噂
夜――
三人は居酒屋にいた。
問題があったが、無事三つ目の封印まで確認でき、あと一つとなった。景気づけに、勢いで居酒屋に来たが、アメリア以外は酒が飲めない。
ジョッキになみなみと注がれた酒を一人で飲むアメリア。うらやましそうに見る雪と武蔵。そんな三人組だったため、若干浮いていた。
「日記の続きを教えてください。次はどこですか?」
武蔵は日記を広げた。
三月十五日 晴れ アキラを引きづり、アルーメンを出発した。
三月十六日 くもり 北のニガヴィーへ向かう途中、魔獣が出た。
三月十七日 雨 今日も魔獣が出た。この付近は魔獣の活動が活発なようだ。
三月十八日 雨 ニガヴィーへ着いた。魔獣に侵攻され、廃墟となっていた。
三月十九日 雨 ニガヴィーの魔獣を掃討した。
三月二十日 雨 生き残っていた人がいた。アキラが何か生きていく知恵を教えたらしい。
三月二一日 曇り 第四の封印を街の中心にある教会の地下にした。
三月二二日 曇り 四方の封印が終わったので、王宮へ戻る。
「次は北のニガヴィーという街ですね」
「……ニガヴィーか。あまり言い噂を聞かないところですね」
日記の内容を伝えたところ、アメリアの顔が曇った。
言い噂を聞かないとはどういうことだろうか。
「噂とは?」
「治安、物価、犯罪率ともにこの国最低の街。“娯楽の都市”と言われているが、“欲望の街”の呼び名のほうが有名です」
悪い噂しかなさそうだ。
アメリアがジョッキの酒を一気に飲み干した。店員におかわりを要求した。
「そんなに悪い街なのに、良くしようとはしないの?」
雪がアメリアに聞いた。アメリアが横に首を振った。
「住人にとっては、ある意味天国のような場所でもあるの。だから、変えようとする力が内側から出てくることはないわ」
住人にとっては天国?いったいどういう都市なのだろうか。
「一つだけ、注意してほしいことがあります。あの街では人を信じないでください」
翌日――
朝一番に出発する馬車に三人は乗っていた。
歩かなくていいというのは、素晴らしいことだ。
ただ、早くもおしりが痛くなってきた。
雪も同じようで、時折、腰を浮かせて、空気椅子状態になっている。
「武蔵くん、休憩ってないのかな?おしり痛い……」
「わからない。ただ、アメリアさんが普通にしているということは、まだ序の口じゃないのか?」
それから一時間後、待望の休憩がやってきた。
街道の脇に馬車を止めた。
馬に水と餌を与えるためだ。
馬車から飛び出た二人は、伸びや屈伸をし、体をほぐした。
「休憩ありがとうー」
それを見たアメリアがくすくす笑っている。
「マジで痛かったんですから、そんなに笑わないで下さいよ」
解放感から、口が軽い。
「馬車に乗ったことがあまりないんですか?」
「馬車はないっすね。木の椅子が憎いですよ」
そんな会話をしていたところ、いきなり、アメリアが茂みを睨みつけた。
「気を付けてください。何かいます……」
アメリアの気配が変わった。腰を低くし、剣を抜いた。
武蔵は雪とともに馬車の近くに下がった。
茂みから、紫と黒のまだら模様の蜘蛛のような魔獣が現れた。
馬車よりも大きな体が複数ある足を使って、茂みから器用に出てくる。
異常に気が付いた馬が嘶いた。
三百年前の日記にもあったが、この界隈は魔獣が出やすいようだ。
アメリアが地面を蹴って、魔獣へ向かって行った。
魔獣は前方の足を振り上げ、アメリアに向かって振り落した。
直前で横に回避した。
魔獣の脇に出たアメリアは、魔獣の足を切り落とした。
緑の液体が散る。
バランスを崩した魔獣が、顔を上に向けた。
口から白い糸のようなものを吐き出した。
吐き出した先にアメリアはいなかった。
すでに逆サイドに移動し、反対側の足を切り落とした。
体重を支えきれず、魔獣は腹を地面につけた。
その隙に上に飛んだアメリアが、頭を真っ二つに切った。
アメリアが魔獣を倒すまで、一分もかからなかった。




