第31話 早瀬さんとデート?
逃げるように家を出た俺は、待ち合わせ場所である駅前に向かっていた。
沙希のワガママには困ったものだ。とりあえず機嫌を直すために、家に帰るときはアイスかなにか買ってやろう。
早瀬さんが教えてくれた店の場所は都心とは反対の郊外にあるようで、ここから電車で三十分ほどかかる。
駅名を聞いてもどこにあるかもわからないような、もしかしたら今後二度と寄ることもないだろう駅に今から向かう。
まさに穴場。
誰もそんなところに幻のエロゲーが売ってるとは思いもよらない。
まずは駅前で早瀬さんと落ち合い、そこから一緒に店の最寄り駅まで行く予定だ。
今日も今日とて休み知らずの夏の暑さの中、早瀬さんを待たせるわけにはいかないので、待ち合わせ時間の十五分前に着くように出発した。
駅前に着いた俺は、とりあえず広場のベンチに座りながら待つことに。
一つ懸念点がある。
それは早瀬さんがどんな服装を着てくるかということ。
俺は気合を入れて、この間買ったばかりの服でピシッと決めてきているが、もしかしたら早瀬さんはラフな恰好で来るかもしれない。
それはそれで良いのだが、一番の懸念は制服姿で来る可能性がある。
早瀬さんの私服姿なんて想像つかない。
俺が言うのもアレなんだが、あんまりファッションとか興味がなさそうなイメージ。
早瀬さんは制服姿なのに、俺だけが気合を入れた服装を見たら「なにこいつ、キモ……」なんて思われかねない。
やっぱり安定のボーダーで来るべきたったか……?
俺がそんな不安を募らせながら地面を凝視していると、聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。
「ユキ、早いね。お待たせ」
身体を強張らせ、顔を上げた俺の視線の先で温和な笑顔を浮かべているのは、ノースリーブの白いワンピースを身に纏った早瀬さんがいた。
いつもの、学校で見かけるのとは全く違う印象に、言葉を失ってしまう俺。
「…………」
「ユキ?」
ふわりと風が舞い、早瀬さんの髪が軽く揺れる。
早瀬さんは髪を抑えながら声をかけ、その仕草や容姿に一瞬呼吸を忘れるほど見惚れていた俺は、ようやく現実に引き戻された。
「ユキ、オシャレなんだね。最初誰かわからなかった」
早瀬さんが社交辞令で褒めてくれるが、俺のほうはそんなの抜きで、というか今でも目の前にいるのがいつも学校で話している人と一致できないほど印象が違う。
触れれば壊れてしまいそうな儚さと神秘性を兼ね備え、それはまるでどこかの深窓の令嬢を彷彿させる。
「早瀬さんも、その……、凄いオシャレだね。よく似合ってるよ」
俺が掛け値なしに絶賛すると、顔を赤くした早瀬さんが少し恥ずかしそうにうつむく。
「……ありがとう」
右手で左の二の腕を握りながら、ボソッと呟いた。
「…………」
「…………」
二人して黙ってしまった。
いたたまれない沈黙が横たわってしまい、気まずさから俺は少し声を張り上げて駅を指差した。
「ほ、ほら、早く行かないと売れちゃうから、早速向かおうよ!」
早瀬さんも居心地が悪かったのだろう、すんなり俺の隣に並んで一緒に駅に入っていく。
向かいのホームが人々で賑わっているのとは対照的に、俺と早瀬さんが立っているホームはシーンッと静まり返っていた。
そりゃそうだ。
休日に、都心と反対の郊外に行くような人なんてあんまりいない。
なので、ホームに滑り込んだ電車に乗ったときも乗客はまばらにしか乗っておらず、自由に座りたい放題だった。
窓から覗く景色が、どんどんと単調になっていく。
早瀬さんと肩を並べて座り、冷房が効いた電車に揺られること数分。
ふいに、肩に重みが。
早瀬さんが目をつむって顔を寄せていた。
安心しきった表情で、可愛らしい寝息を立てる彼女が可愛らしくて頬が緩んでしまう。
もしかしたらいつもならまだ寝ている時間なのに、俺のために早起きしてくれたのかもしれない。
なるべく早瀬さんを起こさないようにするため、俺は車窓から流れる風景を最寄りの駅に着くまでただじっと眺め続けた。




