旅立ち
タズが目を覚ますと、周囲には誰もいなかった。
魔族も村人も誰もいないエルフ族の村の中央でタズは目を覚まして起き上がった。
自分が何をしたのか、なんとなく夢で見たような記憶がある。
記憶に従ってペンダントの中を開けてみると、そこには3つしかなかったはずの魔石がぎっしりと詰まってきた。その数は村人の人数よりやや足りないくらいの数であった。残りはおそらく・・・。
「みんな・・・」
タズはそうつぶやいて旅に出る決意をすると、自分の家から最低限の食事と荷物を持って、誰もいなくなった村を出た。
「シドル王都に行こう・・・」
誰も見ていないこともあり、そうつぶやいたタズの目からは涙が流れ出て止まらなくなっていた。
タズはペンダントを握りしめて、気持ちを強くすると、村から真東へと進み、オストルン大陸南東にあるシドル王都を目指した。
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タズは10日掛けて森を進み、シドル王都を目指したが、シドル王都に着くまでの間に様々な自身の変化に気が付いた。
まず一番大きな変化は、タズが魔法を使えるようになっていたということである。
タズの体内にもマナが作られるようになったのか、それともペンダントの中の魔石が作り出しているのかはわからないが、身体の周囲にある程度のマナがあることを感じたタズは、イリスに倣って、イリスがやっていたのと同じように詠唱すると、魔法が発現した。
これによって、水も水魔法で作り出すことができるようになり、食べ物も木魔法を周囲の木々にかけることで木の実や果物等の森の幸を得ることができた。
途中でオークなどの魔族と出会うこともあったが、気配を消して近づき、背後から強化魔法で強化した拳で頭を叩きつけて気絶させるなどして戦った。
危険なことも何度かあったがなんとか切り抜けていった。
魔法の便利さに改めて気づかされたが、タズは肉体の鍛錬だけは決して怠らなかった。移動する際には魔法を使わず木に登り、木と木の間を飛び移って移動を続け、時には太い枝で懸垂をしたりして身体を鍛えた。
村での一件以来、魔法が使えることがこの世界では禁忌であり、周囲に知られるわけにはいかないことを骨身に沁みるほど理解したことから、タズは魔法なしでも戦えるようにならなければならなかった。
魔法なしでも強くなれという姉の言いつけがいかに正しいかを知り、その言いつけを守るため、今度こそあのとき姉を救ってみせると気持ちを強くし、修練を続けた。
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そうこうしているうちに10日が経過し、タズは森を抜けて大きな街道に出た。人間が作ったと思われる大きな道に出ると、たまに馬車ともすれ違うようになった。
行き交う馬車の中には、こんな幼い少年が一人で歩いているのが珍しいのか、御者に話しかけられることもあった。
「坊ちゃん、一人で旅かい。小さいのに大変だねぇ。おや、あんたもしかしてエルフかい。こりゃさらに珍しいねぇ」
エルフ族の村にいるときには全く気にしていなかったが、どうやらエルフの特徴でもあるその長い耳は普通の人間からしたら珍しいことを知った。
「そうだ、これやるから元気出しな!」
エルフの子どもが一人で旅する様子を見て何やら色々と察したのか、タズにお菓子をくれた。
「うん!おじさん!ありがとう!大事に食べるね!」
タズが元気よく応えると、
「おや、こりゃいい子だねぇ。わしも雇われもんじゃなかったら坊ちゃんみたいないい子を引き取ってあげるんだけどね・・・。そうだ!町に着いたらこれで好きなものを買いなさい」
そういって御者はタズにお金を渡した。
「ありがとう!これ、なあに?きれいな石だけど・・・」
タズはもらった100と書かれた丸いコインを見て小首をかしげた。
「そうか・・・お金も知らないのか・・・。それはお金っていうものだよ。人間の町じゃそれと交換で物を買うのさ」
「へー!そうなんだ!お姉ちゃんから前に聞いたことある!これがお金かぁ。・・・でもいいの?これ貴重なものなんじゃ・・・」
「いいんだよ!なんだかお前さんが他人のように思えなくてね・・・。村に残してきた息子が目に浮かぶようだ・・・。大事に使うんだよ!」
「うん!ありがとう!優しいおじさん!大好き!」
満面の笑顔を浮かべたタズの返事を聞いて、御者の男は「ううっ」とうめき声をあげながら保護できないことを悔やんだ。
タズは、元々エルフ族の村でも大人気であった。その顔立ちはイリスと同じく、美形のエルフ族の中でも特に整っており、身長も100cmちょっとの小さいな身体に加えて、元気で、明るく、素直でストレートな感情表現をする人懐っこい性格も併せると、とんでもなく愛くるしい。
タズのその姿は、単身赴任で出稼ぎに来ている父親勢からすると、庇護欲が全力で刺激され、今すぐにでも拾って育ててあげたくなるレベルの父親キラーである。
しかし、タズのそれは、危険とも隣り合わせである。美しい顔立ちに加えて、素直で、小さく、非力そうなエルフ。もし悪人に捕まればすぐに高値で奴隷として売り飛ばされてもおかしくない。
タズがそんな奴隷商人に目をつけられたのも、街道に出てから1日経った頃だった。




