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聖女様物語  作者: Elle


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その09

大神官(現・逃亡予定)


「大神官、私いいことを思いついてしまったわ。」

「明日がとっても楽しみだわ。」

翌日。

貴族会議が開かれた。

出席者は。

聖女様。

私。

八人の枢機卿。

国王陛下。

王妃殿下。

王太子殿下。

そして国内の有力貴族たち。

私は会議が始まる前から予想していた。

上位貴族は反対する。

あの方々は知っている。

聖女様が本物であることを。

いや。

本物どころではない。

神が世界ごと味方する存在であることを。

問題は下位貴族だ。

「神託」という言葉だけで動く者が多い。

数の力で押し切るつもりなのだろう。

私は頭が痛かった。

しかし。

そんな心配は無意味だった。

聖女様が席を立ち。

静かに口を開いたからだ。

「皆様。」

「私は。」

「聖女の任を降りることといたします。」

会場が静まり返る。

誰も予想していなかった。

聖女様は続けられる。

「新たな神託が下ったということは。」

「私の務めが終わったのか。」

「あるいは。」

「私の務めが未熟だったのか。」

「それは分かりません。」

「ですが。」

「この身の努力が足りなかったのでしょう。」

「皆様。」

「どうか新しい聖女様をお迎えし。」

「この国を、お守りください。」

その言葉に。

敵対派閥の枢機卿は満面の笑みを浮かべた。

(勝った。)

そう思ったのだろう。

しかし。

聖女様は続けられた。

「ただ。」

「私も長く聖女を務めてまいりました。」

「この度。」

「少しお休みをいただき。」

「その後は市井へ戻り。」

「一人の平民として暮らしたいと思います。」

「その許可を。」

「皆様からいただければ幸いです。」

私は。

背筋が寒くなった。

(まずい。)

敵対枢機卿だけが。

上機嫌だった。

「承知いたしました。」

「長年のお勤め。」

「誠にご苦労様でした。」

聖女様は。

その瞬間。

にやり。

と笑われた。

私は思った。

(あ。)

(罠だ。)

聖女様は。

何事もないような口調で言われた。

「では。」

「神前契約をお願いいたします。」

敵対枢機卿の笑顔が固まる。

「……え?」

「いや。」

「そこまでしなくても……。」

聖女様は首を傾げた。

「当然です。」

「私の引退を望まれる皆様も。」

「神前契約をお願いいたします。」

「…………。」

沈黙。

聖女様は優しく微笑んだ。

「どうされました?」

「新しい聖女様のために働くお気持ちが。」

「ないのでしょうか?」

「おかしいですね?」

敵対枢機卿は。

額へ汗を浮かべた。

だが。

親戚の娘が本当に聖女になるなら。

問題はない。

そう考えたのだろう。

「……。」

「分かりました。」

契約書が配られる。

内容は簡潔だった。

一、現聖女は聖女の任を、新聖女へ正式に譲る。

二、元聖女は一定期間休養した後、市井へ戻る。

三、その生活を何人たりとも妨げてはならない。

神前契約。

神へ誓う契約である。

これを破れば。

額へ神紋が刻まれる。

「契約を破った者。」

そう誰の目にも分かる印だ。

一度刻まれれば。

二度と消えない。

信用も失う。

貴族としての人生も終わる。

だから。

誰も破らない。

契約書が全員分集まる。

聖女様は満足そうに頷いた。

「ありがとうございます。」

「それでは。」

「皆様。」

「お疲れ様でした。」

「私はこれにて失礼いたします。」

優雅に一礼すると。

そのまま議場を後にされた。


……

静寂。

私は立ち上がった。

残る七人の枢機卿を見る。

「聖女様がお変わりになるなら。」

「新しい大神官の方がよろしいでしょう。」

「私は辞任いたします。」

「そして。」

「聖女様についていくことにします。」

七人が一斉に私を見る。

その目は。

『お前だけ逃げるのか?』

そう言っていた。

私は胸を張った。

「ああ。」

「逃げる。」

「全力で逃げる。」

「やってられるか。」

「新聖女が偽物だった時。」

「誰が責任を取る?」

「神前契約まで結んだんだぞ?」

「私は知らん。」

「もう知らん。」

「温泉旅行についていく。」

「エレナ嬢とスージー嬢と一緒に。」

「美味い飯を食べる。」

「平和に暮らす。」

七人の枢機卿は。

何とも言えない顔で私を見ていた。

その時だった。

遠くの廊下から。

聖女様の楽しそうな声が聞こえてくる。

「エレナ!」

「スージー!」

「旅行の準備しましょう!」

「海がいい?」

「山がいい?」

「私は温泉がいいです!」

「私は海を見たいです!」

三人の笑い声が。

議場まで響いてきた。

私は確信した。

この会議。

終わったように見えて。

まだ何も始まっていない。

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