竜との対峙
目の前に舞い降りた竜。三人は対峙する形となっていた。その中、雪が前に歩み出た。
「私、志摩 雪といいます。こっちは幼馴染の大隈 武蔵で、あっちがアメリア……なんだっけ?」
雪は竜に向かって自己紹介を始めた。
「アメリア=バンフィールドだ」
アメリアが律儀に答えた。
「何、のんきなことしてんだよ!」
武蔵が雪にツッコミしたが、雪は構わず竜に話しかけた。
「この巣のどこかに坑道がつながっているんで、そこを探すだけですから」
竜は大きな口を開け、哭いた。会話ができているのだろうか。武蔵は雪に説明を求めた。
「この竜、すぐここから出てけって。出てかないと攻撃するって意気込んでいるところ。もうちょっと待って」
状況は絶体絶命だった。
「雪と会話が成立しているのか……」
武蔵とアメリアは雪と竜の会話を見守るしかなかった。雪の説得が成功すれば、調査が続けられる。
だが、もし失敗したら命が危うい。
突然、竜との会話(?)が止まった。
武蔵は雪に近寄った。
「雪、どうなったんだ……?」
「こちらは竜族のマインラートさん、ここの巣の持ち主で、ここから十秒以内に出て行かないと攻撃するって」
雪はごめんと手を合わせ、頭を下げた。
説得が失敗したのだ。
それに十秒は会話している間にとっくに過ぎた。
竜を見ると、こちらに向かって口を開いていた。
口に白い光が収束していく。あれがドラゴンブレスか。
「に、逃げよう!!!」
三人は来た道を全速で走り、逃げた。後ろを振り返らず、一心不乱に走った。
洞窟の外に出たところで三人は止まった。
息切れをし、その場に倒れこんだ。
「助かった……」
しかし、肝心の坑道への入り口が見つからないばかりか、竜という障害が増えた。
「とりあえず、宿に戻って対策を練りましょう」
アメリアの提案に武蔵と雪が頷いた。
宿に戻り、三人は相談するため一室に集まった。
「対策って、何か案があるの?」
雪がアメリアに聞いた。
「竜はとても強いです。正面から挑むには人数が少なすぎます」
戦いを前提とした場合、このメンバーでは負ける。アメリアは人数のせいにしてくれたが、武蔵と雪は戦闘経験がない足手まといで、人数にカウントすることもできないだろう。
「やっぱり、あの竜の巣から坑道へ行くという方法も無理かな?」
武蔵は諦めかけたが、アメリアが人差し指を立てた。
「すぐに実行可能な案が一つだけあります。私の故郷に伝わる古いお話です」
“村の近くの山に竜が住みついた。
畑は荒らされ、山から動物が消えた。
食糧が乏しくなり、人々は困り果てた。
ある日、一人の村の青年が立ち上がった。
村中の酒を用意し、竜に持って行った。
竜は機嫌よく、すべて飲み干し、寝てしまった。
その隙に、青年は竜の首を落とした。
村に平和が戻り、青年は村中から感謝された”
「竜は酒が好きな種族です。酔わせて寝入ったところで……」
言葉を区切り、手を首にあて、水平にスライドさせた。
「絶滅したとされるほどの種族を、早々に殺してもいいんですか?」
絶滅危惧種を殺しても良いかと言われれば、常識ではNGである。
「最後の一頭を殺したとして、後世に名を残せますね」
アメリアがおどけて見せた。悪名として残るのは御免こうむりたい。
「寝た隙に坑道に入っちゃって、戻るときは全力で逃げるってのはどうかな?」
三人は街の食料品店や居酒屋を周り、入手できる酒樽を大量に買い込んだ。
お金の心配をしたが、アメリアが必要経費として持った。バックに国庫があるため、遠慮はいらなかった。
道具屋で荷車を借り、酒樽をすべて乗せた。
竜の巣につながる洞窟に戻った。
武蔵が荷車を曳き、三人は洞窟内に踏み込んだ。
「雪、酒を竜へ渡す説明をちゃんとするんだぞ」
「わかってるって。この前のお詫びだって進めればいいんでしょ」
三人は竜の巣に出た。
広いホールの上から、前回と同じように竜が舞い降りてきた。
『また汝らか。よほど死にたいと言うのか?』
竜の哭き声が響いた。
雪が歩み出て、竜に向かって言った。
「この前は騒がせたごめんなさい。お詫びに、竜族が好きなお酒を持ってきたから、許して」
手を合わせ、頭を下げた。
武蔵は雪の横に荷車を移動させ、酒樽の一つを開けた。
洞窟内に酒の匂いが漂った。
『ほう、なかなか良い心がけだ』
竜は長い首を下げ、ふたを開けた酒樽を加えた。
そのまま、首を上に向け、ぐびぐびと酒を飲み始めた。
すべての酒が空になったころ、竜は首を曲げて眠りについた。




