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6話 視野 1

 アレックスとクロードは、テーブルに着くとメニューを見た。


「……珈琲一杯でこんなに取るの……? 1.5ルクス?」


 先にそんなことを口走ったのは、クロードの方。


「おっと、これはまずいぞ? 家のそばのベーカリーでパン十個買える」


 アレックスもまた財布を取り出し、じゃらりと小銭を数えだした。

 二人とも中心街のカフェの値段を舐めていたのだ。


「……俺はともかく、貴族様には安いんだろ?」


 はー、と何もわかってないなとため息をつくクロード。


「お前さ、1リルの価値は僕の場合違うとでも思ってる?」


 目を大きくして、意外そうなのはアレックスだった。クロードは簡単に出せそうだったからだ。

 1,000リルで1ルクス。日本円にすれば、一杯およそ1,500円である。


「金銭感覚あるんだな……」


「なんでないと思ってるのさ……。クソ……、平民の上流階級ターゲットにしてる店か……!」


 歯噛みするクロード。コーヒーを諦めるアレックス。


「じゃあ俺、水頼もうかな……」


「だめだ! 僕が埋め合わせすると決めたんだ! 払ってやろうじゃないか1.5ルクス!」


 言うと、パンパンとウェイトレスの方を見て手を叩いたクロード。これが呼ぶ仕草であった。


「お伺いしますー」


 やる気なさそうに、ウェイトレスがやってくる。

 確かにそのウェイトレスたちはヒールの高いパンプスに白ニーソ。ガーターベルトでそれがずり落ちるのを抑えていた。

 彼女は二人より少し年上に見えた。


 この世界では、彼女くらいの年齢が給仕として働くのは珍しくもない。アルバイトのような立ち位置なのだろう。

 クロードは口にした。


「こいつに珈琲一杯。僕は水」


「水一杯100リルですが」


「メニューに書いてないじゃないか!」


「申し訳ありません、冷やかし対策となっておりまして……」


 ギリギリと歯ぎしりすると、クロードはテーブルを叩いて宣言した。


「じゃあ出すよ1.6ルクス! 水もってこい!」


「承りましたー」


 アレックスはその接客に疑問を持った。


(やけにいい加減だ。高いのに、あれでいいのか? 人材の教育はどうなってる? 成り立つのか?)


 去っていくウェイトレスの短いスカートを見て、アレックスは察した。


「あー……、仮説だけどさ、……ここ、コーヒー売ってる店じゃないんじゃないか?」


「は!?」


「よく見てみろ。

 客は連れ同士ばかりだ。子どもはいない」


 周囲の確認のために首を回すクロード。

 そして、違和感に気がついた。


「確かに、子連れがいない。それになんでみんな各々、分厚い本持ち込んでるんだ!?」


「カップから湯気も立ってない。

 だけど、離れてるここからでも黒い水面が見える。

 飲むペースがやけに遅いってことにならないか?」


「言われてみれば……」


「好意的に考えても、その値段、場所代ってことじゃないか?」


 アレックスがそうぼそっとつぶやいた瞬間、向かいのテーブルの女性が片手持ちオペラグラスを掲げた。

 視線の先ではウェイトレスたちが談笑していた。


 カウンターの男性はカウンターを背もたれに新聞紙を開いたまま横目でウェイトレスを追っていた。


「そこのおっさんとそこの女の人。多分答え合わせだ」


 あー……とクロードはしばらく天井を見て、自分の言ったことを思い出す。

 自分も服装が可愛いと思ってたし、さっきのウェイトレスもレベルが高いと思っていたところだった。


 用もなくウロウロしてるウェイトレス。

 お盆を持って笑い合う彼女たちは容姿は良く、足も長い。

 そして、確かに、あの服装は選ばれた人間にしか着られないと思えるリリカルさがあった。


「……そもそも全員目の保養に来てやがるのか!

 生きてるビスクドールみたいなもんだ……!」


 湧いた頭痛に頭を抱えるクロード。

 そんなとき、ウェイトレスがコーヒーと水と伝票をお盆に乗せて持ってきた。


「おまたせしましたー」


 高級店らしい格式ばった接客とはほど遠い。

 それでも客たちは気にする様子がない。

 そこでアレックスはウェイトレスに尋ねる。


「珈琲やけに高いんですけど、ここどういうコンセプトなんです?」


「うちは制服と、それを着こなすスタッフが売りなんですよー」


「……ああ、わかりました。なるほど。いい制服ですね。かわいいと思いますよ」


「でしょう!? 私これ目当てで仕事してるんだー!」


「要するにファッションショーみたいなサービス込みの料金なんですね?」


「そういうことですー」


「なるほど、引き止めてすみません」


 そう言うと、褒められたウェイトレスはルンルン気分で去っていった。


「だ、そうだ。お前が白ニーソとガーター見たいとか言い出したのは覚えてるか?」


 言われて、クロードは大きくため息をついた。


「ただ制服が可愛いだけかと思ったんだよ!」


「芸術品見るには入場料が取られるってわけだ」


「うぬぬぬ……! 知らん業態だ!」


「ゴチ」


「もう二度とこないぞ……!」


 社会勉強であった。


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