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第41話 覚悟

 休み明けの月曜日。いつもなら気が重いはずの今日だが、俺の右足は絶え間なく上下に揺れていた。

 授業なんてそっちのけで宇宙の彼方へと飛び去っていた意識は、終業のチャイムが鳴り響いたのをきっかけに舞い戻ってきた。


 気付けば放課後を迎えていたらしく、教室では椅子を引きずる音があちこちから聞こえてくる。


 俺は慌てて桐野さんに元に行き、帰り支度をしている彼女に声を掛ける。


「桐野さん、今日は予定ある?」


 顔を上げた桐野さんが、こちらに笑顔で応えてくれた。


「ううん、特にないわよ」


「よかったらこのあと家に寄っていかない? 借りてたゲームを返したいからさ」


「あれ、ユキユキにゲーム貸してた?」


「ほら、あれだよ。途中から主人公が滅茶苦茶になっちゃったやる」


「あー、あれね」


 桐野さんは忘れてたのは無理ないのかもしれない。

 俺もあれは忘れたいほど苦い思い出になっている。


 たしかあれは二回目に借りたエロゲーだったかな。桐野さんが強引に家に遊びに来て一緒にエロゲーを遊び、俺が操作した途端、主人公の性格が豹変したように暴れ始めた。


 そこから気まずくなってしまい、桐野さんはそのままエロゲーを忘れて帰ってしまったのだ。


「学校で返してくれればよかったのに」


「また一緒にやりたいなと思ってさ。できれば今度はクリアしたいから」


 ちなみに、俺と桐野さんは気軽に学校でゲームの貸し借りの話をしているが、勉強とは無関係のものを持ってくるのは校則違反である。


「暇だしユキユキの家に行こうかな。またコンビニで落ち合えばいい?」


 桐野さんがいつものような合流を訊いてきたが、俺はそれを首を振って否定した。


「ううん、今日は一緒に帰ろうよ」


「あれ、珍しいわね。ユキユキがそんなこと言うなんて」


 桐野さんと一緒に帰ったりすると、妬みや嫉みの視線が耐えきれなかったから断っていたが、もう俺はそんなの気にする必要ない。


 いや、気にならなくなったというべきだろうか。


「麻衣は誘ったの?」


「ううん、早瀬さんは誘ってないかな」


「そうなんだ。麻衣はエロゲーを誘ってもどうせ来ないか」


 もちろんそれもあるが、今日は早瀬さんがいるとダメな理由があるんだけどな。


 別に早瀬さんを仲間はずれにするつもりで誘わなかったわけじゃない。

 むしろ昨日、LINEで相談したときは「頑張って」と応援してくれたくらいだ。


「じゃあ、一緒に帰りましょう」


 二人して校舎から出ても俺の意識は隣に向いていて、やっぱり他人の視線は気にならなかった。


 家に向かう前に一度コンビニに立ち寄り、俺は二人分のアイスを買った。


「はい、これ」


 桐野さんにアイスを渡し、さっそくアイスに齧りつく俺をじっと見つめてくる眼差し。


 俺がアイスを美味しそうに食べているのを眺め、桐野さんはクスッと笑みをこぼす。


「ほんとユキユキは美味しそうに食べるわね」


「はは、そうかな」


 アイスが美味しいのはもちろんだけど、桐野さんと一緒に食べるのが好きなんだ。


 好きな人と下校を一緒にして、アイスを食べるだけのことがこんなに楽しいなんて知らなかったな。


 ずっとこうやっていられたら幸せだろうな。


 一つの覚悟を決めて誘った桐野さんとの家でのエロゲー。


 小さく拳を握り、震える身体を無理矢理抑える。


 俺は、もっと、もっとこうして二人で過ごしていたい。


 ならばやるべきことは、俺たちの関係を前に進めるしかないんだ。


「……よし!」


 聖地巡礼した日から決意を改めて確認し、顔を上げてもう一度小さく拳を握る。


 俺が自分の気持ちを再確認していると、いつのまにか我が家に到着していた。


 桐野さんを招き入れると、入ってすぐに家の中をキョロキョロと見渡し誰かを探すそぶりを見せる。


「今日は沙希ちゃんは?」


「まだ学校かな? 友達と遊びに行ってるのかも」


 玄関に沙希の靴もないし、もしかしたら遊びに行ったのかもしれない。


「なんだ残念」


 俺にとっては沙希がいないことは好都合なのだが、桐野さんは会いたかったようで残念そうに肩を落とした。


 部屋に案内すると、昨日のうちにセッティングしておいたローテーブルの前に座ると、隣に桐野さんが腰を落とす。


「それで、どうする? 前と同じようにユキユキが好きなように操作する?」


「ううん、できれば桐野さんに指示してほしいな」


「え、いいの?」


 前回、隣で口うるさく指示してしまったのを気にしているらしく、桐野さんが目を丸くして驚いた。


「俺が操作すると、また主人公が変になるかもしれないしね」


「よし、まかせて!」


 そうして始まった二人でのエロゲー。


「ユキユキ、そこの選択肢は『はい』を選んで」


「はいはい、こっちね。次の選択肢は?」


「そこも『はい』よ」


「オッケー。次はどっちを選んだらいい?」


「そこも『はい』で大丈夫。もうユキユキってば、なにも覚えてないじゃない!」


「わかった。……好きです」


「だからそこも『はい』だって、ば……。……え?」


「ん?」


「…………」


「…………」


「好きです、付き合ってください」


「………………はい」

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