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聖女様物語  作者: Elle


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12/44

その12

新大神官


「大神官様!」

神殿騎士が血相を変えて執務室へ飛び込んできた。

「どうした。」

「各地の領主様方より、緊急の嘆願が届いております!」

山のような書状が机へ積み上げられる。

私は一枚目を開く。

『領地の結界が消失。至急対応を願う。』

二枚目。

『魔物が領内へ侵入。騎士団だけでは抑えきれない。』

三枚目。

『避難民が神殿へ殺到しております。ご指示を。』

四枚目。

『元聖女様への謁見を願います。』

五枚目。

『至急。至急。至急。』

私は額を押さえた。

「……何件だ。」

「現在確認できているだけで二百七十三件です。」

「まだ増えております。」

「…………。」

胃が痛い。

「それだけではありません。」

「何だ。」

「元聖女様への謁見申請が大量に届いております。」

「……。」

「王家。」

「高位貴族。」

「地方領主。」

「神殿。」

「全て元聖女様への面会希望です。」

私は椅子へ深く腰掛けた。

「今さらか……。」

一人の神官がおそるおそる尋ねる。

「大神官様。」

「早く元聖女様へお願いし、結界を張り直していただかないと……。」

「暴動が起きそうです。」

「……。」

「民は。」

「『聖女様は何をしている。』」

「『神殿は何をしている。』」

「『なぜ助けない。』」

「と詰め寄っております。」

さらに別の神官が駆け込んできた。

「大神官様!」

「今度は各地の領主様からです!」

「『新聖女になんとかしろ』との嘆願が殺到しております!」

「『聖女を名乗るなら結界を張れ!』」

「『元聖女様は国全土を守っておられたではないか!』」

「『奇跡を起こせ!』」

「『民が死んでいるんだぞ!』」

「……。」

私は静かに立ち上がった。

「新聖女様は?」

神官は気まずそうに答える。

「宝石商を呼んでおられます……。」

「『今は忙しい。そんなことは神殿で何とかしなさい。私は聖女なのよ!』と……。」

部屋の空気が凍りついた。

誰も言葉を発しない。

私は静かに首を横へ振った。

「違う。」

神官たちが私を見る。

「助けないのではない。」

「助けられないのだ。」

部屋は静まり返る。

「……元聖女様は。」

「もう聖女ではない。」

「神前契約により。」

「自らその座を降りられた。」

「我々が。」

「いや。」

「我々全員が。」

「その契約へ署名した。」

誰も反論できない。

契約は。

神との約束。

破れば神紋が額へ刻まれる。

神殿に仕える者ほど。

その重さを知っていた。

私は深く息を吐く。

「それでも。」

「お願いするしかない。」

「……。」

「誰が行く?」

その瞬間。

部屋中の神官が一斉に視線を逸らした。

誰も行きたくない。

当然だ。

あれほど気持ちよく送り出した相手へ。

「戻ってきてください。」

などと言えるはずがない。

沈黙の中。

一人の老神官が小さく呟いた。

「……元大神官様なら。」

私は苦笑した。

「そうだな。」

「今頃。」

「ヘレナ嬢のお屋敷で。」

「優雅にお茶でも飲んでおられる頃だろう。」

そして。

机の上に積まれた嘆願書へ目を落とす。

どの手紙にも。

最後は同じ一文で締めくくられていた。

『どうか、元聖女様のお力をお借りください。』

私は目を閉じる。

ようやく。

全員が理解し始めた。

失って初めて。

自分たちが失ったものの大きさを。

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