27.拾い物と浮気の区別
27.拾い物と浮気の区別
「説明してくれるんでしょうね?」
リーナが笑顔でおれに尋ねる。
怖いです。
全知全能のおれはいま、リーナの笑顔に恐怖しています。
恐怖耐性とは何だったのでしょうか?
「より魅力的な異性に乗り換える。
何か不思議なことがございましょうか?
負け犬さん(ボソッ)」
名前も知らない魔人さん。
おれの思い人を挑発しないでください。
そして、思い人よ、そんなに睨まないでください。
なぜこんなことになったのか……。
たぶん、全てはタイミングが悪かったんだろうなぁ……。
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時は数分前にさかのぼる。
リーナと合流する直前に分身は自ら消失した。
女魔人を残して。おのれ! もう一人のおれ! 逃げやがったな!
「ワイト、戻ったのね。
ホライズンはどうなったのかしら?
あと、そちらの方は?」
俺が考えあぐねていると、女魔人に先手を打たれてしまった。
それこそが最大の痛手だった……。
「あなたがお古さんですね?
今まで彼を支えてくれてありがとうございました」
「「は?」」
おれとリーナの声が被る。
先手を取った女魔人は圧倒的だった。
あれよあれよと、有ること無いこと並び立て、まるでおれがリーナから女魔人に乗り換えたようにリーナに認識させてしまった。
もっとも恐ろしいことは魔術的な要素を一切使っていないということだろう
話術のようなスキルだろうか?
いや、何でもスキルと決めつけるのもよくないか……。
おれはなんでこんなやつ連れてきちゃったんだろう?
「鑑定」
おれの乏しい会話能力では、頭に血の上ったリーナを抑えつつ、話術に長けた女魔人の論理武装を突破できる気がしない。
だからこっちのやり方でいかせてもらおう。
<鑑定結果>
個体名:マナー・ラフ (コードネーム:エリッサ・フォン・ヤーベスチー)
種族:魔人
年齢:1752
性別:女
HP:2391
MP:4264
ちから:372
みのまもり:813
まりょく:372
せいしん:437
すばやさ:364
スキル:
上級スキル:「魔眼」「暗示」「誘惑」
聖級スキル:「耐性緩和」「スキル虚弱化」
状態:「愉悦」
個体情報:聖魔戦争を始めとするあらゆる戦場を生き抜いた古株の魔人。潜入工作員として補給線の崩壊、情報の撹乱と縦横無尽に敵を荒らしつくした。
天界門崩壊の陰で暗躍し「天使をあざ笑う魔人 」として恐れられた。
弱体化に緩和かぁ~。
そういや、バフやデバフは研究対象にしてなかったな……。
まぁ、おれにはどっちも効果ないからな。
だが、どちらも便利そうだ。
覚えておこう。
耐性なしに耐性緩和かけたら、弱点になったりするのかな?
色々試したくなってきたな。
討伐依頼の時にでも実験することにしよう。
おっと、思考がそれたな。
「なかなか、おもしろい能力ではあるが、使う相手を間違えたな。
あの城に引きこもりすぎてカンが鈍ったようだな、マナー。
いや、「天使をあざ笑う魔人」の方がよかったか?」
女魔人ことマナーが驚き振りかえる。
さっきまでの柔和な表情は吹き飛んだようだな。
相手が動揺しているうちにこちらの布陣を整えるとしよう。
「魂術」
[リーナよ、おまえは暗示をかけられている。
こいつは出先で拾った魔人だ。工作員として相当な場数を踏んでいるようだ]
リーナは精神系の耐性をボロボロにされていた。まさに豆腐メンタル。
どうやら、耐性への干渉は蓄積できるようだな。やらしいことに効果時間も永続だ。マイナス方向の加護みたいなものか?
こりゃ、一度入り込まれた組織はどうしようもないね。
接触した者を全て切り捨てないと抜け道がずっと残ってしまう……。
しかし、このスキル強いな。魔力によらない系統だから使ってること気付かなかったよ。
そんなことを考えながら、リーナの精神耐性を立て直し、理性を回復させる。
[ワイト!ごめんなさい。
あいつの話を聞いていると、それがすべて正しいような感じがしてしまって……。
ほんとにあなたが私に飽きてしまったんじゃないかって……]
[話は後にしよう。]
「潜入に失敗したようだなマナー」
「どうやら、私も耄碌したようですわね?
いつから気付いてらしたのかしら?」
「さっきからだな、それまでは興味が無かったからな」
「ひどい言いようですわね」
だがそれもさっきまでだ、部下にした以上、こいつも身内には違いないが、リーナに手を出した以上は和解できなければ戦争だ。
「おれはなるべく警告をするようにしている。
無駄に命を減らすことも無いからな。
さて、弁明を聞こうか?」
「あら、やさしいのね?」
ここで下手を打つと死ぬと……。
たぶん嘘はばれるわね。魔王軍の方たちとはここでお別れのようですわね。
「わたしの正体が潜入工作員だとご存知なのでしょうから、予想は付いていると思いますが……。
任務ですよ、わたしの任務は第三勢力の懐柔と人族社会の混乱と、その火種をまくことです。
第三勢力の情報収集も含めて、ある程度力のある方に取り入るつもりでしたが、私も勘が鈍りましたね。相手の力量を測りそこないました。」
ああ、任務放棄と魔王軍の情報供与で助けてくれないかしら?
