王立騎士団本部(2/4)
「それで、どうして連れてこられたのがここなのかな」
もう一度、同じ質問をする。
ノアが僕とヨハンに共通点を見出したことと、僕をここへ連れてきたことにどんな意味があるのか。
学校をサボらせてまで、こんな僕の地雷原に近い所に連れてくるなんて……
あ、ちょっと嫌な予感がした。
ニヤリと笑うその表情に、僕の推測が間違っていなかったと悟るが、一歩遅かった。
「おーい、ヨハン殿! せっかくだからコイツも参戦させてみませんかー!」
「なんてこと言うんだこの野郎」
あんまりな提案に、思わず今世でもトップクラスに口が悪い発言が飛び出した。
どうしてノアは、ただの学生に過ぎない僕に騎士団の戦闘訓練をさせようとするのか。
ノアの呼びかけに手を止めて、ヨハンがこちらへと向かってくる。どうでもいいけど滅茶苦茶いい笑顔をしているのが怖い。
「おや、今日は見学だと思ってましたが。もしかして体験入団の希望でしょうか」
「ちがいます。やめてください。しんでしまいます」
「いえいえ、君ならきっと立派な団員になれますよ。入団、歓迎しますよ」
「秒で体験の二文字を消すのもやめてください」
しかしヨハンはなんて嬉しそうな顔をするんだ。そんな爽やかでキラキラと期待に満ちた笑顔で言うはやめてほしい。
気が付けばどさくさに紛れて本当に入団させられてた、なんて本当にありそうで怖い。常識的に考えればありえないはずなのに、何故か起きてしまいそうで怖い。
この状況を作った元凶へと恨みを込めた視線を向ければ、その先のノアは腹を抱えてひいひい笑っていた。やっぱり彼は一度しっかりシメた方がいいのかもしれない。
そんな僕につられたのか、ヨハンもノアへと視線を向けて、そしてにっこりと笑みを浮かべた。僕へと向けたのとはまた別種の、圧のあるいい笑顔だ。
「そうですね。せっかくですからこの乱戦形式の模擬戦、カイン君だけでなくノア殿も参加しましょう」
「あはははっ……えっ」
「彼が我々と手合わせをする間、貴方もただ見ているだけは退屈ですよね」
「え、いや俺は」
「退屈ですよね?」
「あ、はい」
押し切った。ヨハンが笑顔の圧でノアを押し切った。
「まったく、彼が可愛くて仕方がないからと言って、あまり年下の子をいじめてはいけませんよ」
「あ、はは、いやほんとすみません……」
「謝る相手が違いますよ。いくら好意から来る言動でも、やり過ぎたら嫌われますからね?」
「あー……カイン悪かった」
「いや、まぁ、ノアが僕を巻き込む事は今に始まった事じゃないから。本当に嫌なら拒絶するし、そこまで気にしてないよ」
まさかノアのそれが、好きな子にちょっかいを出したい思春期の子供みたいな動機とは思わなかったけども。もしかして昔からのアレコレもそんな理由だったのだろうか。
とはいえ、本当に騙し打ちで入団させられたり、王家と確執ができるような事態にさえならなければ、ノアに対して悪感情を抱いたりはしない。
はた迷惑ではあるが、嫌悪までには至らない。
「いやお前お人好し過ぎだろ」
「ええ、本当に。しかしこれではどちらが大人かわかりませんね。ノア殿も見習ってくださいね?」
「あ、はい」
……ノアってヨハンに弱かったんだな。
意外な力関係に興味を引かれないでもなかったけれど、今はそんな事よりも自分の状況が優先だ。
「それで、本当に僕もやるんですか?」
「君さえ嫌でなければ是非。入団の意思は無いとのことですし、今後、騎士と学生が剣を交える事なんて、そうは無いでしょう。できればこの機会、逃したくはありませんね」
そうまで言われると嫌とは言いにくい。たとえ強制に近いお願いでも好意全開で来られれば、断ることは難しかった。それをヨハンもわかって言ってる気がするのが余計に始末に悪い。
無理強いするつもりはないけど、断固拒否はしていない以上強行したい。それくらいの適度に押しの強い感情がヨハンの表情からは滲み出ている。
「……ノア、こうなったからにはちゃんとフォローしてくれるんだよね?」
「それは勿論!」
「なら、お受けします。それと、さすがにヨハンさんは乱戦には参加しないですよね……?」
ふと頭に浮かんだ疑問を投げかければ、ヨハンはにっこりと無言で微笑んだ。
……うん、とても怖い笑顔だね。




