第一の封印
部屋中に広がった光が収まった。中央の台にあった丸い石が、ぼやりと青白く光っていた。
「第一の封印って、この石のことだったのか……?」
武蔵がつぶやいたのを聞き、台を調べていたアメリアが声をかけた。
「ここの部分なんだけど、読めない文字が書かれているの。読めるかしら?」
アメリアが指差す場所を見た。そこには日本語が書かれていた。
文字の一部が欠けて読めない。三百年の月日が災いしたのだろう。
“この文章を読める者へ
台の上の球体はこの国の結界を支えている。
もし、輝きが失われていたら球体に触れてほしい。光が戻れば、問題はない。
光が戻らない場合……王宮に眠る……掲げ……”
日記に書かれていたのは各地――四都市の遺跡だった。ここと同じような結界を支えている球体が他に三つあるということだろう。
結界が薄くなっていたのも、ここの球体の輝きが失われていたせいなのか。
武蔵が台と日記に書かれていることから推測した内容をアメリアに伝えた。
「読めない部分は、光が戻らない場合の対処法が書かれていたのでしょう。他の三カ所で光が戻らなかったとき、厄介ですね……」
武蔵とアメリアが話をしていたとき、雪が球体を持ち上げた。
球体が台に触れていた部分が、ガコッと持ち上がると同時に、地響きが起きた。
「雪!今度は何をした!?」
武蔵が反射的に雪に叫んだ。
「この丸い石を持ち上げたら、何か突起物が出てきた。なんだろ、コレ?」
「とりあえず、それを元の場所に置いてください」
アメリアも雪に叫んだ。
雪が球体を元の位置の戻すと、飛び出ていた突起物がへこみ、地響きも収まった。
何かしらの仕掛けだったと思われるが、何が起きたかはわからない。
武蔵たちがいる部屋の中は、特に変わった様子はなかった。
三人は部屋を出て、来た道を辿り、教会の祭壇に出た。
途中、天井が落下した通路は歩きにくかったが、他に仕掛けもなく、問題なく戻ってこれた。
「最後の地響きは何だったんだろう……」
武蔵のつぶやきに、アメリアも首を縦に振った。
「天井の落下や壁の崩壊もなかったですし、帰り道も変わったところがなかったですよね……」
「問題なかったから、いいんじゃないかな?」
三人の中では雪が一番楽観的なようだ。
武蔵はふと思った。考えてみれば、仕掛けが作動した原因のすべてに雪が絡んでいた。
もしかして、ギフトの“厄病神”様が発動したのではないかと。
もしそうであれば、最後の地響きは絶対何かが起きている。
とても嫌な予感しかしなかった。
「アメリアさん。地下とここは無事でも、他が無事ではなかったということはないでしょうか」
気が付けば、神官の姿がないこともおかしい。
武蔵は走り出し、教会の扉を開き、外に出た。
後ろからアメリアと雪が追いかけてきた。
三人は外の風景に驚いた。
いくつかの建物が斜めに傾き、一部では火災が起きたのか、煙が上がっていた。
石畳の道路も一部が崩れており、人々が走り回っていた。
そのうちの一人を捕まえ、武蔵が聞いた。
「何があったんですか?」
「いきなり、あちこちの地面が陥没したんだ。生き埋めになった人がいないか、みんなで手分けして探しているところさ」
最後の地響きで陥没したのだろう。
「アメリアさん、一つ提案があります……」
「奇遇ですね。私も提案が一つありますの……」
武蔵とアメリアはお互い見つめあい、頷いた。
「ねぇねぇ、二人で何見つめあっているのよー。仲間外れは許さないぞぉ」
武蔵は雪の腕をつかみ、走り出した。逃げ出したのだ。
もし、神官が地下に三人が入ったことを誰かに話せば、今回の原因として捕まる可能性が高い。
確かに原因ではあるが、こんな仕掛けになっているとは思ってもいなかったのだ。不可抗力だ。
日記に書かれた仕掛けた張本人“アキラ”とそれを止めなかった“イズミ”を恨んだ。
混乱している街の中を走り、宿屋に置いてあった荷物を取り、三人は街――テルフストを逃げ出た。
「次はどこかしら?」
テルフストを出て、街が見えなくなったところでアメリアが武蔵に聞いた。
「“ガランゴジュ”という都市です」
アメリアに日記に書かれた都市の名を伝えた。
「工業の都市“ガランゴジュ”ね。ここから南に行った都市だわ。この街道を南下しましょう」




