秘策
場面はタズが初めてデスミノタウロスを倒したときまで戻る。
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「クロエ、ここは危ないから早く逃げて!」
「で、でも、化け物なら勇・・・タズくんが倒してくれたじゃない。
も、もう安心でしょ?」
タズの登場に安心しきり、恋する乙女のように赤みを帯びた顔をして、タズのことを勇者様と言い掛けたクロエに対して、タズは首を振った。
「ううん、まだだよ。
・・・魔王が近くに来てるんだ。
この魔物ならボクでもなんとかなるけど、魔王が来たらボクもどうなるかわからない・・・。
クロエを守れないかもしれない」
「で、でも、私、タズくんを応援したい。
タズくんが危ない目に遭っているのを遠くから見守るなんてできないよ!
絶対に嫌よ!嫌!嫌!
私なんかどうなってもいい!だから一緒に連れて行って!」
タズはクロエをなんとか逃がそうとしたが、クロエはそこを頑なに離れようとしなかった。
憧れの勇者様が現れたせいもあって、元の駄々っ子クロエが完全に復活していた。
こうなったらアルフレッドでも手が付けられないのである。
その上、クロエの言葉は本心からの言葉でもあった。
大好きな少年が魔王との危険な戦いに挑もうとしている・・・。
もしクロエの見ていないところで少年が死んでしまったら・・・想像するだけでも恐ろしすぎた。
万が一のときはクロエが身代わりでもなんにでもなる、今のクロエにはその覚悟すらあったのだ。
説得は端から無理なのである。
タズは言っても聞かなさそうな様子のクロエに諦め、せめてと考えて代替案を提案する。
「それならボク、どうしてもクロエにお願いしたいことがあるんだ・・・
危ないかもしれないけど今はクロエしか頼れる人がいないんだ・・・。
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クロエ、頼んだよ!」
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バトラーが完全に回復し終わるまでもう間もなくという時、
タズはクロエを信じていた。クロエなら絶対に間に合うと。
クロエはスラム街育ちで、長い間王都で奴隷商人や盗みを働いた相手から逃げる生活を送っていた上、最近では郵便の仕事を始めており、王都の地理に詳しい。
細い裏路地を通って最短ルートで目的地まで行くことができる。
クロエがアレをとって戻ってくるまでが、この戦いのポイントであるとタズは考えていた。
そして、時間は十分に稼げたはずだった。
クロエと別れてからデスミノタウロスたちを討伐してバトラーが出てくるまでかなりの時間が経っていた上、バトラーとの戦闘が始まった後もギガフレイムを受けたことによる回復にそれなりの時間を使わせている。
タズたちがどこにいるのかも先ほどメガフレイムの大きな火柱が上がったことでわかるはずだ。
そろそろ来てもおかしくない。そんな時だった――。
「タ、タズくん!!
待たせてごめんなさい!!
コレ持ってきたわ!
受け取って!」
「クロエ!
待ってたよ!ありがとう!」
王宮騎士団、イリア、この場にいる大勢の者が、戦場へと戻ってきたクロエが持ってきたコレとやらを見て固まった。
(ア、アレはまさか・・・!?)
王都の王宮前の広場中央に飾られたとある大英雄の像がライトブルーに光り輝くソレを天に掲げているため、ソレを知らない者はこの王都にはほとんどいない。
イリアに限っては今日ソレの実物を見たばかりだ。
今朝、稽古に行く際にタズがセント・メリー教会の自室に置いてきたはずのソレを、なぜかクロエがその手に持っていた。
――聖剣アルスキャリバー
惑星アルスの女神が魔界に対抗するために勇者に授けた星の剣――。
タズはソレをクロエから受け取ると、まだ背負うことができないソレを鞘から抜いた。
およそ100年ぶりに鞘から抜かれたその剣は、大気を吸ってその切っ先が増々光り輝いてゆく――。
タズはソレを初めて構えてみて、恐ろしいほどの一体感を感じると共に、100年ぶりに鞘から出られた喜びからか大気がこの剣に集まってきている、まるでこの剣が星とじゃれ合っている、そんな印象すら感じた。
タズの秘策・・・それはタズの攻撃力を爆発的に引き上げる最強の武器であった。
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その剣を構えたタズの姿勢は綺麗だった。そして、美しく光り輝くその剣にとても似合っていた。
その構えは力が抜けて剣を楽に持っているように見えるのに、剣先までピンと張りつめている。
クロエは聖剣を構えた勇者様の姿に、思わず息を飲んで見つめていた。




