1話 つまらない奴 2
木漏れ日の差し込む三階建ての木造校舎。その一階、螺旋階段を備えた渡り廊下と教室へ続く廊下の交差点に、掲示板があった。
周囲には十五歳ほどの生徒たちが集まり、ワイワイガヤガヤと賑わっている。
彼らの制服はチャコールブラックを基調に、裏地は明るい紫。白に近い銀灰色のインナーのシャツと上着と同色のケープをまとい、胸元には金メッキのバッジが輝いていた。
生徒たちの関心は、掲示板に張り出された大きな順位表に集まっていた。
「あー、前より順位落ちてる!」
「まぁ、私にしては良くやったんじゃない?」
「くっそー! 目標届かなかった! 父さんとの約束が!」
「何を間違えた!? フィリポ式か? ローレンツの定理か!?」
「っしゃあ! 20人ごぼう抜きは快挙だろ!」
彼らが一喜一憂していたのは、試験の結果によるものであったようだった。
生徒たちがやいのやいとのやってる中──
コッ。
──その一つの足音に彼らは息を呑み、話題を止めた。
彼らが振り返るとそこには、二人の人影があった。
一人は赤髪で、パッチリした目。快活そうな大きな口。大きな三つ編みを肩から下げている。
本来の耳の位置からはふわっとした尖った獣の耳が生えており、スカートからも尻尾が見えていた。
獣人だ。しかしこの世界では珍しくもない。並んでいる生徒たちの中にもそういった特徴のものは居た。
コンパクトグラマラスとでも言うのだろうか。体の起伏は離れていてもはっきりして見えた。
だがそれよりも、彼らが気にしたのはもう一人の、前を歩く猫背の背の高い男だった。
浅黒い肌、額を出した短髪の七三分け。しかし髪質のせいか跳ね回っており自然とワックスで固めたようであった。
何よりも、彼らがゴクリと固唾をのんだのはその人相の悪さだ。眉間にシワを寄せ、常に睨みつけるように金の瞳を持つ目を細めている。
そんな彼が足を踏み出すと、自然と生徒たちは道を開けた。
浅黒い肌の彼は、道を開けた左右を睨みつけるように視線を動かすと──
「どうも」
──と、そっけなく感謝の意を述べ、張り出された紙を見上げた。
【1位 アレックス・ブラウン】
彼の脇から顔をのぞかせた赤髪の獣人の少女は目を輝かせた。
「あ、あったよアレックス! 今回も一位おめでとう!」
「見えてる。1番上だからな。マールは、40位か」
【40位 マール・ソニアス】
「へへっ、まぁ、こんなもんでしょー」
二人は笑い合い、踵を返してその場を去るが、生徒たちは二人が曲がり角を曲がったあたりで、各々口を開いた。
その言葉はどれも、棘があるものだった。
「……外周部の田舎者め」
「あいつらアレだろ? 去年過疎化で学校が統廃合してこっち来たっていう……」
「ああ、それからあの男……、ずっと1位独占だ」
「はぁ~……平民がよぉ……。空気読めよ……」
「配慮が足りないわよね? 躾がなってないわ。恥ずかしくないのかしら?」
そういう女生徒は順位表をもう一度振り返った。
彼女の視線は、2位の名前を捉えた。
【2位 クロード・ウィルゲンシュタイン】
「きっと、クロード様も黙っていないわ」
◆◆◆
歩きながらも、はぁ~……と大きくため息を付き、アレックスはポツリと先程の人混みに苦言を呈した。
「わかっちゃいるけどさ、せめて聞こえないように喋れよな……」
隣を歩くマールは、獣耳をピコピコさせながら、あっけらかんと言った。
「気にしないほうがいいよ?」
「わかってる。気にしてない。どうでもいい」
どうでも良くは見えなかった。明らかにアレックスはイライラしていたからだ。
笑うマール。
「まーた強がっちゃって。昔っからそういう所あるよねー」
「うるさい」
言いながら廊下を歩き、クラスに戻り、引き戸のドアを開くと、アレックスに突き刺さる生徒たちの視線。
ボソボソと彼らの話し声が聞こえる。
「また1位だってよ」
「うへー、何がそこまでさせるのかね……」
「すごいっていうより、怖い?」
「あの子もあんな奴とよく一緒にいられるわね……」
マールに話題が飛び火した。
「ん? 今、なんか言った?」
ケロッとしたまま、クラスを一望するマール。
それを見たアレックスは、クラスを一望し、チッと鋭く舌を打つ。すると、生徒たちは一斉に黙った。
彼らにも危機意識はあったらしい。面倒事に発展するのは御免だと、口をつぐんだのだ。
そのままアレックスはカバンから本を一冊取り出すと、再びクラスを出ていく。その後をとててっと付いて行くマール。
誰かが言った。
「何だあいつら……。つまんねぇ」




