10 ニーネの誓い
「よくお似合いですよ!聖女様!」
ニーネはぱああと顔を綻ばせる。
思った通りだ。道すがらフォルト様を捕まえてどんなお姿だったかとあれこれ聞いたかいがあった。それをもとに勝手に想像して選んだドレスだったが、実物が着た姿は本当に美しい。
それにしてもフォルト様は何故あんなに苛立っていらしたのだろう。聖女様のことが嫌いだとしきりに口にしていたが、私には悪い人には見えなかった。
むしろ私たちを人として扱う、優しい人。
いままで主君──これまでの聖王、聖女…──が、頭を下げるようなすがたを目にしたことはない。そもそも、私たちを人とは認識していなかった。彼らにとって私たちは自分の所持する「スキル」でしかなかったから。
慣れとは恐ろしいもので、そう扱われるたび麻痺していった精神は、せめて相手に不快感を与えないようにと己が一番丁寧であると思う言葉を使い、顔には常に笑顔を張りつけた。
そうして自分を傷つけないために作り替えられた私はメイドという地位に押し上げられる。
もともと保身のために作ったキャラだった。
聖騎士番号7番から12番……戦闘能力の低い私たちは、「白薔薇を勝利へ導く」という同じ目的で創られていても、戦闘能力の高い1番から6番には何も出来ない愚物として嫌悪されていた。
普通に接してくれるのは2番のトゥーシェ様と4番のフォルト様くらいで。
埋まらない溝は新しい主を迎え入れる度に深まっていた。
「…どうかしました?」
我に返ると聖女様が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。そんなに険しい表情をしていただろうか。いけない、いけない。
いつも笑顔でいるのが私の唯一の取り柄なんだから。
「いいえ?聖女様こそ、衣服に問題はございませんか?」
そう聞くと照れたように凄く着心地がいいですと言ってくれた。
「あと、姿見があれば…」
「姿見ですか。この部屋には…ないようですので、後でお持ちします。」
「ありがとうございます……」
ふむ、今度の聖女様は下手に出てしまうタイプの方らしい。彼らになめられないといいのだが。
そこではっとした。私は今、この聖女を心配したのだ。
胸の奥でじわじわと広がる喜びを感じた。その根源のわからない感情に心がいっぱいになり、ニーネは次の行動に出る。
「では行きましょうか聖女様!!」
驚く彼女の手を引き、廊下へ出た。
此方はまだ何も知らない。これから学んでいかなくてはならない。明日はわからない。けれど今日だけはまだ、自由だ。
此方になら救えるかもしれない。神に創造される前から壊れたこの国と……白い庭に捕われた、私たち12人を。
本物の笑顔を浮かべたニーネは、来る前よりも軽くなった足取りで聖女をエスコートする。
……此方を守ろう。力がなくても、壁になることくらいは出来ると信じて。だって私は白薔薇聖騎士団の一員、ニーネなのだから。




