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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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研究棟へ


森で出会った女性、ユーディから受け取ったのは胡散臭いことこの上ない手紙だった。しかし内容以上に、この馴れ馴れしさは一体何なのか。

意外過ぎるテンションの手紙に一瞬、脳内が完全にフリーズした。

あの森での一瞬しか彼女と僕に接点はなかったはずなのだけど。まるで親友や腐れ縁みたいなノリで接してこられても、その、困る。どう反応すれば良いのだろうか。


「手紙って何だったの?」


声をかけてきたマリアに無言で手紙を見せると、マリアは一瞬ぽかんとした表情になってから首を傾げた。


「カインは研究棟に友達がいたんだね?」

「いないよ。気持ちはわかるけど見事に内容の大半をスルーした感想だね?」

「や、ちょっとカインに渡されるイメージのない文面だったから……」


そうだね、僕もあまり見たことのない文面だよ。内容だってかなり重要なもののはずなのに全然頭に入ってこない。文章に慣れ親しんでいた前世ですら、こんなのはそうそう見なかった。


「それで、どちら様からなのこれ?」

「前に話した、キマイラを捕獲していた人からだよ」

「え……す、すごいキャラが濃そうな人なんだね……その時が初対面だったんだよね、それにびっくりするくらいキャラが時任タイキっぽくないというか」

「ああ、それに関しては完全に同意するね」


時任タイキはあんなキャラクターを書かない。彼女は完全にリリスシリーズの枠から外れた性格をしている。もちろん人間なのだから当然と言えばそれまでなんだけど、同級生だって『らしくない』性格の人はいてもここまでじゃない。色んな意味で濃い。

それに、どうにも彼女はこの世界を俯瞰してみている風だった。何と言うか、ものの捉え方が僕に近い感覚があったのだ。


「え、と。それでどうして私も指名されてるんだろう」

「僕と同じ、だからだろうね」

「……前世の記憶があるからって事?」

「君の中身がゲームのマリアとは別人だからって事みたいだよ」


彼女は僕と出会った時に中身が違うと言っていた。それは僕がゲームのカインと別人だったことを指しているのだろう。それならマリアの事を同じだというのも理解ができる。

いや、どうしてゲームの設定を知ってたり転生を理解してるのかとか、そのあたりは全然わからないけれど。

少なくともユーディと名乗った彼女が『この世界の住人』の枠組みとはどこかズレているのは間違いない。でなければ僕やマリアの中身が違うなんて言わないだろう。

……マリアに至っては会った事すらないのに、どうしてユーディはその存在を知っているのだろうか。その辺も会えば答えてくれるのだろうか。


「一応指名はされてるけど、マリアも会ってみる?」

「うん。全く不安がないわけじゃないけど、カインと一緒なら大丈夫でしょ」

「僕に対するその信頼は一体……」

「うーんと、なんだろう。安心感って言うのかな……一緒にいたら何とかなるような気がしてくるんだよね」


言ってマリアがにっこりと笑う。

僕は彼女を危機から救ったりするような、信頼を得られるエピソードは特に持ってないはずなのだが。単に彼女より少しだけ長い年数を生きていて、ほんの少し『エディン・プリクエル』に詳しいだけだ。


「責任重大だ」

「カインならきっと大丈夫だよ、敵地に行くわけじゃないんだし。それにユーディさん?だって森ではカインを助けてくれたんだよね?」


それはそうだけれど。あれは僕を助けたというよりも単にタイミングよくキマイラを回収しに来た瞬間に遭遇しただけのような気もする。

ユーディという女性から特に敵意を感じたりはしなかったが、どうしてもあの得体の知れなさが警戒心を煽る。彼女と話して、彼女について理解が深まれば多少はこの警戒心も解けるのだろうか。



