ハンナ
雪は黒い炭の塊となった魔導書から無事なページを切り取った。
大事にそのページを持ち、アメリアに聞いた。
「新しい魔導書って、すぐに作れるものかな?」
「何も封じていない白紙の魔導書がないか、知り合いに掛け合ってみます」
翌日、アメリアについて王立学校の研究塔に居た。
知り合いというのは、研究者らしい。薄暗い廊下を進み、ある一室の前で止まった。
「若干、特徴的な人ですが、悪い人ではないので、頑張ったください……」
どういう意味だろうか。武蔵と雪は困惑した。
アメリアがドアのノックした。
「ハンナ、入るわよ」
ドアを開けた瞬間、本が飛んできた。
アメリアは片手で本を払いのけた。
「簡単なトラップですね」
研究者の部屋は貴重な資料は研究結果がある。窃盗を防ぐため、ほとんどの研究室にはトラップがあると、アメリアから後で聞いた。
「そりゃ、在室中は大がかりなトラップは外しているからね」
メガネをかけ、白衣を着ている、妖艶な美女が居た。長い黒髪をたらし、真っ赤な唇に目がいってしまう。
「元気そうで」
「アメリアもね」
アメリアはハンナに近づき、握手をした。
「で、そっちの二人の紹介をしてくれない?」
廊下で置き去りとなっていた二人に気が付いたハンナは、アメリアに聞いた。
「……男のほうが武蔵で、女のほうが雪。過去の英雄“イズミ”と同じ世界から来た二人よ」
次の瞬間、ハンナが飛びついてきた。
「“イズミ”と同じ世界!!ギフトは何?特殊系?それとも特別な知識や能力があるのかしら?あぁ、二人もいれば片方は解剖できるかしら」
はぁはぁと息を弾ませ、迫る美女。男ならうれしい状況だが、最後に言った言葉が不吉だ。
「離れなさい!困っているでしょ」
アメリアがハンナを落ち着かせるため、武蔵との間に割り込んだ。
落ち着きを取り戻したハンナが、あらためて武蔵と雪に挨拶をした。
「武蔵さん、雪さん、取り乱してすみません。私の研究は歴史……特に“イズミ”に関する伝承を専門に扱っていますの」
研究室の一角にある応接間に通され、お茶を啜っていた。
「ハンナ、用件を先に言うと、白紙の魔導書を一冊貰えないかしら?」
カップを置いたアメリアが切り出した。
「一冊くらいならいいけど、何に使うのか教えてくれないかしら?」
アメリアは一瞬ためらったが、正直に話した。
「……イズミが過去に封印した球体を再封印するためよ」
「伝承の封印!!その封印どこにあったの?再封印ってことは、今封印の媒体を持っているってこと!?」
また暴走が始まった。机に身を乗り出し、アメリアに詰め寄る。
アメリアがつい、目線を武蔵に向けてしまった。
ターゲットが武蔵に変わった。
「武蔵さん、ちょっとでいいから媒体を見せて頂戴!いえ、見せてください!解体したいけど、我慢しますから!!」
とっさに抱えていた球体を背後に隠した。
「壊しませんか…?」
「もちろんよ!約束するから早く見せて!」
美女の表情が崩壊した。メガネは息で若干白く曇り、そこから除く目は瞳孔が開き気味だった。
背後からそっと球体を机の上に置いた。
手が震えるハンナがそっと触れた。
「おぉぉ……!」
ハンナが満足するまで、三十分はかかった。
光る球体を撫でるのに三十分……
早々に飽きた雪は、研究室内を探検していた。
武蔵はハンナが何かやらかさないか、目を離せないため、我慢した。
「ハンナ、そろそろ魔導書を頂戴」
アメリアがため息とともに言った。
「……そうね、ちょっと待ってて」
渋々球体から離れたハンナは、机へ向かった。
「はい、これでいいかしら?」
一冊の本をアメリアに渡した。
「ありがとう。これで再封印ができるわ。それと、接着剤もあると助かるんだけど……」
以前の魔導書のページをつなぐため、接着剤が必要だった。
「あるけど、封印に使うものじゃないわよね?」
首をかしげながら、ハンナは机の引き出しから接着剤を取り出し、アメリアに渡した。
「燃えた魔導書の一部を移植しようと……」
「燃えた魔導書って“イズミ”に関連した本!?なんで燃えるのよ!再封印って、そういうことなの!?」
またハンナの暴走が始まった。
結局、ハンナの質問攻めが終わったのはそれから三時間が過ぎてからだった。




