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03. 溺愛のはずはない


マリージュの心づもりがどうであれ、信者の皆様からの苦言が止むわけではない。


なんでも、

「あんなに深く愛情を注いでくださるリュカ様に対して、

 マリージュ様の態度は冷たすぎる。いくら何でも、あんまりではないか」

とのことなのだが。


(…うん? 愛情?)


JK時代からして愛とか恋とかには縁がなく、愛情表現がどんなものか、マリージュにはイマイチよくわからない。JKの友人たちも残念ながら完全なる類友だったので、参考にできる要素がどこにもない。


辛うじて思いつくことと言えば、あのゲームの第二王子のヒロインに対する振る舞いくらいだろうか。


(ああ! 気障っちいことを何事か宣うたびに、

 いちいち地べたに跪いて何故か手を取る、あーゆーのが愛情なのね!)


間違いとまでは言えないが、残念ながらそれは、著しく偏った例と言うしかない。


(あれが愛情なら、リュカくんと私の間にあるのは完全に友情ね。

 友好的に接して貰えてるだけで、わたしは有難いと思うけど、

 わたしたちの友情を勘違いされちゃうのは、リュカくんに迷惑がかかるかな?)


リュカにしてみたら不本意であろう評価を払拭しておくことにしたマリージュは、にっこり微笑み、侯爵令嬢モードで応じる。


あれは愛情では(そのようなこと)ございませんわ」


マリージュとしては真摯に対応したつもりだったのに、マリージュの返答を聞いた信者たちは、何故かヒートアップしてしまった。


「お忙しいリュカ様が、わざわざお時間を作ってくださっているといいますのに、

 あなたときたら『あまりお時間ありませんし、またの機会にいたしましょう』

 とか!! ありえませんわ!!」

「既に消費されたリュカ様のお時間を思えば、お受けして然るべきでしょう!?」

「リュカ様のお気持ちを台無しにしてらっしゃるのが、何故わかりませんの!?」


(…わっかんないよ…。)


憤慨ポイントはどこだろうか。『お忙しい』だろうか。

忙しいなら、いま敢えて時間をこじ開けなくても、ヒマになったときに交流すれば良いのではなかろうか。違うだろうか。


と言うか、そもそもリュカは忙しくはない。


この学園は、一定の条件を満たせば、学園内に有料の個室を借りることができる。リュカもこの個室を借りており、大抵そこに籠っている。


卓越した能力を周知されているリュカのこと、個室に公爵家の執務なりを持ち込み、日々対処しているものと思われているらしいのだが、実際は家の手伝いなぞ一切していない。

のんびりお茶を飲んだり、新製品らしきもののカタログを見たり、ナゾの機械のようなものを試してみたりして過ごしていることをマリージュは知っている。

常に人目(主に信者)に晒されているリュカが、安全地帯に退避しているダケのお話なのだ。


だから、マリージュにしてみれば、この抗議はなんだか理不尽に感じてしまう。


でも、マリージュにも落ち度はあるのかもしれない。

リュカを粗雑に扱っているつもりはないが、丁重に扱っているかと聞かれると、正直なところあんまり自信はない。


だから、反省の意味も込めて、

「わかりましたわ。次の機会には、わたくし必ずやご一緒させていただきますわ」

と答えてみたのだが、そうしたらそうしたで、

「羨ましいぃぃっ」

なんて、『マリージュへの苦言』という建前を捨て去って喚きだすではないか。


(もう、どうせえっちゅうねん。)


マリージュが遠い目をしかけていたところ、黄色いさざめきが じわじわ近づいてきていることに気がついた。

件のリュカ様のお出ましである。


「探したよマリージュ。どうかしたの?」


優雅な身のこなしに、落ち着いた物腰。穏やかな語り口。

上位貴族らしい気品の中に、何か近寄りがたいものを漂わせながら、リュカは真っ直ぐにマリージュの許へ歩いてくる。


「リュカ様、ご機嫌よう。わたくし皆様からアドバイスを頂いておりましたの。

 リュカ様はいかがなさいました?」

「マリージュとお茶をと思ってね。これからどう?」

「まあ。是非」


マリージュ的には、リュカ教徒の皆様のご意向に沿ったつもりだったので、サムズアップくらいして貰えるものだと思っていたのだが、信者の皆様は目をハートにしてリュカに熱い視線を送っているだけで、もうマリージュのことなぞ眼中になかった。


(…いやこれ、わたしの反応なんかどうだっていいんじゃ…?)


信者の皆様は、結局のところリュカのことしか考えていない。

リュカ教徒にリアクションを期待したマリージュが間違っているのだ。


すっかり脱力したマリージュは、もうつべこべ言う気力もなく、

リュカの後ろについて、ただ静かに立ち去るのみであった。



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