第28話 二十万以上
久しぶりに昼休みに三人で体育館裏に集まったような気がする。
危うく桐野さんはクラスメイトと昼ご飯を食べに行くところを早瀬さんが声をかけ、こちらに引っ張ってきてもらった。
無理矢理ではなかったのだが、早瀬さんが声をかけるとクラスメイトは「早瀬さんと食べるなら仕方ないっか」とあっさり引き下がる。
もちろん誘った理由は桐野さんに俺のことをどう思っているか聞くためだ。
俺の隣では、早瀬さんと桐野さんが他愛無い話で花を咲かせている。
特に興味もないといったようすで俺は空を眺めつつ、耳だけはしっかりと二人の話に意識を向けた。
早瀬さんは「まかせて」と自信満々に応えていたが、一体どうやって聞くつもりなのか。
「真理愛、最近はクラスメイトと仲が良いね」
いきなり核心を突いてしまうと俺が好いてることが桐野さんに伝わってしまうため、早瀬さんがジャブとして切り出した。
「そうね、よく誘われるようになったわ。麻衣が一人になっちゃうかもって心配してたけど、そっちはユキユキと仲良くしてそうだし」
「うん。ユキと食べるのは楽しい」
「ふーん、よかったじゃん」
「…………」
「…………」
あれ、会話終了しちゃった?
おかしいな、いつもは傍から見てる感じだと、二人の会話はもっと盛り上がってそうに感じなのに。
よくわからないけど気まずい空気が訪れた。
俺はどうしていいかわからず、会話に参加していないのに額からじわりと冷や汗が浮かんできた。
空気を破ったのは早瀬さんだった。
「真理愛は、ユキのこと好き?」
「「は?」」
思わず俺と桐野さんの言葉が重なる。
いやいや、ちょっと気まずい空気にはなっていたけど、もうちょっとこう遠回りして聞こうよ! 核心を突きすぎだ!
「真理愛は、ユキのこと好き?」
なぜか早瀬さんは二回続けて同じこと聞き始める。
俺は耳を傾けているだけなのに、下手くそな話題の変更の仕方に汗をだくだくとかきはじめる。
桐野さんが唐突な質問に困惑して頬を掻いている。
「え、と……それは友達としてって意味よね?」
「友達としてじゃなくて、だん……モガモガ」
「そう! 友達としてって意味だね!」
口を滑らせようとする早瀬さんの口を、俺は慌てて手で塞いだ。
会話下手か! そんな聞き方だと俺の気持ちが桐野さんに伝わっちゃうじゃん!
早瀬さんにまかせたの失敗だったかもしれない、と早々に後悔し始めてしまう。
「そりゃもちろん好きよ。じゃなきゃ喋ったりしないわよ」
桐野さん言葉に、俺は少し安心した。
ここで友達としても嫌いだなんて言われたら、人として嫌われているってことだから恋人なんて夢のまた夢だからな。
早瀬さんが俺の手から逃れてさらに質問を続ける。
「真理愛はどういう男性がタイプ?」
「どしたの麻衣? さっきから変な質問ばっかりするけど」
「気になって」
「うーん、そうね……、エロゲーみたいな主人公の人が好きかな」
早瀬さんが「ほら、言ったとおり」と言いたげなドヤ顔で俺を見てきた。
まじか、この人……。
好きな男性のタイプを聞かれて、そんな風に答える人がいるんだな。
桐野さんの頭の中を覗いたら、ピンク色に染まってるんじゃないか。
「ユキユキは、最近エロゲーやった?」
今度は桐野さんが俺に訊ねてきた。
「やったけど、初心者の俺はきつかったかな」
俺が最近やった三角関係のエロゲーのタイトルを告げると、桐野さんが察したように憐みの目を向ける。
「あー、あれね。あれは初心者は手を出しちゃだめよ。あたしでも心を痛かったくらいだし」
やっぱりそうなんだ。色々なタイトルに手を出している桐野さんですら、辛かったようだし俺には早すぎたんだな。
「桐野さんがまだやってないエロゲーとかあるの?」
俺だってちょくちょくやり始めたけど、その全てのタイトルをすでに桐野さんはプレイしていた。
こうなってくると、桐野さんがいまだやっていないゲームが気になる。
「それはもちろんあるわよ。どうしてもやりたいんだけど、まだ手を出してないゲームが」
「へー、なんでそれはプレイしないの?」
桐野さんならなにがなんでもそのエロゲーを遊んでそうなのに。
俺が何気なく訊ねてみると、桐野さんが肩を竦める。
「だって高すぎるんだもん」
「いくらするの?」
「二十万以上」
あまりの金額に目が飛び出るかと思った。
たしかにそんな値段なら、いくら桐野さんでも手が出せないのは納得できる。
しかしいくらなんでもゲームに二十万以上の値段は高すぎる。メーカーはなにを考えてそんな値段にしたのか。
俺の疑問に、桐野さんが説明してくれた。
「開発メーカーが倒産しちゃって再販が難しいんだって。だから中古でしか売られてないんだけど、出荷本数が少なかったこともあって持ってる人もあんまりいないみたいで、値段が高騰してるみたい」
なるほど、メーカーが値段を決めてるんじゃなくて、中古価格での値段でそうなってしまってるのか。
「一度はやってみたいんだけどね。こればっかりはどうしようもないわ」
諦めたような自嘲した笑みをこぼす桐野さん。
その笑顔が少し寂しそうに思えて、俺はなんとか力を貸してあげたいと願うも、さすがに二十万もの大金を持ってるわけもなく、桐野さんの力ない笑みを眺めるしかできなかった。




