若狭
「若狭……お前までこっちに来たのかよ」
「若狭先生!?なんで?」
周防と武蔵がそれぞれ言った。
雪がこちらの世界に来たとき、開かずの扉を開けるのを手伝った教師二人。
二人ともが、この世界に来たことがあるのだろうか。
「あの扉の鍵が開いていたら、伊澄がこっちに来たのは間違いないからね。ということは、何か面白いことでも起きているかと思ったら、何怪我してるんだい」
若狭は周防の背後に周り、何かをつぶやいた。
ぼんやりと若狭の手が輝き始めた。
「僕が伊澄の怪我を直しているから、時間稼ぎよろしくね」
魔獣は警戒しながらも、徐々に近づいてくる。
時間稼ぎはアメリアと武蔵が行うことになった。
武蔵が魔獣の目の前で宙を駆け、アメリアが剣を振りかざす。
魔獣は武蔵とアメリアが邪魔で、思うように動くことができない。
武蔵が魔獣の前に行き、囮となり、アメリアが牽制する。
二人の息は即席コンビのため、それほど合ってはいなかったが、魔獣の侵攻速度を落とすことに成功した。
「若狭先生、なんで魔術が使えるんですか?」
後方に残った雪が若狭に聞いた。
「僕も伊澄と一緒に、こっちの世界で旅をしたんだよ。その時に覚えたんだ」
雪は若狭の言葉に一つの推測をした。
過去の英雄“イズミ”の日記に、よく登場する人物がいた。
“アキラ”だ。
「若狭先生の下の名前って、“アキラ”だったりします?」
「よくわかったね。僕の名前は若狭 秋良だよ」
日記に登場していたアキラは生物教師の若狭だった。
「志摩、なんで若狭の名前を……お前たち、まさか俺の日記を読んだのか!?」
治療中の周防が慌てた。
「伊澄、動かない! 志摩さん、伊澄の日記についてはあとでゆっくりと教えてね」
雪は若狭の背後に黒いオーラが見えた気がし、背中に冷たいものを感じた。
「そ、そろそろ大丈夫だ。若狭、サンキュな」
周防が立ち上がった。
「次は無茶するなよ」
若狭も立ち上がり、魔獣のほうを見た。
武蔵は限界に近かった。
息が上がっている。
だが、一瞬でも気を緩めば、魔獣の攻撃が当たる。
受け身や防御を取れない自分にとって、致命傷となる。
張り詰めた緊張の中、恐怖の対象である魔獣と対峙していた。
アメリアはそんな武蔵を少しでも楽にさせたかった。
だが、魔獣の手と腕による攻撃が重い。
牽制するので精いっぱいだった。
「大隈!下がれ!!」
後ろからの声に、武蔵は反応した。
バックステップで後ろに後退したところ、一線の光線が走った。
後ろを見ると、周防と若狭が居た。
手を掲げている若狭が先ほどの光線を放ったのだろう。
「伊澄、作戦は?」
「俺とあの女性の二人で魔獣の動きを止める。そこにお前が一発ぶちかませ。そのあとは臨機応変で」
作戦と言えるのだろうか。
おおざっぱな方法に若狭はため息をついた。
「特大のを用意するから、巻き込まれないようにね」
若狭の言葉を聞き、周防は頷いた。
そして前線へ駆けだした。
「雪、なんで若狭先生が魔術使えてるんだ?」
後方へ下がった武蔵が雪に聞いた。
「若狭先生もこっちの世界にきたことがあって、日記に書かれていた“アキラ”が若狭先生だって」
若干、興奮気味で雪が答えた。
三百年前、あの魔獣と戦ったのが周防と若狭だった。
であれば、三百年前と同様に、一部の封印で、倒すことは不可能ではないか。
武蔵は思った。
状況が違うとすれば、“軍神”に憑かれているアメリアが今回はいる。
前線で戦えるのが一人から二人に変わっている。
今度はあの魔獣を倒すことができるのだろうか。
武蔵と雪は三人の戦いを見守った。




