03. そのゲームはどうでもいい
さて。マリージュとリュカが入学した学園には、この国の第二王子が在籍していた。
金髪に青い瞳、何というか無駄にキラキラしい『いかにも王子様』な第二王子を一目見たとき、マリージュはハッと息を呑んだ。
(第二王子のカオに、見覚えがある………気がする…)
それは、「どこかで会ったことがあるような?」といった実感を伴う記憶ではなく、どこかフィルターがかかったような、まるでモニター越しに動画か何かを眺めているかのような薄ぼんやりとした記憶。
そして気づく。これはあれだ。例の記憶の中でJKの妹にあたる存在がやっていた『少女漫画みたいなゲーム』で、見かけたことがある(ような気がする)カオではないか、と。
(…どんな内容だったっけ…。格ゲーに付きあってもらう対価として、付き合わされたゲーム…)
例の記憶の中のマリージュ(※現代日本のJK)にとって、ゲームとは戦いであった。
ボタン押してナンボである。
連打して技を繰り出さないゲームになんぞ用はない。
戦いには相手が要る。
対戦相手は、もっぱら妹であった。
だが、妹は戦いを好まなかった。とにかくグラフィック重視で、ボタンがひとつふたつあれば事足りるような、ストーリー性のあるゲームを好んだ。
「このキャラがお気に入り」だの、「このスチルがカッコいい」だの、きゃぴきゃぴ談義が好きだった。
…『スチル』ってなんだろう。『スキル』の言い間違いってことでいいのか、誰かこっそりでいいから教えてくれないものだろうか。
記憶の中のJKは、妹の好むゲームは正直どうでもよかったのだが、きゃぴきゃぴに付き合った分だけ格ゲーの対戦相手を務めてくれたので、格ゲーのために、やむなく付き合っていた。
そのとき、さんざん妹に見せられた『推し』とやらが、第二王子だったのだ。
確か「王子様や高位貴族のご子息たちと、学園生活とともに繰り広げられる恋愛模様を、主人公目線で楽しむ」とか、そんな感じの内容のゲームだったような…。
(うん。覚えちゃいない)
妹が、お気に入りの第二王子が出て来るところばかり見せてきたので、王子の顔は辛うじて記憶に掠めたが、正直なところ名前は一文字も思い出せないし、王子以外の登場人物に至ってはカオどころか髪の毛の色などの特徴的な何かすらチラリとも過らない。
どんだけどうでもよかったのかというお話である。
でも、ゲームの細かい内容もキャラクターも覚えていないなりに、ひょっとするとと思う部分があった。
(これはきっとあれだよね。リュカくんも、『主人公と恋愛を楽しむ』側のキャラってことだよね。だからあんな、漫画でしか見かけたことがないような黄色い歓声っぷりを発揮してるのね?)
だって、人の好みなんて千差万別。
金髪が好きな人もいれば赤毛が好きな人も、マリージュのように黒髪が好きな人もいる。雄々しい男性が好きな人もいれば、男臭さを感じさせない線の細い男性の方が好いという人もいる。
それなのに、女性という女性がリュカを崇め奉っているという、この国の異常。
なぜ、そんな不可解な事態がまかり通るのか。
それは、ご都合主義だから。
『漫画みたいなゲーム』の都合が優先される、何でもアリな世界だから。
マリージュは、自分自身納得のいく、なかなかそれっぽい着地点に辿り着いた。
(確かこういうのって、『当て馬としてあてがわれている婚約者から、どうお目当ての彼を奪い取るか』的なアレだよね?)
つまり、リュカがゲームの主人公のお相手に選ばれた暁には、栄えある当て馬はマリージュということになる。
(…そうなったらなったで、まあいっか…)
リュカとの婚約は、親がいつの間にか決めてきたものであって、そこにマリージュの意思は介在していない。
マリージュ的には、この婚約がなくなろうとも、これといって不都合はない。
傷物扱いも別に何とも思わない。一生結婚しなけりゃいいんである。領地のすみっこで畑でも耕して、自分の食い扶持さえ何とかなれば本気でそれでいい。
家と家との繋がりがどうのは、別にマリージュが得たいわけじゃないし、ここはひとつ、得たいと思ってる人が自分で頑張るってことでどうだろう。
お家のために繋がりが欲しいのは父…ひいては家を継ぐ兄なんだから、兄がこれぞという縁を掴み取ってくれば丸くおさまるお話だと思うのだ。
そう言えば、ちょうど王家に年頃の王女がいる。婚約者はまだいないと聞いている。兄にもまだ婚約者はいないので(大丈夫なのか兄。どういうつもりなんだ侯爵家)兄が王女をお嫁さんに迎えるっていうのもアリなのではないだろうか。
王女と兄は学園では同級生だったのでそれなりに交流もあったはずだし、侯爵家は王女の降嫁先として普通に許容範囲内だから、そう現実味のない話でもないんじゃなかろうか。
兄は、マリージュ好みのルックスではないものの、世の評価的にはなかなかのイケメンらしいし、性格は優しく気遣いができるので、家族の贔屓目はあるにせよ結構捨てたもんじゃないと思っている。
公爵家との結びつきがなくなったとしても、王家との結びつきがあれば文句なんぞあろうはずがない。もし「ある」とか言い出そうものなら、このわたくしめが身の程を思い知らせてやりましょうぞ。
(よし。それでいいことにしよう。お兄様、後はヨロシク)
そもそも、マリージュみたいな当て馬の役割も碌にわかってないような格闘ゲーマーをこんなポジションに置こうだなんて、はっきり言ってミスキャストもいいところなので、はじめからマリージュは何ら期待されていないに違いない。
きっと、「リュカに『婚約者』と名のついた存在がいる」という部分にだけ意味があって、その婚約者がどんな女なのかは、取るに足らないことなのだ。
つーか、マリージュにしてみたら、格ゲーじゃない時点で既にどうでもいい。
マリージュは、しれっと他人事を決め込んだのであった。
ヒーローの登場が遅くて申し訳ございません…
次回から(やっと)登場します。




