見つけてしまった
——春、新入社員が入ってきたと思えばもう五月には居なくなっていた。
株式会社与作板金担当、「大石 明夫」は世の中を憂いていた。
上がる税金、苦しい暮らし。
——政治が悪い、金も時間も女も部下も居ないのは全部上流階級に居座り現場も知らずに好き放題言うか、居眠りするかで何もやらないアイツらだ。
大石は憤慨する。
大石と言う男、昔から他責思考であり謝れない謂わばクズと呼ばれるカテゴリの人間であった。
文句は言うが、自分に利があるとなるとリミッターを外し馬鹿を晒す事も厭わない。
周囲からは「精神的な病の気が見られる」と陰で言われている。
新入社員が辞めたのはパワハラに当たるグレーゾーンで当たり続けた成果でもある。
そう、「成果」なのだ。
大石にとって先に居た先輩はどうにもならない、だが後から来る後輩は潰してしまえば仕事が取られる心配が無い。勿論全て合法的に行う、大声を出したり無茶な威嚇はせず淡々と詰めてジワジワとやる気を削ぐ、嫌な気を芽生えさる。
おそらくクラス三十人居る内の一人変な奴のポジションだ。
会社の為等微塵も思っていない、「今、自分が得する」それだけの思考で生きていた。
社内で喋る事はない、孤立している。
それは大石からとって見れば、群れて多数決にしか縋れない犬共にしか見えてない。
自分は狼だ、ランクは圧倒的に上位だ。しかし会社は馬鹿だらけで自分を評価が出来ないばかりか厄介者扱いだ。
そんな時に人事から臨時面談と言われ呼び出される。
(やっと昇給の話か?おせーんだよクソが)
悪態を吐きながら人事室へ入る。
すると、人事部長、課長、係長が三人もいるではないか。
(なんだ?昇給にしてはメンバーが豪華じゃねぇか)
まず、人事部長から話が始まった。
「大石君、この数ヶ月で君の部下について聞かせてもらったよ」
「ええ、やる気無くて辞めましたね。もうちょっと人事選考絞ってくれません?使える奴いねーと俺の負担なんですよ」
その言いぐさに課長と係長は首を振る。
「……細かな原因に心当たりは?」
「は?ある訳ないでしょう、こっちは精一杯納期やってるのに着いていけないとか言い出す軟弱者なんですから理解出来ませんよ」
「そうか、では質問を変えよう。君のその態度が要因とは考えられないかね?」
大石はその言葉を待っていた。
「つまり俺が悪いと?それならばその要因とやらを物証で出して下さい!今から録音します、人事からパワハラになるかもしれないですから!宜しいですね!?」
大石は物証など証明できるような事はしていない、ただただ正論に見れる言葉でジワジワ詰めただけなのだから。
会社もその程度でクビに出来るような状態ではないのはわかっている、何故なら新入社員は全滅し法を犯してるラインでないから、逆に会社からのパワハラで訴え金を引っ張れる。
そこまで大石は考えている。
「少し落ち着きなさい、これは確認を……」
「何の確認なんでしょう?俺のやった事を罪としてクビの口実を認めさせる為ですか?」
「いやいや、そうじゃなくてね……」
「では、戻って仕事していいですか!?現場は今大変なのに皆さん現場来ないでしょ?代わりに行ってくれるなら時間ありますけど!」
大石のパターンだった、相手が言う前に被せる、グレーゾーンで煽る。
被せるのは話が長引いてボロを出さないように、グレーゾーンで人を煽るのはただの憂さ晴らしと相手の失言を引き出せたらラッキー程度だ。
「大石君、少し落ち着きなさい!失礼が過ぎます!」
声を荒げたのは人事係長だった、大石からすれば小物と見ている。
「失礼が過ぎますって現場に丸投げされた人員の行方についてですかぁ?それとも今部長と話している事ですか?どっちにせよ俺は精一杯会社の為に身を粉にしてやってるだけなのに恫喝はないんじゃないですかね?」
録音中のスマホをトントン叩き、全部録音撮ってるよとアピールした上で追撃する。
「係長がまず落ち着いてくださいよ、そんな大声で恫喝されたら今の時代パワハラになるんですから、労基に持ってったら仕事どこじゃなくなりますよ!ははは!」
係長は苦虫を噛み潰したように顔を歪め黙った。
人事課長が口を開く。
「……君のやり方はわかった、今日はありがとう。戻ってくれたまえ」
無理矢理に切った感じになるが、話す事も無いだろう。
(ったく面倒な時間使わせやがって、ジジイ達は答えの無い今後の協議に時間割いてろ。厄介者を抱えながらな!)
大石は大した事のない姿勢のまま、礼もせずに人事室を出て行った。
大石の生き方だった、波風立たないように群れて社会や会社の枠を決めようとする事が理解出来ない人間なのだ。
それから数日後、国は何かの選挙をするらしいとニュースで見る。
(どうせ何したって変わらねーだろ無駄ばかりだ)
こんかいも休みの日に選挙に行くぐらいならパチンコを打ちに行くつもりだった。
「おいおい、今回も変な色物が出てんなぁ」
「ああいうのって売名かあわよくばワンチャンなんですかね?」
同僚がニュースに何やら突っ込んでいる。
なんだ?と気になりテレビを見た。
そこに映る人物に経験した事がない鳥肌が立った……
「……なんだあいつの目、違う目してやがる」
これまで全く興味なかった政治家立候補者の一人が、大石を包んでくる。
川本 太郎候補。
大石にとってこれが初めて人を人だと認識した瞬間だった。




