当選
大石は選挙権を得て二十年は生きた。
そして、選挙自体初めて投票しに来た。
人生初めての選挙、これまでゴミとして捨てていた選挙権を行使する。
最寄りの指定されてる小学校が投票場所だ、小学校なぞ何年ぶりか。流れはわからないが言われた通りにしていけば良いらしい。
人が多い、大石は「こいつら毎回こんな事何年もやってきたのか、人に丸投げしか出来ない猿どもが」と心の中で悪態をつく。
今回は自身も猿になる、川本太郎に一票を投じる。大石初の人に委ねる行為、嫌ではなかった。
川本太郎から滲むオーラは同じ思考、思想、性格、息を吸うように他人を踏み台にして蹴落とす。大石の自然とやれる汚い心の持ち主にしか共鳴出来ないだろう。
情報弱者、社会的弱者と呼ばれる層から見れば自分達にとってカリスマが、神が現れたに等しい。
その神の像を演じて信じ込ませる芝居に大石は敗北感すら抱く。
流れ作業で投票を済まし、小学校を出る。
そこで出口集計の者が近寄る。
「投票お疲れ様でした、出口集計してるんですがどちらに入れられましたか?」
大石は嫌悪感が膨らんだ、一人一人じゃなく単なる票数でしか見てこないマスコミに。
「それってなんか謝礼とか出るの?」
「え……いや、お聞きしてるだけで……」
「あ?人の時間奪って謝礼も無しとか舐めてんのか、どけよ邪魔だマスゴミやろうが」
絶対的、確定的に強者になれるシーンでは日頃のストレス発散も兼ねて悪態を吐く。大石のごくごく自然で疑いの無い行動だ。
ポカンとする調査員だかマスコミだかを置いて帰宅する、すれ違いに見る車椅子や障害者の数が多い。
結果は川本太郎当選あり得るだろう、ライバルが弱い。地域性ではネットやSNSを扱う層が多い、街中も派手な色の街宣車にバカでかい音声で歌のリズムで川本太郎を刷り込んでいる。
一人目立っていた、悪目立ち、遊んでると言われる声もあるが勝ったもん勝ちだ。
大石はこれまた初めて開票速報を見守った。
選挙の特番、有識者とやらがベラベラと講釈を垂れるが上から目線で安全圏から戦いもせず情報に少しだけ、自分の思想を加えて流すだけ。
そんなにテレビ出て偉いんなら立候補すれば良いのに臆病で汚い野郎共だと、鼻で笑う。
自分は良いのだ、自分は生きる上で賢い、格下には容赦しないし格上は適当に合わせれば良い。
今や匿名で人を攻撃だって出来る、素晴らしい時代だ。
大石はSNSで情勢を収集と川本アンチに対抗していたら速報が入った。
——川本太郎 初当選確実
大石はガッツポーズをした、自分をスケールアップしたような黒いオーラが奥底にある癖に明るく綺麗に装う憧れのような存在が議員になる。
議員がどんなものかは知らない、興味ない人生だった。だが間違い無く勢力は拡大する。
自分に取って行きやすく、大勢多数でしか動けない羊共が慌てふためく様が見れると確信した。
これから社会が混沌とするかもしれない、否それはおかしい社会が正常になる過程だ。
川本太郎当選、これが大石にとって人生の崩壊の始まりだった。




