過去の伝言
アメリアが壁に背を預け、少しずつ進んだ。
あと少しで竜の巣に出る。ランプの灯を前に出し、そっと覗き込んだ。
竜はまだ寝ていた。
長い首を地面に横たえ、大きな胴が上下に動いている。
アメリアは振り返り、大きく頷いた。
一歩ずつ、足音を立てないように進む。
壁沿いに三人はゆっくりと慎重に歩いた。
あと少しで竜の巣から出られるというとき、武蔵の腕を後ろから雪がつかんだ。
振り返った武蔵の目に入ったのは、雪とその後ろで真っ赤な二つの瞳だった。
竜が起きた。低いうなり声が聞こえる。
アメリアも異変を察知し、振り向いている。
三人は走り出した。アメリアと武蔵が通路に出たとき、雪は立ち止り叫んだ。
「マインラートさん、この奥の部屋にあった伝言!!“私のことは待たず、仲間を探す旅に出て欲しい”!!」
うなり声が止まった。
『その言葉は真か』
「こんな時に嘘を言うはずないでしょ」
雪が竜に反論した。その言葉に竜は目を細めた。
『……イズミめ、われの性格を知って残したな。人間よ、われはここに居続ける故、早々に立ち去るがよい』
通路への入り口で、武蔵とアメリアが雪が早く逃げるように手招きをしている。
しかし、雪は竜の言葉に対し、さらに続けた。
「なんで仲間を探す旅に出ないの!?そのイズミって人のお願いは聞かないわけ?」
竜がなんと言っているかわからないが、ムキになった雪は止められない。武蔵の頬に冷や汗が伝った。幼馴染だからわかる。こうなってしまっては、納得いくまで動かない。
『われがどうしようと、おぬしには関係なかろう』
竜がぷいっと横を向いた。かーっと雪の低い沸点に達した。
「このわからずやーー!!!」
目の前にあった竜の髭を一本つかみ、勢いよく引っ張った。雪は髭を一本抜いてしまった。
竜が叫び声をあげた。
壁に尾を叩きつけ、翼をバサバサと広げ、長い首を振り回した。
壁から岩が落ちてくる。
「雪!崩れるから逃げるぞ!!」
武蔵は雪の元へ駆け寄り、腕をつかんでアメリアがいる通路へ走った。
後ろでは轟音が響いている。竜がまだ暴れているのだ。
三人は振り返らず走った。またこのパターンかと武蔵は思った。
やっと洞窟の出口に辿り着いた。
日記に書かれている場所を辿ると、いつも逃げ走っている。
穏便に事を進めることはできないのだろうかと、武蔵は真剣に考えたいと思った。
もっとも、厄病神様がついている時点で、それはかなわぬ夢だとしても。
洞窟を後にし、採掘所に戻った三人は再び逃げることになった。
竜が暴れた振動が採掘所まで響いて、あちこちで落石や崩壊が発生していたのだ。
採掘所で働いている人たちが右往左往していた。
洞窟のことを教えてくれた人もその中に居た。
「これ、私が原因かな……?」
手に竜の髭を握ったまま、雪が頭をかきながら言った。
「直接暴れたのは竜だが、その原因を作ったのは雪、お前だな」
「とにかく、宿屋に戻って荷物を持ったらすぐに出発しましょう。余計な騒動に巻き込まれないうちに」
アメリアが冷静に言った。二回目ともなれば、慣れもある。
混乱した採掘所を抜け、街の宿屋に戻った三人は荷物をまとめ、工業都市“ガランゴジュ”を後にした。
「次はどこと日記に書かれていますか?」
街道を少し歩いたところで立ち止り、アメリアが聞いてきた。
「“アルーメン”という都市です」
日記を取り出し、武蔵が言った。
「西にある学問の都市“アルーメン”ですね。行くには陸路と海路の二つの方法があるけど、日記に何か書かれていれば、同じ道を行くけど……」
武蔵は日記の内容を確認した。
三月七日、くもり ガランゴジュを後にし、アルーメンに向かう。
三月八日、晴れ アルーメン行きの船に乗る。アキラが船員と何か話している。
「海路でアルーメンに行ったと書かれてますね」
「では、この先の港町へ行き、定期船に乗っていきましょう」
次の都市へ行く方法が決まった。




