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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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王立騎士団本部(1/4)


早朝からノアの手により馬に乗せられ走る事、約二時間弱。学園都市を離れた僕は今、何故か王都に来ていた。

ちなみに、普通に馬に乗っていても学園都市から王都へは、休憩を挟んで通常四時間強はかかる。立地的に近いとはいえ、どう頑張っても二時間では来られない。これはノアが非常識なくらい馬をかっ飛ばしていたことを意味している。

流れる風景はまるで高速道路を走る車のようで、時速どれくらいだったのかは正直考えたくもなかった。

競馬さながらの走りを強要された馬にも、悪い事をしたと思う。ノアは深く反省して欲しい。


「それで。学園を無断欠席してまで連れてこられたのが、どうしてここなのかな……」

「あははははっ、カインお前、思いっきり目が死んでるなあ!」

「誰のせいだと」


メインキャラに関わってしまう呪いがかけられてるのでは、と考えていた矢先にここへ連れてこられたのは本当に呪いなのかもしれない。いや、今回に限ってはノアの意図的なものか。


どうして。僕は。

王都に……しかも王立騎士団の本部にいるのだろうか。


王立騎士団本部なんて、普通なら一般人は立ち入り不可だ。門前払いされるところだ。何故、中に入れてしまったのか。

自問するも理由は明白。単に門の前で二人して棒立ちになっていたところをヨハンに見つかったからだ。そしておそらくノアの目論見通りに……騎士団本部の見学が許されてしまったというわけだ。

まあ、ヨハンが騎士団から正式に呼び出したていで学園に報告しておく、と申し出てくれた事でサボりを回避できたのは不幸中の幸いか。学園をサボった上に王都の騎士団本部で補導された、なんて事になったら両親に心配をかけるしクラスメイトには笑われる。本当に良かった。

そんなわけで、僕達は今、特別に騎士団の訓練風景を見学させてもらっていた。

目の前では模擬戦用の鎧に身を包んだ騎士達が乱戦を想定した実戦形式で打ち合っている。そしてその中心で最も激しく戦っているのは、これまでで一番真剣な表情をしているヨハンだった。

訓練とは言え多くの騎士に剣を向けられながらも、ヨハンは的確に相手の剣を捌き、周囲の状況も把握し動いていた。素人目にもそれが並大抵の努力ではできない事だとわかる。

そもそも団長対他の団員総がかりの乱戦という絵面は、どう考えても色々とおかしい。訓練風景にしても、ヨハンの戦闘力にしても。

僕は手加減してもらったとは言え、あんな強者と試合をしたのか。もう二度とやりたくはないな。フラグではなく。


「ひえぇ、相変わらずヨハン殿の強さはバケモンだなぁ」

「……そうだね」


王立騎士団は国内の主要な街に支部を置く巨大な組織で、中でも王都本部と学園都市支部は王族が多いため規模が大きい。その学園都市支部を纏めているのが団長であるヨハンだった。

出身は平民ながらその身分差をものともせず騎士団長にまで上り詰め、その実力を評価されて一代限りの爵位も持っている。

それだけの強さは、あると思った。

単純なステータス数値に依らない戦闘能力。実戦を積んだ者による洗練された動き。おそらく僕がどんなにレベルを上げても、同じ土俵では彼に一矢報いる事すら無理だろう。

閑話休題。結局どうして僕はこんなところに連れてこられたのだろうか。何度考えてもやっぱりわからない。本当に何だろうこの状況。

困惑と諦観と少しの抗議の気持ちを込めて睨んでみたが、ノアは華麗にスルーしつつヨハンの方へ視線を向けながら口を開いた。


「カインは、ヨハン殿が強くなろうとした理由を知ってるか?」

「何を藪から棒に……どうして僕が、個人的な交流もない騎士様の事情を知ってると思うの」

「それはお前がお前だからな」


変なこと知ってるし、詳しいし。

視線をこちらに戻してニヤニヤしながら言われてしまえば、強くは反論できなかった。実際、ヨハンの過去や事情は詳細とはいかずともよく知っている。そこから僕の知る彼の性格を思えば、おのずと答えは導き出される。


「守りたいものを、守れるようになるため。かな」


正確には『守りたかったものを守れなかった代償行為』だ。強くなることで一つでも多く、一人でも多く誰かを守り、救う。そうする事で自分が立ち続ける意義を作り、失わないようにしている。

地位や名誉のためではなく、死んだ妹という守れなかった弱者に報いるために。ヨハンは日々自分を鍛えているのだ。


「……前向きな人だよね、眩しいくらいに」


たとえ動機が後ろ向きだとしても、騎士団長に上り詰める程の努力を続けられる彼の事は素直に尊敬できた。

それが『エディン・プリクエル』の設定上必要な流れだったとしても、ここにいる彼が苦悩して努力の末に勝ち取ったものには変わりない。監禁、心中等の対マリアのバッドエンドの内容はともかくとして、今の彼は僕なんかよりもずっと立派な人だ。


「いやぁ、どうだろうな」


そんな僕の感想に、しかしノアは緩く首を振る。


「確かにそんな綺麗な理由もあるんだろうけどさ、俺からすればアレもお前と大差ないと思うんだよな」

「……僕と?」

「そ。がむしゃらに戦って、時には死地に赴くことで喪失感と罪悪感を忘れようとしてる。そんな風に、俺には見えた」

「……」


お前と同じだろ、とノアは視線を僕からヨハンへと移して呟いた。

そんなノアに、君は僕の何を知っているのかとは言えなかった。少なくともカインとして生きてきた僕の素性や性格は、ほぼ彼に知られてしまっている。

僕の人格を形作る比重の大半は前世での環境や出来事だけど、カインとして生きてきた分の人生だけでも、僕の罪悪感を察することは十分に可能だろう。


時任タイキを純粋に慕ってくれた少女。

息子カインに無償の愛をくれた母。


自分に好意をくれた相手を目の前で喪った事実は、前世も今も共通している。それを踏まえれば、妹を目の前で喪ったヨハンと僕を重ねるノアの思考は、理解できなくもなかった。

喪失感。そして救えなかった罪悪感。

それは正解でもないが、全くの的外れとも言い切れない。


「ところで。僕の過去から心情まで推測するのはやめない?」

「えー。俺、お前の過去なんてなーんにも知らないぜ。お前が何もかも隠すから、勝手に想像して話してるだけでーす」


確かに僕の素性をすっとぼけてもらわないと困るのは僕自身だけど、この状況ですっとぼけられるのは、中々にイラっとするな。



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