11 王の憂鬱
白薔薇の女王が死んだあとのリアルの世界。
彼女の死は「彼」にどのような影響を与えているのでしょうか?
(くそっ……)
いらだちを抑えきれず机を蹴る。
「なぁ〜にイライラしてんの、えーんちゃん?」
頭上からの声に顔を上げると、幼なじみが何やら楽しそうにこちらを見ていた。
「…チッ」
「あっそれ酷くない!?親友に向かってさぁ!!」
むぅ〜と男らしからぬ表情に顔をしかめる。俺にはわからないが、女にとってはこれがこいつの魅力なのだそうだ。
「ねぇーえんちゃん、イライラするのはわかるけど…もう子供じゃないんだからさぁ……」
態度に出すのはやめよ?と言う。
そんなことわかってる。それが出来たら苦労しないのだ。
その後の「もぉー、しょーがないんだから…」というのは聞こえなかったことにした。
「…わかってんだよ。」
そう言い残して席を立ち、派手な音を立てて教室をあとにした。次の授業はサボりだ。
屋上への扉がギィ…と軋む。思い扉を蹴り飛ばして閉めた。耳障りな金属音が辺りに響き渡る。
イライラしても仕方ないことなんてわかってる。ゲームをやるもやらないも個人の自由だってことも。
顔を知らなけりゃ名前も知らない。男か女かもわからない。ネットでつるんだことすら無い。ただ互いに存在を知っている。それだけの繋がり。
俺がそいつを知ったのは「Rose Chess」というアプリが配信されて一年もたったあとのことだ。それは俺が並に乗り遅れたせいもあるが、その頃のあいつはまだ駆け出しで、ようやく有名になり始めたといったプレイヤーだった。その時はもっと有名なプレイヤーも多く、そいつのプレーを批判するようなのも多かった。
しかし、俺にとっては憧れの存在だった。いくつものIFを考えて立てられた緻密な戦略。敵一人一人の癖や特徴を捉えて作られたスキル構成。あんな風に自分も戦いたい。そう思い白薔薇にアカウントを作った。
…長くは続かなかったが。
元々こんな性格だ。細い調整が常に必要なプレースタイルが向いていないことはわかっていた。分かっていてやったのだから自業自得だ。
その後俺は黒薔薇にサーバーを移行した。
その頃には誰にも批判を言わせない「女王」となっていたあいつをこの手で倒すために。
あいつの真逆をいく、誰にでも通用するスキル構成を作った。
これならばあいつのどんな情報収集や戦略も、壁にはならない。
いつしか俺は「暗炎の王」と呼ばれるようになった。
そしてチャンスが訪れる。
難攻不落の「白薔薇の女王」と「暗炎の王」の対決。噂は瞬く間に広がった。
そうして迎えた非公式の大会。
…俺は勝った。
決して弱い相手ではなかった。俺に対しての完全な対策は立てれずとも、他の駒の対策はしっかりとしていただろうから。
白薔薇の敗北は、キングとクイーンの実力差が原因なのは明らかだった。
だからこそ、だ。だからこそ分からない。
「…なぜ、帰ってこない?」
白薔薇の女王がチェスを辞めた。
はじめは噂程度にしか思っていなかったが、広まり続ける噂に流石におかしいと思い調べてみると、Twitterは更新されておらずゲームへのログインすらされていない。
確かに白と黒の戦いの中で白は敗れた。しかし、総合的に見れば白のクイーンは俺に継いで2位。しかも「味方に足を引っ張られて」というおまけ付きの2位だ。それは俺にとってチェックでありチェックメイトではなかった。
(俺は、お前ともう一度勝負がしたいんだ。なぁ。)
今度は、本当の勝負を。
黒髪を揺らす風は優しく、拭いきれぬ喪失感を少しづつ溶かしてくれているようだった。そしてあいつにとって俺はどんな存在だったのだろうと考えながら瞼を閉じる。
(俺が…ゲーマーとしてのあいつを、殺したのか……)
ふと、そんな考えが浮かんだ。しかしゲームとは元来そういうもの。勝ちもあれば負けもある。絶対に勝てるゲームはゲームじゃない。
それをわかっていながら、胸の内には罪悪感が加算され、濁る。
眠気に身を委ねた。考えたくないなら、怖いなら、眠ってしまおう。
そうして王は眠った。考えたくないという願望とは裏腹の、苦い夢の世界で。
ここまでご精読頂きありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
そして皆さん、お気づきだったでしょうか?
今回初登場だった「えんちゃん」ですが、「暗炎の王」、「炎」の「えん」でした!!
これはさすがに気づいちゃいましたかね?(*^-^*)ゞ
これから彼がどう物語に影響してくるのか作者も楽しみです!!
しかし彼は「憂鬱」だそうなので、次の登場は先になってしまいそうですね…(′・ω・`)残念。
でも!!君が次に登場する頃には私ももっと成長しとくから、一緒に頑張ろうね!えんちゃん!!
というわけで最後になりましたが、これからも[白薔薇の聖女]をどうぞよろしくお願い致します。




