駆ける
戦いの最中だというのに、アメリアは目をそらしてしまった。
自分の背部――王宮礼拝堂の方で、強烈な光が放たれたからだ。
何事かと、視線を向けると、上空にあり得ないものがあった。
王宮礼拝堂が浮いていた。
ただし、上下が逆になって。
「なんだ……あれは……」
タイミングからして、武蔵たちが何かを行なったのだろう。
目をそらしたのは一瞬だったが、隙を狙っていたものにとっては十分な時間だった。
「!!」
脇から剣が突き出てきた。
ギリギリのところでアメリアは避けた。
「さすが、総団長。簡単にはいかないっすね」
味方であるはずの第二小隊の面々がアメリアを囲っていた。
「どういうことだ?」
アメリアの低い声が響いた。
「ジャレッドが失敗したと聞いていたんで、理由は知っていると思うんですが」
兵士の一人が話した。
ジャレッドは最後に何を行っていたか。
“三百年より以前は他国との交易がおこなわれていた。それが今は行われていない。そう、結界があるからですよ”
「貴様たちも他国との交易を行なうために、結界を破壊しようというのか?」
「結界の破壊という目的は一致している。俺たちは、兵士なのに戦う相手が魔獣のみという現状に不満がある。いくら戦っても国がでかくなるでもなく、恩賞もほとんどもらえない。結界さえなければ、他国に攻め入って、勝てば土地も増える、財宝も手に入る!」
その叫びに呼応して、兵士たちが次々と叫ぶ。
「この国で満足していないのか!?」
「もっと満足な国にしたいだけだ!そのためには、結界を張りなおそうというあんたたちが邪魔なんだ!」
そういうと、アメリアに兵士が切りかかってきた。
アメリアの剣は魔獣ではなく、味方であった兵士たちに向けることとなった。
「さて、どうやってあそこまで行こうか……」
王宮礼拝堂の上で武蔵は腕組みをした。
「武蔵くんが、私を肩車してみる?」
「それで届く場所かよ……」
ジャンプしても、手が届かない。
そもそも逆さまなのだから、空を飛ぶぐらいした辿り着く方法はない。
そう考えていると、火の玉が飛んできた。
「うぉ!!!」
その場にしゃがんで避けた。
「今のって、魔術じゃないかな」
「俺たち、魔獣に間違えられたか?」
しゃがんだまま武蔵と雪は考えた。
その間も、火の玉はいくつも飛んできた。
「まずい!一旦、礼拝堂の中に戻るぞ!」
まずは雪を屋根から窓へ移動させた。
武蔵も移動しようとしたとき、火の玉がまっすぐ向かってきた。
「うわぁあ!」
足を滑らせた武蔵は、地上へ落下した。
「武蔵くん!!!」
窓から雪が顔を出している。
「うぅ……」
武蔵はとっさに受け身をとったため、打ち身だけで済んだ。
寝ころびながら、上空の逆さ礼拝堂を見た。
そして、自分のギフトについて思っていた。
『あなたのギフトは珍しく二つありますね。早く“動く”と“駆ける”です』
この世界に来た日、神官に言われた二つのギフト。
武蔵は起き上がり、ストレッチを始めた。
二つ目の“駆ける”で、空中も駆けることができたら……
王宮礼拝堂の周りを走り、礼拝堂の壁に足をかけ、らせん状に駆け昇って行った。
「うぉおおお!!!」
どんどん駆け昇り、落下した屋上まで到達した。
その勢いのまま、空中に足を踏み出した。
何もないはずのそこに、足場があるかのように踏み出せた。
そのまま、反対の足を踏み出した。
反対の足の着地点も空中のはずだが、足場がある。
武蔵は空を駆けていた。




