船中にて
港町“クヨン”に辿り着いたのは、日が傾きかけたころだった。
夜の出航はないため、三人は一泊してから、アルーメン行きの定期船に乗った。
南の都市ガランゴジュから西の都市アルーメンの間には、大きな湾があるため、陸路を行くより海路のほうが早い。
それでもクヨンからアルーメンまで船で三日ほどかかる。
初日、初めての船に興奮した雪が、船内を駆け巡った。
そして船酔いした。個室で横になり、大人しくなった。
その間、武蔵とアメリアはこの先の行動について話し合っていた。
「日記に書かれていることを教えてください」
武蔵は個室内にある椅子に座り、日記を開いた。
「昨日の続きは次のようになっています」
三月 九日 晴れ 海賊が現れた。アキラがすべて焼き払ったが、船の一部も焼けた。
三月 十日 くもり 停船して船を補強した。火力が問題だとアキラは言うが、場所を考えるほうが先だと思う。
三月十一日 くもり 一日遅れでアルーメンに到着した。アキラが海賊を倒した英雄となった。
三月十二日 雨 封印できる場所がない。アキラがパレードをした。
三月十三日 雨 魔導書を作成した。これで封印ができた。アキラの行方は分からない。
三月十四日 晴れ 図書館に魔導書を隠した。アキラが握手会を開いていた。
「注目すべきは魔導書と封印の関係だが……どうつながるんでしょうか」
武蔵が顎に手を添え、考えた。アメリアの説明では、魔導書とは本に魔術を封じ込め、いつでも使えるようにしたものらしい。第三の封印は魔導書に施したのだろうか。
「私にもわかりません。とりあえず、図書館で魔導書を探してみましょう……でも……」
実物を見ない限り、判断できないというところで落ち着いた。だが、アメリアはそれ以外の懸念事項があるようだった。
「それにしても、よく出てくるアキラって人は、炎の魔術が使えるようですね」
アメリアが急に話題を変えてきた。武蔵に懸念を感じさせないようにしたのだ。
「あぁ、いつも日記に登場してくるから、一緒に行動していたのはわかるが、トラブルメーカーだよな」
過去の英雄として伝わっている名は“イズミ”のみで、“アキラ”という名は伝わっていない。
吟遊詩人の唄や何かの伝承に出てくるかもしれない。今後、昔のことを知っている人がいれば聞くことで話は終わった。
夜――
武蔵は慣れない船のため、眠れずにいた。
同室内の雪からは寝息が聞こえている。船酔いで体力を消耗し、疲れているのだろう。
その隣のベッドに寝ているはずのアメリアがいない。
武蔵と同様に眠れず、外の空気を吸いに行っているのだろうか。
武蔵も起き上がり、部屋から出た。
甲板に出た。夜の冷たい風と海の潮の香りが周囲に漂い、清涼な空気だ。
そこにアメリアは居た。
足元がぼんやりと光り輝いている。
近くに寄ると、光は円を描いており、複雑な模様と文字で構成されていた。
「眠れないのですか?」
気が付いたアメリアが声をかけてきた。
「船で寝るのは初めてなもんで、眠れないです。はい」
頭をかきながら、武蔵は言った。足元の光が気になる。
アメリアは何をしているのだろうか。武蔵は疑問に思い、聞いた。
「今、女王陛下へ報告をしていました」
アメリアがさらりと答えた。初めて見る魔術に武蔵は鼓動が早くなり、興奮した。
「それ、魔術ですよね!?俺、初めて見ました。報告って、サラ女王へ話ができるんですか?」
「声のみですが、双方向での通信が可能となっています」
アメリアが手招きをしている。武蔵はそっと光の円に足を踏み入れた。
「武蔵どの?健勝とは聞いておるが、変わりはないかえ?」
サラ女王の声が聞こえた。
「あ、はい。元気に過ごしています」
何を言っていいのかわからない。武蔵は緊張した。
くすくすと小さく笑う声が聞こえてくる。笑い声が止まり、一変、真面目な声でサラ女王が話しかけた。
「先ほど上がってきた報告な故、詳細はわからぬが、そちらの活動に対して妨害が入るかもしれぬ」
サラ女王との通信が終わり、無意識に入っていた力が抜けた。武蔵は大きくため息をついた。
「報告は毎晩行っていたんですか?」
「陛下への報告は義務ですから……」
それにしても、妨害とはなんだろうか。気を付ける必要があるということだけは確実だ。
明日、雪が起きたら教えておこうと武蔵は思った。
日記に書かれた海賊に会うことなく、二日後、無事にアルーメンに船は到着した。




