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聖女様物語  作者: Elle


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その02

私の名前はエレナ。


プリン王国にある子爵家の次女です。

現在、大変困っています。

私くらいの年齢になれば、すでに婚約者が決まっていても珍しくありません。

姉にも婚約者がいますし、同年代の令嬢たちも、将来について少しずつ話を進めています。

ですから。

私にも縁談が来ること自体は、おかしなことではありません。

問題は。その相手です。

「エレナ。」

お父様が、分厚い手紙の束を抱えて部屋へ入ってきました。

「また縁談が届いた。」

「……何件ですか?」

「今日だけで十二件だ。」

「今日だけで……。」

私は思わず額を押さえました。

聖女様が私をお気に入りだと公言してから、我が家へ届く縁談の数は急激に増えました。

伯爵家からの申し込みなら、まだ理解できます。

我が家は子爵家です。

多少の身分差はあっても、絶対にあり得ない話ではありません。

しかし。

「侯爵家から三件。」

「公爵家からも一件届いている。」

「……。」

公爵家。

侯爵家。

国の中枢を担う大貴族です。

子爵家の次女である私には、あまりにも身分が違いすぎます。

「お断りのお手紙を……。」

「私が書くのですか?」

「できればそうしてほしい。」

「無理です!」

侯爵様や公爵様へ送る手紙など、書き出しすら思いつきません。

誤字一つで不敬になるのではないか。

言葉遣いを間違えれば、家ごと消されるのではないか。

そんな想像ばかりが頭に浮かびます。

そもそも。

お茶会へ招待されても、着ていくドレスがありません。

公爵家の方とお会いするのに、普段使いのドレスというわけにはいかないでしょう。

「困りました……。」

そう思っていた翌朝。

神殿から大きな箱が届きました。

中には。

ドレス。

靴。

宝石。

手袋。

扇子。

お茶会に必要な物が、頭から足先まで一式そろっています。

しかも。

私の寸法にぴったりでした。

「……どうして?」

採寸された覚えなどありません。

箱の中には、聖女様からの手紙も入っていました。

『エレナへ。次のお茶会には、このドレスを着てね。絶対似合うと思うわ。聖女より』

「……。」

またです。

なぜか。

私の情報は、すべて聖女様へ筒抜けになっています。

新しい靴が必要だと思えば、その日のうちに届きます。

髪飾りが壊れれば、翌朝には代わりの品が送られてきます。

お菓子を食べたいと口にすれば、神殿の料理人が作ったものが届きます。

お父様は。

「さすが聖女様だ。」

と感動していますが。

私は少し怖いです。

縁談相手との顔合わせは、いつも大神殿で行われます。

参加者は三人。

私。

お相手。

そして。

聖女様です。

「それでは。」

「二人とも、ゆっくりお話ししてね。」

聖女様はそう言います。

ですが。

同じテーブルに座っています。

ずっとこちらを見ています。

お菓子を食べながら。

にこにこと笑っています。

これでどうやって、ゆっくり話せというのでしょうか。

この日のお相手は、ある侯爵家のご令息でした。

容姿は整っています。

礼儀正しく。

言葉遣いも丁寧です。

「エレナ嬢。」

「あなたのような美しい方とお会いできて光栄です。」

「ありがとうございます。」

私は緊張しながら頭を下げました。

会話は穏やかに進みました。

侯爵令息は、自分の領地について語ります。

豊かな農地。

盛んな交易。

立派な騎士団。

どの話も素晴らしいものに聞こえました。

しかし。

聖女様は次第に無表情になっていきます。

そして、お茶会が終わると。

侯爵令息が部屋を出た瞬間に言いました。

「あいつは駄目ね。」

「えっ?」

「絶対に駄目。」

「でも、とても礼儀正しい方でしたよ?」

聖女様はティーカップを置きます。

「あれは外面だけ。」

「魂が濁っているわ。」

「……魂?」

聖女様によると。

人の魂には、色や輝きがあるそうです。

誰かを思いやる者の魂は、柔らかな光を放つ。

善い行いを重ねた者の魂は、澄んでいく。

逆に。

嘘。

悪意。

強欲。

虐待。

搾取。

そういった行いを重ねた者の魂は、少しずつ黒く濁っていく。

「さっきの男。」

「使用人を人間だと思っていないわ。」

「領民から不当に税を取り立てている。」

「気に入らない女へ手を出して、問題になれば家の力で揉み消している。」

「そんな……。」

「それに。」

聖女様は私を見つめました。

「あなたとの縁談を望んだのも。」

「私との繋がりが欲しいだけ。」

「エレナ自身を見ていない。」

声は穏やかでした。

ですが。

目はまったく笑っていません。

「だから。」

「駄目。」

その日の夕方。

聖女様は王宮へ報告を入れました。

翌日から侯爵家に対する調査が始まり。

数々の悪事が明るみに出ました。


不正な徴税。

横領。

人身売買への関与。

証拠の隠滅。

関係者への脅迫。

調べれば調べるほど、問題が出てきたそうです。

最終的に。

その侯爵家は領地の大半を没収されました。

爵位も降格。

侯爵家から子爵家となりました。

「……。」

私は結果を聞いて、しばらく言葉を失いました。

たった一度。

聖女様とのお茶会へ参加しただけです。

それだけで。

侯爵家が子爵家になってしまいました。

お父様は震えながら言いました。

「エレナ。」

「次から、相手に失礼がないようにな。」

「私が何かしたわけではありません!」

「分かっている。」

「だが、怖いものは怖い。」

私だって怖いです。


数日後。

再び聖女様と二人でお茶を飲んでいる時、私は恐る恐る尋ねました。

「あの……。」

「もしかして。」

「私の縁談を利用して、悪い貴族を探していませんか?」

聖女様はクッキーを食べる手を止めました。

「……。」

「そんなことないわよ?」

視線が泳いでいます。

「聖女様。」

「なぁに?」

「こちらを見てください。」

「今日は天井が綺麗ね。」

「聖女様!」

少しの沈黙。

やがて。

聖女様は諦めたようにため息をつきました。

「だって。」

「向こうから勝手に集まってくるんだもの。」

「権力目当て。」

「神殿との繋がり目当て。」

「あなたを利用しようとする馬鹿ばかり。」

「一人ずつ調べるより、ずっと楽なのよ。」

「やっぱり利用していたのですね!?」

「利用ではないわ。」

聖女様は真面目な顔で訂正します。

「害虫駆除を兼ねた、あなたの婚約者探しよ。」

「前半部分が怖すぎます!」

聖女様は私の手を握りました。

「安心して。」

「ちゃんとエレナを大切にしてくれる人が見つかるまで、私が見極めてあげる。」

「魂が綺麗で。」

「誠実で。」

「優しい人。」

「そんな方、本当にいるのでしょうか?」

「いるわよ。」

聖女様は自信満々に答えました。

「見つからなかったら。」

「私と一緒に神殿で暮らせばいいもの。」

「それは婚約者探しを諦めていませんか?」

「大丈夫。」

「エレナ一人くらいなら、一生養えるわ。」

「そういう問題ではありません!」

聖女様は楽しそうに笑っています。


こうして。

私の縁談相手が一人訪れるたび。

どこかの貴族家に監査が入ります。

最近では。

私との縁談を希望していた家が、申し込みを取り下げる事例まで増えてきました。

聖女様は。

「後ろ暗いことがあるから逃げるのよ。」

と満足そうです。

私の婚約者は。

いつになったら見つかるのでしょうか。

それより先に。

この国の悪徳貴族が全滅してしまう気がします。


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