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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
決戦―魔王エビルサタン
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賢王

 グレンとアイリスが王都の実家に戻ると、アイリスはグレンの実家に大歓迎された。


 


 それからはアイリスの幸せでハチャメチャな日々が始まった。



 グレンとアイリスは、世界中のあちこちを旅しながら冒険を続けた。



 時には魔族と戦い、人々を救ったりもしたが、そのこと(魔族と戦うこと)に対してアイリスは特に何も思っていないような様子であった。



 むしろ、「グレンを傷つける奴は絶対許さない、3回殺す・・・。ブツブツ・・・」などと物騒なことを言いながら派手な魔法で魔族を吹き飛ばしていった。



 アイリスはメキメキと魔法の腕を上げていき、模擬戦をするとグレンも危ういレベルであった。



「痛ったーーーい!

 グレン、魔法唱える前に殴るのは反則だよ!

 暴力反対!暴力反対!」


「バカ!この野郎、これは模擬戦なんだから暴力反対もクソもないだろ!

 だいたいお前の魔法の方が物騒なんだから発動前にぶっ倒すのは当たり前だろ?

 その魔法、普通に喰らったら俺死ねるぞ?」



「グレンは私の魔法ですぐ治るから大丈夫よー!

 ちょっと黒焦げになるだけだって。

 アハハ!

 そうだ!今死んでも大丈夫になる魔法も考えてるんだー!

 待っててね♡


 ・・・隙あり!ヘルファイアー!」


 

 グレンは超絶魔法の地獄の業火に焼かれて真っ黒焦げになり、死んだかと思ったら元通りに戻っていた。



「・・・冗談じゃねぇぞ」


 アイリスはグレンに女神の加護がなければ即死したであろう魔法を放っておきながら、いつもこういうのである。


「一発は一発よ♡」



 アイリスの魔法の腕は出鱈目なレベルであった。


 いかなる奇跡も魔法で強引に叶えていった。死んでも大丈夫な魔法とやらが完成したらどんなことになるのか、想像しただけで頭が痛くなった。


 グレンに殴られて暴力反対などと騒いでいるが、普段から魔力の高密度のバリアを張っているからほとんど痛みを感じていないはずだった。


 そのくせ、元気で明るいように見せかけて、魔族らしくかなり陰湿な一面もあり、やられたら必ずやり返してくる。


 一発は一発と言いながら反撃が一発じゃないこともざらにあった。利子だなどと言い訳をするが、ゲンコツ一発に割りに合わないのはグレンの方だった。


 いつの日かグレンのそばにいるその奇跡の魔法使いの女の子、

 名前はグレンが魔族に正体を察知されないように伏せていたため不詳であったが、

 既に勇者として有名だったグレンのことを完全に尻に敷いており、

 その謎の女の子(女王様)のことを、人は、賢者の女王(賢王)と呼ぶようになっていた。


 賢王は、伝記によると勇者のパーティのリーダーだったとされているが、実のところは、グレンが絶対に逆らうことができない女王様だからであった。

 


 オストルン大陸ブリズバーンの中心街であるクインズ・ゴールド・ストリートの「クインズ」の由来がなんであるのかは改めて説明不要であろう。なお、その女王様の像もストリートの起点にグレンの像と向き合うように建てられている。



 グレンはアイリスという良きライバルを得て、競うように世界中のモンスターを倒して回り、2人ともどんどんとレベルを上げていった。女神の現身(うつしみ)であるグレンは、女神同様に仲間に加護を分け与えることができるため、アイリスも魔族であるにもかかわらずレベルを上げることができていた。


 アイリスがいなければグレンも魔族と戦うのにここまでレベルを上げることはなかったであろう。



 アイリスは賢く、魔法の威力も技術も物凄いがどこかお調子者でおっちょこちょいなところがあった。


 また、魔法使いの弱点として、どうしても大魔法を唱えようとすると、マナを魔力に変えるのに時間がかかり、その間が隙だらけになる。グレンが守れている内は良いが、グレンと別行動になればその隙をつかれるのは明白だった。


 グレンはアイリスに身代わりになるような人形を召喚できないのか、と聞いてみたところ、アイリスは人間そっくりなゴーレムを召喚した。


 グレンは、屈強そうなゴーレムに格闘術を教えて、アイリスが魔法を唱えるまでの時間稼ぎをさせて、アイリスを守らせようとした。


 これが後の拳王と呼ばれる存在である。



・・・・・・・・・・・・・・・・



 やがて10年弱の月日が経ち、再び天空の塔が起動して人族と魔族の全面戦争が再開されると、グレンたちは魔界へと渡った。




 そして、魔界に渡った頃のグレンは、



 レベル90台であったにもかかわらず、





 

