その07
スージー
私の名前はスージー。
王都で商会を営む家の娘です。
今では王都でも名の知れた商会になりました。
……ですが。
昔は違いました。
ごく普通の。
王都にある中規模の商会。
それが私たちでした。
すべてが変わったのは。
あの日からです。
王都の大神殿では。
毎朝、聖女様による礼拝が行われています。
参加できる席は、すべて抽選。
平民も。
貴族も。
騎士も。
身分は一切関係ありません。
その抽選は王都でも有名で。
あまりの人気に。
当選券を高値で転売する者まで現れたほどでした。
もちろん神殿に見つかり、永久出入り禁止になったそうですが。
私も一度くらい礼拝に参加したいな。
聖女様を見てみたいな。
そんな軽い気持ちで応募したら。
……当たってしまいました。
しかも。
最前列。
それも。
聖女様の真正面。
「えぇぇぇぇ……。」
当日まで緊張で眠れませんでした。
礼拝堂へ入り。
席へ座って待っていると。
身なりの良い紳士が私へ声を掛けてきました。
「お嬢さん。」
「どちらの方かな?」
「はい。」
「王都で商会を営んでおります、スージーと申します。」
紳士は穏やかに微笑みます。
「そうか。」
「君は、とても幸運だ。」
「え?」
「その席は。」
「本来、抽選には存在しない席なのだよ。」
「……え?」
意味が分かりません。
「そこへ座れる者は。」
「聖女様ご自身が選ばれた方だけなのだ。」
私は完全に固まりました。
「ええええっ!?」
紳士は楽しそうに笑いながら。
私の隣へ腰掛けました。
時間になると、礼拝堂の扉が開き。
聖女様が入って来られた。
私を見たその瞬間。
聖女様が固まりました。
「……。」
礼拝堂全体が静まり返る。
大神官様が慌てて声を掛ける。
「聖女様?」
「聖女様。」
「聖女様!」
何度か呼び掛けられ。
ようやく我に返られた。
そして。
聖女様は真っすぐ私のところへ歩いて来る。
「……。」
「え?」
何が起きているのか分からない。
聖女様は。
私の手を優しく握った。
「こっち。」
「え?」
そのまま。
私は。
聖女様のお隣で礼拝をすることになってしまった。
「…………。」
周囲の視線が痛い。
ものすごく目立っている。
お願いだから。
早く終わってください。
そう祈ってしまいました。
礼拝が終わる。
よし。
帰ろう。
そう思った瞬間。
神官様が近づいてきた。
「スージー様。」
「聖女様がお茶へお誘いです。」
「……。」
断れるわけがありません。
お茶会。
私は緊張で、ほとんど味が分かりませんでした。
聖女様は。
とても普通でした。
「どこに住んでいるの?」
「商会のお仕事は楽しい?」
「好きな食べ物は?」
「お菓子は好き?」
「休日は何して遊ぶの?」
まるで。
近所のお友達と話しているような。
そんな時間でした。
ただ。
お茶と。
お菓子だけは。
人生で一番おいしかったことを覚えています。
翌日。
神殿から使者がやって来ました。
「神殿領で生産されるワインの卸売をお願いしたい。」
私は思わず聞き返しました。
「うちですか?」
神殿領のワイン。
それは。
王族や大公家ですら簡単には飲めない。
超高級品です。
「うちでは荷が重すぎます。」
そう断ろうとすると。
使者は笑顔で言いました。
「困ったことがありましたら。」
「神殿へ相談してください。」
「その代わり。」
「ぜひお願いしたいのです。」
完全に押し切られました。
こうして。
我が商会は。
神殿専属の卸商会となりました。
商会を営んでいると。
困った貴族というものは、一定数います。
値切る人。
支払いを先延ばしにする人。
無理難題を言う人。
そういう相手をどう捌くかも。
商人の腕の見せ所です。
ただ。侯爵家や公爵家ともなると。
うち程度の商会では対応が難しい。
……そう思っていました。
ところが。
そうした高位貴族ほど。
実に礼儀正しいのです。
「代金はこちらだ。」
「無理は言わん。」
「聖女様へ、よろしくお伝えください。」
皆さん。
とても穏やか。
どうやら。
聖女様のお人柄をよく理解しているらしく。
無茶な要求など一切してきません。
だから。
高位貴族との商売は、とても楽でした。
問題は。
下位貴族。
自分より格下の商人相手なら威張れる。
そう思っている方が、時々いるのです。
そして。
そういう方ほど。
神殿の名前を聞いた瞬間に。
顔色が変わるのでした。




