王立騎士団本部(3/4)
「騎士の装備は模擬戦用の軽装備のみ。ノア殿とカイン君は自分の使いやすい獲物を、それと君達は補助魔法の使用も許可します」
ヨハンは訓練所の倉庫を案内しながら、お二人共使えますよね、と僕とノアを交互に見た。
一応、僕は魔法を使えると明言したことはなかったはずだが……
「以前に手合わせもしましたし、それくらいはわかりますよ。特に君の動きは魔法の補助を前提とした癖が多かったので」
表情に出てしまっていたのか、疑問に対する回答はすぐに得られた。
「あれだけで、そんな事もわかるんですか……」
「え、いやお前補助魔法も使えるのかよ。初耳だぞ」
呆れたようなノアのツッコミに首肯で返す。言ってないのだから初耳なのは当然だ。
しかし、ノアが気付かないような事も、ヨハンは一戦交えただけで気が付いてしまうのか。もうこれは、ヨハン相手に戦闘面での隠し事はできる気がしない。
「補助魔法のハンデがあれば、お二人対騎士団総がかりでも十分に通用するでしょう?」
「いやいやいやヨハン殿!?」
「それはいくらなんでも過剰評価ですよ!」
「いけますいけます。あっはっは」
あっはっは、ではない。こっちはまだ学生だというのに。
それにしても、こうして快活に笑うヨハンは『エディン・プリクエル』の彼よりも生き生きしていて、楽しそうだ。設定とシナリオから一歩出れば、彼はこんな性格をしていたのか。言ってることは滅茶苦茶だが。
どうしてこの人はいち学生と、強いとはいえ諜報員相手に騎士団の本気を見せようしているのか。洗礼なのか。リンチなのか。
「いえいえ本当に大丈夫、そのハンデがあれば十分対等ですよ、私が保証します」
「あんまり嬉しくない保証だなあ!?」
言いながらもノアは模擬戦用の武器を真剣に確認し始めた。どうやら拒否を諦めたらしい。同時にそれは僕の逃げ道も断たれたという事だ。仕方なしに僕も装備を見繕う。
短剣、片手剣、両手剣、槍、戦斧、他にも武器は色々と充実していた。騎士団員の訓練というだけあって、流石に手甲鉤や飛び道具と言った暗器の類はなかった。ノアの得意武器は短剣、片手剣、暗器類だ。僕の場合は今年の課外授業で使ったような片手剣系統のもので問題ない、持つならできるだけ普段から扱い慣れた武器がいい。
自身のステータスを確認した限りでは、レベルの暴力だけでもある程度戦えるとは思う。それこそノアやヨハンが相手でなければ。
だが相手は日常的に対人戦を想定した訓練をしている、現役の騎士。僕だって、いくらステータスがチートだからと言って、立ち回りまでチートができるわけでもない。
格闘ゲームで高スペックなキャラを使えても、技量が無ければトップランカーになれないのと同じだ。補助魔法も併せてかなり有利なハンデがある、程度に考えるべきだろう。
「現状、僕よりノアの方が技量は高いと思うから、僕はサポート中心に立ち回った方がいいかな?」
「いや、お前だって十分強くなってるし、ある程度お互いの死角をカバーできてれば好きに動いていいんじゃね?」
「了解」
それなら自分も動きやすい方が良いかと、普段使うものより少し軽めの剣を手に取る。相手が大人数だし、重い武器はスタミナ切れに直結しそうだ。
「そういやお前と背中を預け合う戦闘は初めてじゃね?」
「……そういえば、そうだね。そもそも普通の学生は誰かと背中を預け合う戦闘なんて経験しないけどね」
ヒュドラの時は役割分担のある共闘だったし。いや、そもそもヒュドラ戦だって学生が経験するものではないわけだが。
言われてみれば、ノアとは何度も手合わせをしてきたが、こうした共闘は確かに初めてだ。ゲームでのノアとカインはお互いをほとんど知らないまま、王家とレジスタンスという立場で刃を交えただけ。そして僕達は共通の敵なんて存在は居ないから共闘の機会なんてなかった。
これは模擬戦であって殺し合いではない。ヨハンとこれ以上関わるのは今でもどうかと思っているが、身の危険を感じない突発イベントと思えば悪いものではないのだろうとも思う。課外授業のおかわりだと思えばまだ耐えられる。わんこそば形式でないことを祈ろう。
それに、今後も全く活用する予定はないものの、確実に格上相手の対人戦経験は積めるのは純粋にありがたかった。
「模擬戦とはいえ人に剣を向けるのは、あまり好きじゃないな」
「あー。お前確かにそんな感じだよな。なのにどうして剣なんて鍛えてるんだ?」
それはカインが騎士タイプで剣術を軸に伸びるステータス傾向にあるからだよ。とは言えないな。
幼少期の僕はとにかく自衛できる事が先決と考えていた。そのためには効率重視で選り好みなんてしていられなかった。基礎戦闘力と、必要な技能習得のためのパラメータ管理、その結果が現状だ。
レベルアップボーナスのポイントに余裕が出てきたのだってつい最近の事だ。ようやく自衛できる程度には強くなったし、魔眼を安定させる程度にまで魔力も上がった。もう少しポイントを溜めたら今度は回復系統や状態異常耐性にも手を出したい。
「前にも言わなかったっけ、死なないためだって」
「あー……そういや言ってたな」
剣の振り心地を確認しながらノアは渋い顔で呟く。おそらく当時の会話を思い出しているのだろう。
生きてほしいと願った母の愛に報いるために、死なない。それは今も変わらない。でも……
わからなくなる。わからなくなった。
僕は生きれば生きるほど罪を重ね続けている。この世界を生み出した責任が、積み重なり続けている。
ユーディから創造種の話を聞いてから、そう思うようになった。
僕は、本当に生きていても良いのだろうか。




