川本太郎
大石はテレビに映った男、川本太郎が頭から離れなかった。
全身から淡く「良い者」オーラを出し、顔立ちは整い歳の割に若そうに見える綺麗さ。
一番惹かれたのが「目」であった。
凄まじく綺麗な目をして選挙に対して決意を感じる目をしている。
そう、表面的にはだ。
大石は更にその奥に感じた「濁り」に惹かれた。
直感だった。
アイツは俺と同じタイプ、もしかしたら自分より業が深いかもしれない。
大石は他人に興味等無い、全ては自分の為に使えるか使えないかの二択で生きている。
友達は居ない、なぜならば信用出来ないからだ。
奴らは無駄な時間を生み出す割に、友情と言う薄っぺらな言葉で繋がろうとしてくる。
それが大石の考え方であり、絶対的に普通とされる大多数から弾き出される要因だった。
その日から選挙までの候補者討論や街頭演説をチェックするようになっていた、川本太郎のみを絞り。
討論番組では極端な思想から突飛な事を口走り、司会者から注意され挙句強制的にカット。
演説の様子も数ある候補者の中で最後に少しだけ。
政策は小学生の考えた「ぼくのさいきょうのさくせん」みたいなシンプルにチープだった。
だからこそ学があまり無く、人から避けられてきた大石に刺さった。
公共の電波で政治の話をしているようで全く実の無い思想だけを強引にねじ込み「何か凄い事をした」感をばら撒いている。
社内だけでグレーゾーン憂さ晴らしをする大石とはスケールが違う。
当選したら金配る、これだけで良いんだと納得してしまう政策。
大石からしたら財源どうこうじゃない、金をくれるかどうかだ。ややこしい減税やら増税やらはどうでも良かった。
川本太郎は政府が吸い取ってる金を引き出しばら撒くと言うのだ、シンプルでそれで良い。
未来などは正直どうでも良かった。
追えば追うほど川本太郎と言う人間に惹かれていく。
まさか自分が惹かれてしまうなんて、大石は初めての事に止まれなくなっていた。
ネットやSNSも駆使する。
もともと八つ当たりコメントや荒らし用に複数アカウントは持っていた。
それらを通じて追っていく、もう引き返す事など考える余地はなく……
テレビニュースではどうしても他の候補比較があり時間配分も少ない。
だがSNSならば多くの共感者も居るし二十四時間川本太郎に触れられる。
次第に生活のほとんどの時間を捧げ出していた。
この時には、まだ鋭くあった人に対する警戒心も消えていた。
SNSの殆どの反応として「川本太郎は無い」「必ずピエロスタイルが出るよね」「政策じゃなくて幼稚園児のお絵描き」と評価は散々だった。
だからこそ大石はより惹かれていく、国の議員レベルで自分と同じ嘗めたグレーゾーンで馬鹿にして生きようとする場所を取ろうとしている。
主流の政党に対してまず反対しておけば良い、それで金が貰えるのも魅力的だった。
いくら失言があっても、決して謝らないどころか的外れな事を言っておちょくったかのように見せる。
それがまた炎上する、毎日のネタに事欠かない。
そんな川本太郎が大石の住む町の駅に街頭演説に来ると聞いた。
大石は有給を取って演説場所に向かった。
会社は繁忙期のピーク、理由は私用としか伝えず人事は突っかかってきたが「ハラスメントですか?会社は理由等関係なく申請あったら受けなきゃダメじゃないの?人手不足はそっちのミスでしょ、俺に迷惑かけるな」
と煽りまで入れて休んだ。
大石はもう入れ込みすぎていた、周りの目も以前より更に変な者を見る目だ。
「……あれか」
街宣車の上に乗り川本太郎は演説を始めた、社会的弱者救済やら国の悪行について……支持者には響き、一般人にはスルーされる。そして大石には何一つ響かない、ただ遠くに見える川本太郎から吹き出る熱く純粋なようで奥底から見える金と権力を汚く楽に取ろうとする「オーラ」しか見えない。
大石はそのオーラに憧れすら抱いている、自分と同じタイプながら先に進んでいた男。
ここまで上手く「熱く純粋で人の為に動いている芝居」が打てる人間に悔しさすら感じている。
大石はこの時にはもう信者と呼ばれるゾーンに入っていた。
SNSでは複数アカウントを駆使して絶賛のコメントを拡散、場合によっては反対派コメントと言い合うようにのめりこんだ。
勿論カンパ寄付金も始めていた……
そして、未来を決める選挙の時はすぐそばまで来た。
地区対立候補達は堅実で地味な顔ぶれ、対して川本太郎はビビットカラーに街中で現政府の政策を歌い踊りながら練り歩く。
普通と言われる視点なら、間違い無く頭おかしいやつの出馬。
対立候補達も一般市民も色物が来たぐらいにしか思っていなかった。
まず最下位落選が当たり前だろう。
普通にしていれば。
川本太郎は普通じゃない、大石から見て裏で何か工作しているのは明らかだった。
出馬地区は全国でも地味だし手堅く与党の末席が当選濃厚、だからこそ目立つだけ目立った。
街頭演説には車椅子の者や知的な障害者が目立つようになる。
その層に響くよう取り入れたのだろう、公約に掲げたのは障害者支援。
どこも手を出さなかった層に向けて仕掛けていた、大石は感じていた。タブーとされる層に派手に手を出して表に持ってくる、川本太郎本人はメディアやSNSで一番良い画が取れる姿勢を徹底した。
次第に障害者層からは「あの人だけが社会のはみ出し者の自分達を助けてくれる」
そんな信者を産みだし地盤が固まった。
そして、選挙日を迎えた。