そうしてもだもだと考えているうちにあっという間に放課後になり、僕とマリアは一度も足を踏み入れたことのない北区画の研究棟へと向かっていた。

研究棟は学園内の施設という立場ながら、それ自体が独立している巨大施設だ。学園外部から集められた研究者と、学園卒業時にスカウトされる学園生とで構成されていて、前世で言うなら大学に近い場所だ。そこには農学、薬学、地質学のようなものから魔法、魔道具の研究まで多くの研究施設がひしめき合い、王都と並んでエターナ国の発展に寄与している。

その中でユーディは王立魔導研究所、つまり魔力が絡む研究全般を統括する機関に所属している。ここは研究棟の中でも上位の権力を持っている。彼女自身は貴族ではないようだが、所長補佐という役職を加味すると僕よりも地位は上だろう。

研究棟は基本的に外部の人間の立ち入りを禁じている。流出したら危険な研究や情報が多いため、入り口には常に衛士が複数人立って出入りをチェックしているのだ。

僕達は部外者だけど、ユーディに招待されている。手紙も持っている。だけど本当に入っても良いものなのだろうか。

少し不安になりつつも研究棟前に立つ衛士の一人に手紙を見せると、彼はそれを一瞥してから、ユーディ署名を見てギュッと眉間を押さえた。


「確認してまいりますので少々お待ちください」


言って彼は建物の奥へと消えていく。


「ユーディってもしかして、研究棟のトラブルメーカーだったりするのか?」

「……なんか『またか、あの人は』みたいな顔してたよね」

「卒業後の就職先、研究棟所属だけは選択肢から外しておこうかな」

「私も……」


なんかこう、自分の身に降りかからない事でも、胃が痛くなりそうな事案が頻発する予感がする。何故かはわからないけれど。

そんな話をしながらしばらく待つと、パタパタと足音を響かせながら建物からユーディが駆けてきた。その後ろからは、ややぐったりとした表情でため息をつきながら追ってくる衛士さんの姿。

何と言うか、お疲れ様です……


「確認が取れたのでお入りください」

「ありがとうございます……お疲れ様です」

「ははは」


死んでる。衛士さんの目が死んでいる……

そんな彼の横を抜けて研究棟の内部へはいると、ユーディの案内で魔導研究所のある三階へ向かう。


「いらっしゃいお二人さん。カインくんは元気だったかな?」

「え、あ、はい。お久しぶりですユーディさんもお元気そうで」


周囲を振り回すタイプのお元気な感じですね、とは言わなかったが、言いたいことが伝わってしまったのか彼女は愉快そうに笑った。


「カインくんは久しぶりだけど、マリアちゃんは初めましてだね。ユーディだよ、よろしくね」

「マリア=レイライトです。よろしくお願いします、ユーディさん」


マリアの挨拶ににっこりと微笑んだユーディは、お茶会の準備ができてるよと言って魔導研究所の通路を抜けて陽の射しこむ客間へと僕達を案内した。

そこは研究所の中とは思えないほど穏やかな雰囲気の個室だった。白を基調とした部屋に、テーブルと落ち着いた深緑のソファが鎮座している。

壁に賭けられた絵や調度品もひとつひとつが上品ながらも豪華で、研究室にこんな高級な客間って必要なのか? と首を傾げたくなる。王室の人間が使う談話室よりもお金をかけていそうな内装だ。


「どうぞ、遠慮なく座ってよ」


そう促されるまま席に着くと、それを待っていたかのように横からスッと控えていた人達がお茶と軽食がセッティングしていく。この人達は使用人なのだろうか、まさか研究員という事はないだろうけど。

現実の大学にある研究室さながらの建物や廊下の先からこんな部屋が飛び出すとは思わなかったのか、マリアは目を丸くしながら室内を見回している。いや僕も予想外だったけど。


「すごいね、こんな場所うち以外で見たことないよ」

「レイライト家にはあるんだ……」


そういえば彼女は有力な伯爵家に住む人間だった。子爵家の中でも比較的質素だったうちと比べてはいけない。

ひと通りテーブルの準備が整ったところでユーディがぱん、と軽く手を叩いた。


「じゃ、お茶会を始めようか」



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