第39話 写真
しっかりと目に焼き付け駅から出た俺たちは、改札から出た瞬間、驚嘆の声を上げてしまう。
「あー、凄い! ここもゲームとまったく一緒だわ!」
「おー、ほんとだ! 細部までそっくりなんだね!」
気付けば俺も桐野さんと同じテンションになり、エロゲーの作り込みの凄さに驚嘆の声を出していた。
駅前にある噴水が真ん中に設置された広場。ゲームではヒロインとデートするたびに映し出される場所でもある。
どのヒロインのルートでも、なぜかデートをすると主人公はここに来るので何度も目にすることになる。
「ここなら写真撮影しても大丈夫そうね」
桐野さんがスマホを構えて、人がいないタイミングを見計らって撮影を始める。
「ユキユキ、あたしを撮ってよ」
桐野さんが俺にスマホを渡し、そのまま広場の真ん中にある噴水まで小走りに近付いていく。
「いいわよー!」
右手で人差し指と親指を交差させてハートマークを作り、左手はピースサインを裏返して前に突き出してポーズをとる。
「……桐野さん、なんか違うくない?」
「? なにが?」
俺も詳しくないから説明しずらいんだけど、SNSを見ててその二つを組み合わせる人ってあんまりいないような……。
ピースサインを裏返のはギャルピースって言うんだっけ? それとハートマークを一緒にするのって普通なのか?
「ユキユキ、早く撮ってよー」
桐野さんに急かされたので、とりあえずスマホを構えた。
まあどうでもいいか。別にこの写真は個人で楽しむだけなんだし、ポーズなんて人それぞれだしな。
「…………」
「ユキユキ―? まだー?」
「あ、ごめん!」
俺はスマホを構えたまま呆然としてしまっていた。
改めてスマホを覗き込み、カメラ越しに桐野さんを見つめる。
うん、やっぱり綺麗だ……。
こちらに向かって笑顔を向けてくれる桐野さんの姿が美しすぎて、思わず見惚れていたなんて口が裂けても言えない。
画面をタップして、その美しさをスマホに収めたの確認したあと、俺は桐野さんに向かって手を振った。
「撮ったよ」
スマホを返すと、桐野さんはさきほど撮った写真を見返して満足そうに頷いた。
「ユキユキ撮らないの? あたしが撮ってあげるわよ」
「俺は大丈夫かな」
どうせ撮っても見返すこともないだろうし。
「あ、そう」
俺が撮らないことに若干の不満があるのか、桐野さんは唇を少しとがらせて短く返事した。
次に向かったのは、主人公がメインヒロインに告白する場所でもある長い坂道。
ここでも駅前と同じように桐野さんは俺にスマホを渡し、違和感のあるポーズをした彼女を撮影した。
「ユキユキはまた撮らないの?」
スマホを桐野さんに返すと、そんなことを訊かれた。
「うん。どうせ撮っても見返さないし、俺は大丈夫かな」
「勿体ないわよ! 記念にもなるし、ユキユキも撮ったほうがいいわよ!」
「うーん……」
桐野さんの言うこともわかる。今は見返さないと思っていても、後で見返したいと考え直したときにはもう遅く、そのときは後悔するだろうから。
かといって、一人で写真を撮るのは陰キャの俺には辛いというか恥ずかしというか。
渋っている俺に業を煮やしたのか、突然ぐいっと腕を掴み、引っ張られてしまう。
なにかと思えば、桐野さんが俺と腕を絡めてきた。
「ほら、あたしも一緒に撮ってあげるから」
想い人が急に接近してきて、腕から伝わる柔らかい感触やら風に乗った髪の匂いが鼻腔をくすぐり、早鐘を打ち始めた心臓の音が隣にまで聞こえるのではと内心焦り始める。
緊張と恥ずかしさで無意識に距離を取ろうとする俺を桐野さんが阻止してきた。
「どこ行くのよ。もっと近付かないと一緒に写らないでしょ」
頬がくっつきそうなほどに身体をピッタリと密着させた桐野さんの腕の先にはスマホが握られていて、画面には信じられないくらい緊張で顔面を引き攣らせた俺と、ハートマークを片手で作り満面の笑顔を浮かべる桐野さんが写っていた。
カシャっという軽い電子音が響き、桐野さんのスマホに写真が保存された。
「うん、イイ感じじゃん! ユキユキにも送るわね」
LINEを開くと、桐野さんから写真が送られていた。
客観的に見ても俺の表情は酷く、とてもじゃないがイイ感じとは思えなかった。
女性と腕を組んで緊張している姿がありありと見え、笑ってしまうくらい不細工な男と、自然な笑顔を浮かべた天使のような女性が一枚の写真に収まっている。
もしかしたら他人からすれば消してしまいたくなるくらいなほど酷いかもしれないが、俺はこの写真がとても気に入り、ホーム画面に設定したくなるほど大事に感じた。




