上には、エビルサタンとイリスを乗せた船がいた。
エビルサタンたちは、飛べばすぐに天空の塔にたどり着くこともできたが、イリスはエビルサタンをはじめとする悪魔族幹部のマナを復活させて、それによって失ったマナを回復している最中であるため、天空の塔へ急ぐ必要がないこと、下手に天空の塔に長居すれば忌々しい男と出会いかねないことなどから船でゆっくりと行くことにしていた。
船での移動はイリスが望んだことである。
基本的にエビルサタンはイリスの機嫌を損ねないように、目的のために合理性さえ有していればイリスの好きにさせることにしていたため、イリスの希望に従ってイリスの休養も兼ねて船で共に移動することにしたのである。
天空の塔はまだまだ先にある。
天空の塔は惑星アルスで最も大きい海、パシック海のちょうど真ん中のワイハ・スカイ島にあるマウナ・カー山に存在している。
イリスたちの船旅はしばらく続く予定であった。
(人間の作る船というのもなかなか良いものですね。
普段飛んでばかりでしたが、こうして羽を休めて海の波を感じながら過ごすというのも悪くありません)
そして、エビルサタン自身も豪華客船のデッキのソファーでワインを飲みながらクルージングを満喫していた。
目的地であるワイハ・スカイ島は、シドル王都以上のリゾート地であり、ブリズバーンから定期船が多数出ている。
客船内は魔法を使って乗組員を洗脳しているため、乗客は当然エビルサタンたち魔族しかいない。
今のエビルサタンは、自身のマナが覚醒し、なおかつマナの巫女が味方についたことで、目的のほとんどを達成したも同然であった。魔界へ帰ることも全く急いでいなかった。
エビルサタンからすると、あとは今日の作戦が成功に終わることをのんびりと待つだけであった。
「エビルサタン?
ずいぶんのんびりしているようね。
平和記念日にあなたたちまでお祭り気分でいるとは意外だわ」
「おや、これは巫女様。
今日は大変良い日になりそうですので、こうして人間の作った美酒を楽しんでいるわけです。中々に美味いですよ。
これで貴女様が大魔王の座に就任していただければさらに良いのですが、お気持ちはまだ変わらずですか?」
「ええ。
残念だけど私はそんな地位に興味ないわ。
魔界の再興はあなたたちで勝手にすれば良いわ。
それに今日は私の弟の誕生日なの。私は部屋で一人ゆっくり弟の誕生日を祝わせていただくわ」
「そうですか。
考えが変わることを期待してお待ちしておりますよ、巫女様」
エビルサタンはイリスと長い間接している内に、その邪眼によりイリスの秘密を察知していた。
そもそも、マナの巫女というのは、地上の女神アテネの子である勇者とは正反対の存在、魔界の女神ニケの子のことを指す概念である。
女神ニケは魔界に初めてマナをもたらした存在であり、ニケの子である巫女は、女神と同じく魔界にマナの恵みをもたらす存在である。巫女は自ら魔王となることもあれば、巫女の子やその孫等が魔王となることもある。エビルサタンも遠い祖先が巫女である。また、逆に、魔王の子が巫女として覚醒することもあった。
先代大魔王ダークネス・ブリゾネーター・ビューズもまた、先代巫女と間に生まれた子か巫女の転生者だといわれている。
先の大戦後、魔界からマナが消滅してからは、魔界は新たなマナの巫女が生まれることを心待ちにしていた。
しかし、通常であれば魔界に生まれるはずの巫女が今回、地上に生まれた。
巫女が地上に生まれたということ自体、信じ難いことであったし、実際にその姿を見てみると単なるエルフであったため、エビルサタンは当初ガッカリしていた。魔界の再興は次の巫女が誕生するまで難しいとさえ考えていた。
だが、それは杞憂であった。イリスのことをよくよく邪眼で見てみれば、そのエルフの姿は、本当は魔界のエルフ族であるダークエルフの姿であった。魔法で核を心臓のように装うなどして地上のエルフ族のように見せかけていただけで、イリスは生粋の魔族であることがわかったのである。
同じ魔族であるのだから魔族に協力的なのも当然のことであった。
偉大なる先代大魔王ダークネス・ブリゾネーター・ビューズもダークエルフであったため、そのこともエビルサタンがこの少女がマナの巫女であると信用する一要素にもなっていた。ダークエルフは魔法に秀でた種族であり、魔界史上、大魔王をはじめとする数多くの強力な魔王を輩出していたからである。
その上、この少女は巫女にふさわしい能力まで有していたこともわかり、この少女こそ次代の大魔王にふさわしいと考えて、丁重な対応をしているのである。
さらに、もしイリスが自ら大魔王にならないというのであれば、自分との間で子を作り、その子を大魔王に据えようとすら密かに考えていた。
イリスは今はまだあまりに小さく、幼いため、子を作るためにはあと3年くらいは待つ必要があるであろうが、その3年間でゆっくりとイリスを自分のものにしようとたくらんでいたのであった。
(巫女様の弟を始末したら巫女様もさぞかし落ち込まれるでしょう。
ですが、そこが巫女様に付け込む最大のチャンスです。
フッフッフ、今夜が楽しみですね)
エビルサタンがそんなことを考えて口元を歪ませながらワインを楽しんでいたときのことだった。
船のデッキに巨大な悪魔が降り立った。
「何事ですか?騒々しい」
「エ、エビルサタン様!!大変でございます!
グ、グレンが来ます!」
「な、なんですって!?」




