奴隷商人?
街道で見た目可愛らしいエルフの少年を発見した奴隷商人は、すかさず声をかけた。
「おい、そこの坊主、王都に行くんだったら、乗せて行ってやろうか?」
「本当!?一度乗ってみたかったんだ!ありがとう!」
「ああ、だが、結構揺れて危ないから走り出したらここに手足を結ぶぞ。いいか?」
「うん!わかった!」
「クックック、素直な坊主だな(こりゃ高値で売れるな)」
だが、奴隷商人は知らなかった。見た目愛くるしい少年が、そんな拘束具を着けても少し力を出せばすぐに破壊できる力持ちであることを。
その気になればその魔法で周囲にいる奴隷商人全員を眠らせることができることを。
何も知らずに馬車に乗せてしまうのであった。
後から考えると、タズにとってこの奴隷商人は、ただただ、馬車に乗せてくれて、王都に入る際の入国審査をも裏ルートでパスさせてくれて、王都を案内してくれる心優しくありがたいおじさんの一人だったのである。
「坊主、名前はなんて言うんだ?」
「タズだよ。おじさんは?」
「俺はダルだ(当然偽名だがな)。よろしくな」
「うん、よろしくダルおじさん!そうだ、ボク何か手伝えることあるかな?せっかく乗せてくれるんだし、何かお手伝いしたいな!」
しかし、何の疑いも持たない素直な少年にさすがの奴隷商人も若干毒気を抜かれるのもやむを得なかった。
(なんだこいつは・・・。この調子じゃ縛り付けなくても大丈夫そうだな)
「そうだな。それじゃあもうすぐ夕食時だから、出発する前に食事にしよう。その箱から食事を出してくれ」
「うん!わかった!このお芋で良いの?」
「そうだ。土を落として皮を剥いた後に適当にそこのライターであぶってくれれば良い」
「わかった!おいしく味付けするね!」
「ん?何をする気だ?」
タズは森の民であるエルフ族なだけあって、こうした芋の調理はお手の物であった。木を削って研いだナイフを取り出して手早く土を落とすとともに、厚い皮を剥いでいく。
そして、皮を剥いだ芋を木の皮を編んで作ったセイロのようなものに載せると、その下に木の薄皮で作ったボウルに水を入れ(目にもとまらぬ速さで魔法で水を作り出して満タンにした水筒から水を出してカモフラージュすることも忘れない)、その下に燃えにくい板のようなものを置いて枝を敷き詰めて火を付けてボウルをあぶる(ライターは使い方がわからなかったので、使うふりをしながら火魔法で火を付けた)。水にぬれたボウルは燃えることなく中の水を沸騰させ、芋を蒸かしていく。
蒸し上がった芋に山でとったハーブを混ぜて作った香辛料を味付けしつつ、こっそりと隠し味に木魔法を唱えて甘さ増加、栄養たっぷりに仕上げることも忘れない(実際にはその魔法はもはや隠し味の範疇にないレベルなのだが)。
「みんなー!できたよー!召し上がれ!」
「「おう、って、な、なんじゃこりゃー!」」
タズが作った芋料理を一口いれた瞬間、奴隷商人たちは声をあげて歓喜した。
「ぼ、坊主、いやタズ、お前さん一体どうやってこれを作った?」
「ただ、芋を蒸かして、ボクが山で採って乾燥させたハーブとかをかけただけだよ。あと、おいしくなってみんなが幸せになりますようにっておまじないもしたかな。えへへ」
少し照れながら、奴隷商人たちにタズがそう言うと
「き、奇跡だ・・・」
「天使だ・・・」
「(お、お頭、この子、本当に売っちゃって良いんですかね?うちで引き取った方が良いんじゃないですかね?)」
「(ば、ばか!な、何言ってんだ!こういう奴こそ高値で売れるんだ!これで俺らもしばらく豪遊できるぞ!)」
「(でも、お頭・・・俺、こんな美味しい芋食べたの初めてですよ。こんな美味い芋があるんなら高い料理なんかいらないって思っちゃいましたよ)」
「(それは、確かに・・・。って、なに言ってんだ!ダメだダメだ!仕事に戻れ!もうすぐ王都に着くぞ)」
「(へ、へい)」
ひそひそとやりとりをして王都へ急ぐことを決めた。
そうして、真夜中の王都に到着し、あらかじめ買収していた門番をスルーして王都の中へとタズらを乗せた馬車は入っていった。
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王都に入った後、予定ではタズはすぐに拘束されて、ブラックマーケットに出品されて貴族に高値で売り払われるはずだったのだが・・・。
「うわぁー!これが王都なんだ!
ねえダルおじちゃん!あの建物凄いよ!綺麗だなぁ!近くで見てみたいなぁ!
おじちゃん、ボク、あそこ行ってみたいなぁ・・・ダメ?」
奴隷商人の手を握って引っ張り、王都最大の美しい教会、セント・メリー教会を指さして大はしゃぎするタズ。
しまいには小首をかしげて「ダメ?」と言いながらエルフ族の村中を骨抜きにした必殺のおねだりを発動する。
奴隷商人は、もう何十年ぶりか、子どもに手を握られて引っ張られ、そのあったかくて柔らかい感触に心が洗われるような気持ちにさせられていた。
その上、そんな矢先に必殺のおねだりが炸裂し、
「しゃーないな。まずはあの教会を見て、次に海に浮かぶ芸術劇場を見に行くか!」
「わーい!ダルおじちゃんありがとう!大好きっ!」
完全に毒気を抜かれていた・・・。
「(お、お頭が落ちた。いや、無理もない。というかずるいぞ)
おーいタズ、こっちおいで!こっちからはきれいな海と船が見えるぞ!おじちゃんがだっこして見せてやる!」
「ホント!?わぁい!おじちゃん大好き!」
馬車の中にいた奴隷商人らは皆、ただの親戚のおじちゃんに早変わりしていた。




