第27話 相談
桐野さんのことを好きになって気付いたことがある。
それは、彼女が相当モテるということ。それも想像以上に。
誇張抜きで、クラスメイトの男子の半数は桐野さんに惚れているんじゃないだろうか。
うち一人は俺なんだけど。
なぜわかるかっていうと、桐野さんの追う視線が多いこと多いこと。
俺は真後ろの席だから、授業中に教室内を見渡すことができるのだが、チラチラと男子の視線が桐野さんに注がれている。
そのたびに彼氏でもなんでもないのに嫉妬に駆られてしまうのは自分でもキモイと思うのだが、好きな女性が他の男性から好意を寄せられているのを見たら仕方ないじゃない?
ブロンドの髪が太陽を反射してキラキラと光り輝き、淡いブルーの瞳で見つめられて恋に落ちない男性なんているのか。
しかも学業優秀で性格は明るく、スタイルも良いとか非の打ち所がない。
うん、俺も恋に落ちても仕方ないのだ。
仕方ないのだが、果たしてそんな女性と俺は釣り合っているか。
学業も普通で、容姿も特別秀でてない陰キャボッチと校内二大美少女の桐野さんとでは美女と野獣も良いとこ。
「ユキ、真理愛のこと見すぎ」
校内二大美少女のもう一人がそんな苦言を呈してきた。
俺と早瀬さんは学校終わりに駅前の喫茶店に立ち寄っていて、向かいに座った彼女はコーヒーを飲んでいる。
「俺、そんなに桐野さんのこと見てる?」
「うん、ずっと見てる」
気付かなかった。
極力桐野さんを見ないようにしていたつもりだったのに、いつのまにか視線は彼女を追っていたようだ。
これが恋するということなのか、知らなかった。
「俺全然気付かなかったけど、桐野さんって相当モテるんだね」
暗澹たる気持ちに、俺は思わずテーブルに突っ伏してしまう。
「真理愛、この間も告白されてた。もちろん振ってたけど、これで同級生はほぼ振ったと思う」
早瀬さんはコーヒーを置いて、俺の髪を指先で弄りながら桐野さんがどれだけモテるか説明しだした。
「桐野さんって誰かと付き合ったことあるの?」
「わたしが知る限りだと無い」
それを知って、なぜかよくわからないけどホッとする自分がいる。
「ちなみにわたしも付き合ったことないよ」
聞いてもいないのに、早瀬さんの交際経験を教えてもらった。
早瀬さんは変わらず、俺の髪をクルクルと巻いたり撫でたりと遊んでいる。
「そうなんだ。早瀬さんもモテそうだから意外」
「うん。告白された回数も知りたい?」
「特には」
俺が断った瞬間、ブチッとした音が内側から聞こえ、針で刺されたような痛みが後頭部を襲う。
咄嗟に後頭部を抑えながら身体を起こすと、早瀬さんの指には数本の髪の毛が掴まれていた。
「白髪」
たしかに早瀬さんの言うとおり、抜き取られた数本の黒い髪のうち、一本だけ白い毛が混じっている。
抜いてくれたのはありがたいけど、白髪だけ抜いてほしかった。
相変わらず行動が変わっていて理解できない。
俺は嘆息して話を続ける。
「桐野さんってどういう男性がタイプとか知ってる?」
「エロゲーの主人公とか好きだよ」
「それは好きな男性のタイプとは言わないよ……」
「でも真理愛が現実の男性を好きになったことないと思う」
桐野さんならありそうで怖い……。
口を開けばエロゲーのことしか話題にしないから、本当に男性を好きになったことがないんじゃないかと不安に思ってしまう。
さすがに小学生とか幼稚園のときくらいは初恋を経験したことはあるよな……?
出口のない迷路に迷い込んだ心境に陥り、思わず俺は愚痴を吐いてしまう。
「俺じゃあやっぱり桐野さんとは不釣り合いなのかな」
「そんことない」
早瀬さんは即座に否定してくれるも、やはり俺の心は晴れない。
いまだ鬱々とした表情をさせる俺に、早瀬さんは安心させるように笑顔を浮かべてくれる。
「ユキはとても素敵な男性だよ。ユキのことを好きになってくれる女性もいるから、真理愛もきっと好きになってくれるよ」
「俺のことを好きになってくれる女性なんているかな……?」
「うん、いる。それは断言できる」
告白されたこともない俺からしたらどうにも疑ってしまう言葉だが、早瀬さんは自信があるのか断言までしてくれた。
本当に俺のことが好きと言ってくれる女性がいるなら、目の前に連れてきてほしいくらいだ。
俺は懐疑的な視線を向けるも、早瀬さんはマイペースにコーヒーを飲みだす。
俺の視線なんてどこ吹く風とコーヒーを飲んでいた早瀬さんがカップを置いて、「それで?」と続きを促してくる。
「ユキがわたしをここに呼んだのはなにか手伝ってほしいからだよね?」
「ああ、うん。早瀬さんには、桐野さんが俺のことをどう思っているかそれとなく聞いてみてほしいんだ」
「わかった、聞いてみる。聞くまでもないと思うけど」
「聞くまでもない?」
「うん。真理愛もきっとユキのことは好意的に思ってるよ」
「うーん……」
それはたぶん、俺が望んでいる好意とは違うような気がするけど。
唸っている俺に、早瀬さんは親指を立てて突き出してきた。
「まかせて」