 すでにアイリスに歯が立たなくなっていた。






 同じくレベル90台となって完全覚醒したアイリスには、マナを支配し、コントロールする才能が備わっていた。



 それはいかなる奇跡(魔法)もマナさえあれば実現可能であることを意味する。



 蘇生魔法、マナ譲渡、マナ吸収なども可能な、なんでもありの状態となっていた。好きな魔法を発生させる魔力を作り出すことができたのである。


 その上、大魔王が使ってくるといわれている究極魔法をも使いこなしていた。あまりにもあっさりと使うため、本気を出せば究極魔法をも超えたその先の魔法も使えるのではないかとも感じさせた。



 グレンは自らの手でとんでもない魔族を育て上げてしまっていた。




 しかし、そんな無敵の魔法を使うアイリスだったが、アイリス自身は無敵ではなかった。




 アイリスは魔界に行くと体調を崩した。


 長く地上に居すぎたのか、それとも、アイリスが魔界から捨てられていたことに起因するのかはわからなかったが、地上にいた頃の半分もマナが溜められなくなっていた上、マナ変換効率が悪くなっており、ちょっとした魔法でも大量のマナを消費してしまっていた。そして、魔法を唱えた後の反動も激しく、究極魔法を使った後はしばらく魔法が使えなくなっていた。


 アイリス自身が魔法を使えなければ、有り余る魔法の才能も意味がないし、無敵の魔法を使うことができない。アイリス自身を治すための魔法を唱えるのに、さらに体調を崩すという悪循環が起こる始末であった。


 しばらくの間、アイリスに魔界を慣らすために魔物を倒して回ったところ、2人ともレベル99のカウンターストップまで上がった。

 

 しかし、アイリスの体調は不完全なままであった。


 グレンはやむを得ず、アイリスには大魔王戦までの体調回復とマナの溜め込みに集中させることにして、グレン1人で魔王たちと戦うことにした(正確にはアイリスが召喚した召喚獣1匹がいたため、1人+1匹である)。


 このときのグレンは大魔王とですら1人で戦おうとしていた。

 

 元々勇者は自分1人であるのだからそれも当然であった。



 



 しかし、グレンは、とうとう大魔王までたどり着き、大魔王と戦い始めたが、大魔王は、その名のとおり、他の魔王たちとは次元の違う化け物であった。


 アイリスを遥かに超える大量のマナを保有しており、究極魔法を初級魔法か何かのようにガンガン撃ってくる上、不死の闇の衣を纏っているため、グレンが聖剣に超絶魔法を乗せた剣撃で攻撃するも、まるでダメージを受けていない様子であった(致死のダメージを受けたとしても死なず、瞬時に魔法でダメージを回復しているのかもしれないが)。

 

 そうして劣勢のまま1人+1匹で戦っているうちに、1匹(拳王)はあっさりと消滅し、グレンも致死のダメージを受けて敗れてしまった。



 アイリスが究極蘇生魔法を唱えたことによってなんとか復活することができたが、グレンが死んだことで大ショックを受けたアイリスは、あろうことか溜め込んでいたマナを使ってグレンに不老不死の魔法までかけてしまった。


 そこからは不老不死 対 不死の戦いとなったが、それでも先に体力が尽きたのはグレンであった。



 大魔王にはグレン1人では歯が立たないことがわかると、結局アイリスと2人で戦うこととなった。



 しかしアイリスも大魔王と戦っているうちに少しずつ調子を取り戻していき、劣勢だった戦いを巻き返していった。


 いや、どちらかというと体調面は本調子ではなかったが、初めて自分と同等の魔法を使う敵 ―自分の魔法に耐えてくれるおもちゃ― を見つけた顔になっており、精神面ではとんでもなくハイテンションになっていた。


 あのときのアイリスは嗜虐的な顔をし、人格破綻者としか言いようがなく、色々な意味で恐ろしくてグレンも思わず大魔王に同情してしまうレベルだった。なにせ、アイリスは使えるマナが限られていた上、相手が不死身なせいで、アイリスが選択した究極魔法は攻撃魔法ではなく、精神力を削るアルテマ・ティックリング(究極くすぐり魔法)などの嫌がらせ魔法ばかりだったからだ。


 女王は大魔王相手でも女王だったのである。


 その後しばらく大魔王とアイリスの間で戦いが続き、とうとうアイリスは大魔王の不死の闇の衣を剥がすことに成功したのであるが、そのときとある出来事が起こった。


 グレンは大魔王との戦いの真っ最中、手を出せず、自分の弱さに焦っていたこともあり、とある出来事をきっかけとして大魔王の前から逃走し、勇者を辞めることになってしまったのである。





 そしてその後は歴史書に書かれているとおり、賢王がマナバーンを使って大魔王と共に消滅した。





 つまり、結局、大魔王に勝って、大魔王を消滅させた賢者の女王は、勇者ではなく・・・



 グレンが拾った魔族の女の子、魔族の女王(魔王)だった。



 先の大戦の真実は、勇者が育てた魔王が大魔王と相打ちになって消滅しただけであった。



 しかもその場には、勇者は既に逃走しており、勇者不在。



 グレンは口が裂けてもこの事実を後世に伝えることができなかったのである。

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