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コレが溺愛に見えますと?  作者: 真朱


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02. 婚約者には信者がいる


 そんなマリージュには、何と、幼少の砌から親の決めた婚約者がいた。

 公爵家のご嫡男で、名はリュカという。

 ハゲ散らかす前に剃髪した、潔くてカッコイイ宰相のおじさまのご子息である。


 だがしかし。

 そんな宰相のおじさまの子でありながら、リュカはご貴族様よろしく、銀色の髪の毛を悠然とたなびかせてらっしゃった。


 (うん。ハゲは遺伝するって聞くからね? ふさふさなうちに、髪の毛を満喫しとくのもアリだと思うよ?)


 何せ宰相のおじさまのお父様、リュカのお祖父様も頭髪はお寂しいカンジなので、そういう血筋なのはもう疑うまでもない。


 いや、もちろん本人に告げたりしないし、囁き程度にも声に出したりはしない。

 これぞマリージュが生まれながらに持ち合わせていた危機回避能力の賜物であり、処世術に長けていると評して頂いている所以はこのあたりにあった。


 そして、件のリュカ様。

 大層な美男子であるらしかった。


 …『らしい』というのは、「世間ではそう言われているらしい」という意味であり、マリージュの見解ではないということである。


 キラキラ輝くクセのない銀髪は、肩甲骨の下あたりまで伸びており、後ろでゆるく一つに束ねられている。

 切れ長の涼やかな瞳は濃いめの紫色。角度や光の反射によって赤が濃かったり青が濃かったりと鮮やかに印象を変え、神秘的に映る。

 絶妙な配置の黄金比の顔面は、傾国の美女と謳われた母君譲り。

 すらっとした長身で、細身でありながら適度に筋肉がついており、身のこなしは細部に至るまで優雅でスマート。

 宰相様譲りの聡明な頭脳を持ち、大人びていて落ち着いている上に、剣技や体術も相当の腕前ときている。


 もう、女子の視線の集中砲火。

 「彼に憧れを抱かない女性は、この世には存在しない」と、世間では断定形で語られているほどである。


 (いや、いないワケはないよね…)


 現に、ここにいる。

 『婚約者』という、公然と独占権を得たと言っても過言ではない存在からしてこうなんだから、他にもいるに決まっている。


 いや、まあ、リュカの容姿が整っていることは、さすがにマリージュとて分かる。

 頭がいいとか、運動ができるとか、背も高いとか、モテ要素満載だってことも分かっている。


 ただ、マリージュ好みのルックスではないダケのことである。

 特にときめかないし、自分からお近づきになりたいとも思わない。


 まあ、好みと違うからといって嫌悪感を抱いてるわけではないし、リュカには何ら非がないことも分かっているので、普通に交流はするけれども、「学園に行って、隣の席の子と挨拶をかわす」くらいのテンションであって、交流の場に臨むにあたって気合いを入れてめかし込んだりすることもない。


 そもそも異性への興味自体が薄い残念系女子。それがマリージュであった。


 そんなマリージュが、世間の目と向き合う時が訪れた。

 貴族の子女は十五歳から三年間通う義務のある、学園への入学である。


 学園でマリージュは、女子の洗礼を受けた。

 「リュカ様にあんな態度有り得ない」「信じられない本当に女なの?」的な、苦言だかバッシングだかの嵐である。


 …いや、もしかすると今までも、こういう場面はあったのかもしれない。

 ただ、公式な場では基本的にいつもリュカがエスコートしてくれていたし、リュカの都合が合わない時は兄がマリージュに付き添ってくれていたので、さすがに公爵令息(兄の場合は侯爵令息)という高位貴族のご嫡男を前にして露骨に悪意満載の言動をする女子はいなかったんだろうと思う。


 大変ありがたいことに、マリージュはメンタルが強く悪意に疎いので、やんわりと何か言われたり地味に何かされたりするくらいでは、十中八九気づかない。あからさまでないのであれば、すんなりスルーしてきたことだろう。

 常日頃そんな調子なので、「女子からネチネチと何か言われた」という記憶は、マリージュの中には特段残ってはいない。


 だが、学園では話が違ってくる。

 兄はマリージュと入れ違いで学園を卒業しているので論外として、リュカだって、クラス分けの問題以前にマナーレッスンなどは男女別になるので、常にマリージュの側にいることはできない。

 当然、マリージュ一人で女子たちと相対することになるのだ。


 リュカやマリージュの兄の前ではやんわりふんわりとしか物を言えなかった女子たちも、リュカがいなければ現金なもので、ズバーンと言葉にすることができるようになる。

 さすがにマリージュとて、明確に表現されれば認識することはできるのだが、何ゆえ非難囂囂なのかという点についてはイマイチ理解ができなかった。


 だって、マリージュがリュカを蔑ろに扱ったわけではない…筈だし、脳内に溢れているぶっちゃけ発言を、うっかり口にしたわけでもない…筈だし、ただ単にいつも通りにリュカに接しただけ…の筈、なのだから。


 はずはず言っているのは、若干自信がないからである。

 もしかして何か口走ったりしてる可能性が全くないとは言い切れないが、さすがにお嬢様がたの前では自重していると信じたい。


 (きゃあきゃあ言いながら崇めたてないと、こっちの方が責められるなんて…。彼女たちにとってリュカくんは神さまか何かなの??)


 マリージュの中で、苦言隊を筆頭とするこういった系統の女性陣は「リュカを神と崇め奉る宗派(通称『リュカ教』)の信者」とみなされた。

 信者の皆様の信仰をつべこべ言うつもりは毛頭ないのだが、マリージュにとってリュカはどう贔屓目に見ても『普通に人間』でしかなく、信仰の対象にはなり得ないので、リュカ教に屈して彼女達と一緒になって崇め奉る必要性は全くもって感じない。


 そして、マリージュ自身はリュカ本人とは特に何かモメているわけでもないので、現状、リュカとの関係性を変える必要性も感じてはいない。


 「今まで通りのつきあい方でいいや…」と思うだけで、特に何も変わらないマリージュであった。




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