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酒と新たな問題

一週間ほどのんびりとしていると、冒険ギルドのマスター、レーンがやって来た。

鍛冶職人ゴドラフが街に工房をつくったのだとか。

良いことじゃないかというルリに、レーンは「あの酒がないと仕事をしない」と言って居ると困った風に言う──




 のんびりと一週間ほど過ごしているとレーンさんが慌てた様子で私の家にやって来た。

「おお! ルリ、居たか⁈」

「居ますよー」

「何だ騒々しい」

 スフェールが顔を上げる。

 私がブラッシングをしていたので、邪魔が入られてちょっと不機嫌になってる。 

「す、すみません、フェンルリ様」

「で、何だ?」

「あの鍛冶職人ゴドラフ達が来て、街に工房を作ったんです」

「それは良いことじゃないですか?」

「それが……『あの娘っこのうまい酒を飲むまでは仕事はせん!』の一点張りでな……」

「ゴドラフさん……」

 私は思わず遠い目をする。

「分かりました、お酒は持っていきますので」

「おお、頼んだぞ」

 レーンさんが家から出ると鞄からウィスキーを出す。

「一本で十分かな?」

「二、三本用意しておけ念の為」

「うん」

 三本追加で出して、アイテムボックスに四本入れる。

 そしてスフェールと共に工房へ向かう。

「ゴドラフさんですかー? ルリですー」

 ノックしてそう声をかけると、勢いよく扉が開いた。

「おおう! ルリ! もしかして……」

「持ってきましたよ、あの時のお酒」

 そう言ってアイテムボックスから一本出す。

「おおお!」

「親方! ずるいぞ親方だけ!」

 工房で働いているドワーフさん達が声を上げる。

「あの、まだありますから」

 と、二本渡すと、皆上機嫌に。

「よっしゃお前ら、仕事に取りかかるぞ!」

「「「おう!」」」

 と、仕事を開始し始めた。

「凄いなぁ」

「ルリ、要件は済んだし、帰るぞ」

「そうだね」

「おお、ルリちょっと待ってくれ!」

「はい?」

「今後定期的にあの酒を持ってきてくれんかの? 金は払う」

「お金を払うっていくら位のおつもりで?」

「三本で金貨1枚でどうだ?」

「良いな、それならこちらも有り難い」

 スフェールが言う。

「じゃあ、金貨一枚払うから今度から三本持ってきてくれ」

「分かりました」

「うひょー‼ 酒が飲める、酒が飲める、酒が飲めるぞー!」

 なんかどこかで聞いたフレーズだな。

 まぁ、いいか。


 スフェールと家に戻り、商業ギルドから発行されたライセンスを見る。


「……どうしようかこれから」

「どうした、何か売りたいものでもあるのか?」

「いや、特に無いけど……」

「なら、良かろう」

「……」

 私はライセンスを仕舞い、再びブラッシングに戻る。

「……そうだな、甘い酒が飲みたい」

「甘い酒?」

「ああ、ドワーフの酒は口に合わん。何かないか?」

 スフェールが何故そんな事を言い出したのか分からないけど、私は思い当たる一個を出した。

 梅酒。

 氷砂糖とホワイトリカーでつけ込んだお酒。

 のはず。

 スフェールは二足歩行状態になり、グラスに注いだ梅酒を飲む。

「ふむ、悪くない。つまみがあればいいな」

「じゃあ」

 スモークサーモンを取りだし、皿に盛り付けた。

「うん、いいな。お前は飲めないのか?」

「まだ飲めないかな……」

「そうか」

 そう言うと、梅酒の瓶に蓋をしてしまった。

「では酒はお前が飲めるようになるまで止めておこう」

「……ありがとう」

 なんか言ってしまった。

 スフェールは淡く優しく微笑んだ。





 そしてその夜──

「19歳でこの世界に召喚されたから、20歳でお酒飲めるようになるけど、あと何ヶ月だろう?」

「後二ヶ月ですよ、ルリさん」

 フェンリナ様が言う。

「別に飲んでも構わんじゃろ、この世界じゃ成人しとるし」

