午前二時の青い光と豚の反乱
午前二時。
部屋の空気は冷たさを増し、深夜特有の濃密な静寂がすっぽりと包み込んでいた。
ノートパソコンのディスプレイが放つ青白い光は、ハルの真剣な眼差しと、その背後で見守るトンちゃんの丸い姿を鮮明に浮かび上がらせている。
「う〜ん……このキャラクターの瞳の色、もう少し深みのあるグラデーションにしたいなぁ」
ハルはカラーパレットと格闘していた。
画面上の微妙な色合いの変化に没頭するあまり、顔がディスプレイへと極限まで近づいていく。
「おい、ハル」
ソファの背もたれから、トンちゃんが心配そうな、そしてどこか呆れたような声を上げた。
「お前の顔、パソコンの画面にくっつきそうだぞ。画面から放たれる『青い光』で、お前の顔が青白い幽霊みたいになってる」
「ブルーライトのことでしょ? 大丈夫だよ、画面の明るさは少し落としてあるから」
「そういう問題じゃない。お前、さっきからまばたきの回数が減りすぎて、目がカピカピになってるだろ」
トンちゃんは、画像の通り掛け布団のようなピンクの布をかぶったまま、ズリズリと身体を前へ滑らせた。
「いいか、人間ってのは目を痛めたら絵が描けなくなるんだぞ。画面の青い光はな、脳みそに『今は昼間だ!』って嘘の信号を送る毒薬みたいなもんだ。今すぐパソコンを閉じて、画面の光を遮断しろ!」
「ダメだよトンちゃん! 今、すごく良い色が作れそうなの。ここを妥協したら、明日の朝絶対に後悔するもん!」
ハルは譲らない。
彼女の指先は、マウスを器用に滑らせて微細な色調整を続けている。
すると、トンちゃんはふんと鼻を鳴らし、驚くべき行動に出た。
短くて丸い腕(?)を精一杯伸ばし、ハルのノートパソコンの画面の端を、がぶりと口で挟み込もうとしたのだ。
「ちょっと! トンちゃん何してるの! 画面を噛まないで!」
「反乱だ! お前の目を守るための、豚による正義の反乱だ! 画面を覆い隠してやる!」
「噛むのはやめて! パソコンが壊れたら元も子もないでしょー!」
ハルは慌ててトンちゃんのお腹をぽむぽむと叩いて引き剥がそうとし、二人はローテーブルの上で小さな攻防戦を繰り広げた。
「ふぅ……ふぅ……分かった、分かったから! 目薬を差すから、ちょっと待って!」
ハルが降参してペンケースから目薬を取り出すと、トンちゃんは満足そうに口を離し、再びソファのポジションへと収まった。
「最初からそうすればいいんだ。目を大切にしない奴に、良い絵なんて描けるわけがない」
「もう……トンちゃんったら、乱暴なんだから」
ハルは目に清涼感のある点眼薬を落とし、パチパチとまばたきをした。
視界が急速にクリアになり、画面の中の色彩がより鮮明に浮かび上がってくる。
「……あ、本当だ。目がスッキリしたら、色の違いがよく分かるようになった」
「ほら見ろ。俺の言った通りだろ?」
トンちゃんは得意げに胸を張った。
青い光が照らす深夜の部屋で、ハルは少しだけ苦笑しながら、再び画面へと向き直るのだった。