でも情報だけでは弱いですし、私に価値が生まれませんね。
ここは二重スパイになるとかでしょうか?
三重スパイで魔王軍に帰還することもできるかもしれません。
ワイトは感心しつつも若干あきれていた。
歴戦の工作員にしては状況の整理が出来ていないな。
まだおれを裏切ろうと思っているのがいい証拠だ。
でも魔王軍の情報はほしいな……。
魔王が不在なら分身にやらせてみてもいいしな。
「面倒だから言ってしまうが、俺はお前の思考を読んでいる。
この期に及んで三重スパイまで考えるとはさすが歴戦の魔人と感心する。
しかし、おまえは勘違いしているようだな」
「任務放棄と情報提供では足りないと?」
「おまえはおれの部下だ。
城で仕えたいと言ってきたのはおまえではないか?
おれは今回程度のことで部下を滅したりはしない。
で、あるならば、ここでおまえが言うべきことは、魔王軍とおまえが敵対するのか、そして、そうであるならば、敵の情報だ。
逃げたいのであればいくらでも匿ってやる。
おれは身内には甘いからな」
初めに感じた魔王の風格は間違いではなかったようですね。
自分の直感に初めから従っていれば、こんな無様はさらさなかったのかもしれませんね。
鈍りきった工作員のカンはもう捨ててしまいましょう。
「魔王の側近」とはなかなかいい響きですしそこを目指しましょうか。
そうしましょう。
今の魔王は勇者の対応で権勢に陰りがあるようですし、それに我ら魔族はどうあがこうと、力あるモノへ集まってしまいますからね。
「主さまには新たな魔王になっていただきたく存じます。
現在の魔族の状況も含めまして、お話しする機会をいただけないでしょうか?」
少しカッコイイ事を言ったと自画自賛中のワイトに衝撃が走った。
やばい、なんか地雷踏んだ。
せっかく冒険者としての立場を築けたというのに……、このままでは本当に魔王になってしまう。
まぁ、どうするかは魔族の現状聞いてからでいいか?
とりあえず、今じゃなくていいや。
あぁ、そんなことよりリリーの誕生日会しないと!
「マナーよ、こちらにも予定がある。
話は後だ」
おれはリーナにの方に振り替える。
「リーナ、リリー、改めて紹介しよう。
おれの部下になったマナーだ。
種族は魔族らしい。色々あったが仲良くしてくれ」
女の争いの気配を察知してか、全く会話に参加していなかったリリーは目をキラキラさせて質問攻めを開始した。
リーナいまいち納得できないようだが、こればかりは和解してもらうほかないだろう。
せっかくだから、あとでリーナとリリーにはデバフへの解除魔法を教えておこう。
あらかじめ発動しておく予防魔法もいいかもしれないな……。
いや、いっそ魔道具にでもしてしまうか?
おっと、いかん。
また思考がそれた……。
さて、雑多が片付いたところで、本題の誕生日会に関してだ。
[リーナ、誕生日会の準備はどうなっている?]
[会場の手配は終わったわ。
ペンタゴンのギルドホームを使わせてもらえることになったの。
50人くらいは入れるホールを使うことになっているから、そこそこの大きさ物なら入れられるわ]
[それはよかった。
こちらはメインディッシュの悪霊はそれなりのが手に入った。
近隣で聞く限り一番古い悪霊の魂だ。
あとはリリーのほしがっている者を聞き出せれば準備は万全か?]
[ええ、そうよ。
あの子が欲しがる物の想像が付かないことを除けば準備は完了ね]
[今夜にでも聞き出してくれるのだろう?
場合によってはマナーをけしかけてもかまわんぞ?]
[この子の欲しい物を聞きだせばよろしいのですか?]
突然、マナーが秘匿した念話に割り込んできた。
[人間基準ではこの波長はスキルが無いとアクセスできませんが、魔族の魔力域では普通の帯域ですわよ?]
なんてこった、せっかく考えた秘匿通信が数日でお釈迦になってしまった……。
こうなると魂術通信しかないが、あれだとウソつけないんだよなぁ……。
どうしよう……。
[リーナに協力してリリーの欲しい物を聞きだしてもらえるか?
リーナも協力できるな?]
[ああ、さっきのことは水に流そう。
ワイトの仲間になるというのであれば、あれくらいのことは出来てもらわなくてわな]
[あら、言ってくれるわね。
あなたを本当にお古さんにするなんて造作も無いことなのに]
なんでも話術で女の争いに持ち込むのはマナーの長所でもあるが、身内ではいさかいの種になってしまうなぁ……。
まぁ、リーナもいずれ、マナーのあしらい方をおぼえてくれるだろう。
[仲間内ではなるべく仲良くやってくれ。
面倒事は少ないに越したことは無い]
こいつら大丈夫だろうか?
そんな不安を覚えつつ、リリーの誕生日会の準備を進めるのだった。