「でも、なんか……その罪悪感が」

「面倒じゃの」

「ドワノフ、こう言う真面目な所がルリさんの美徳なのですよ」

「酒好きの儂には分からん美徳じゃのぉ」

「なんならドワノフ禁酒してみるか?」

 クロノシア様が愉快そうに言う。

「勘弁してくだされ! 儂から酒を取り上げるのは止めてくだされ!」

「冗談じゃ。まぁ、あと二ヶ月したら飲めるのだから、その時に夢枕で宣告すればよいじゃろ」

「そうですわね」

「ところで、他の方々は?」

「ヒュマナに煮え湯を飲まされる思いをしてきた者達ばかりで集まって酒盛りじゃ」

「オゥイエ」

 ヒュマナ恨み買ってんなー。

 いや、もう消滅したからどうでもいいけど。

 その時はそう、思って居た。





 それから二週間後──


「ルリ」

「何スフェール」

「神託が下った」


 朝ご飯を食べているとそう言われた。


「『ヒュマナが死の間際に勇者召喚を行った』と」

「普通の召喚と違うの?」

「ああ、神々の加護が無くとも強い、並みの冒険者では転移直後でも太刀打ちできまい」

「もしかして……」

「今、そやつ等は魔王の国へと向かっている」

「マジですかー!」

 私は絶叫してしまう。

「急いで止めないと」

「ああ」

 身なりを整え、食べ物を飲み込み、家から出て鍵をかける。


「お、おうルリ、どうした?」

「緊急事態なので!」

「何⁈」

「詳しくは帰って来てからします!」

 冒険者ギルドのマスター、レーンさんにそう叫ぶと、工房へ向かう。

「ゴドラフさん!」

「おう、ルリ。ちょうど酒が切らしてて……」

「しばらく遠出をするのでお酒多めに置いておきます!」

 そう言って二十一本分の酒を出した。

「おおう! よし、金貨七枚じゃ!」

「はい」

 財布袋に入れ、アイテムボックスにしまう。

「スフェール、行こう!」

「ああ!」


 四足歩行のスフェールの再度飛びに乗り、街から飛び出した。





「何でそんな事態になったんですかー⁈ と言うか気づくのが遅かったんです⁈」

 その夜、夢の中でクロノシア様に抗議した。

「すまぬ、何か違和感があるなと思ったのだが気づくのが遅れた」

「もー!」

「じゃが、勇者達の刻印は儂の加護で消滅させられる」

「ならいいんですが……」

「ただ、それなりに戦っている輩らしく危険じゃ」

「ご安心を、それで逃げるならとっくに逃げています」

「ルリ、其方はもう少し自分を大事にしてほしいの」

「ところで、なんで分かったんです?」

「ヒュマナの下の下級神達が話しているのを聞いて問いただした所発覚しました」

「Oh」

「これが無かったら発覚がもう少し遅れました」

 フェンリナ様は厳しい表情で言う。

「その下級神は?」

「力の無い精霊に落としました、力は全て奪ったのでもう神に戻れないでしょう」

「Oh」

「ヒュマナの件で色々とあったのにまた其方の力を借りてすまんな」

「いいえ、そのための加護ですから所でどれくらいで接触できます?」

「一週間でしょうか、ギリギリ魔王の国の国境に着く位です」

「分かりました、スフェールと力を合わせて頑張ります!」

「お願いします」



 もー!

 立つ鳥跡を濁さずって言葉しらんのかな!

 濁しまくってるじゃねーかヒュマナの奴!


 私は心の中で、自己中心のまま反省しないままだったのでとどめを刺した上級神に文句を言いまくった。







街でのんびりすごしている所に、ヒュマナが最期にしでかした「勇者召喚」によって色々と吹っ飛ばされたルリ。

大人しく消滅されなかったということが分かったヒュマナと、もう少し危機感を持ってほしい神々。

ルリが神経質なら胃に穴が空いてるかもしれませんね。


ここまで読んでくださり有り難うございました。

次回も読んでくださると嬉しいです。

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